霧の中の証言
元輸送会社役員の車が見つかった場所では、近隣住民の聞き取りが続いていた。朝霧の深い道で、通った車の色さえ確かには見えない。アンリは無理に答えを求めず、誰がいつ何を見たかを整理した。
ある住民は黒い車を見たという。別の住民は濃い青だったと話した。映像の残る店はなく、近くの道路工事で一時的に交通が迂回していた。
昼頃、捜索隊が川沿いを歩いた。男の足跡らしいものは見つかったが、雨で形が崩れている。法医学の担当者は断定できないと言った。
夕方、妻が署を訪ねた。夫の健康状態を気にし、見つかったらすぐ連絡してほしいと頼んだ。
アンリは約束できることを伝えた。失踪が犯罪に関係しているかどうか、それさえまだ分からない。
失踪した男の妻は、夫が古い仕事について誰かと会う約束をしていたか尋ねられた。記憶をたどっても分からず、ただ数日前から引き出しを整理していたと答えた。アンリは家宅内の捜索について同意と必要な手続きを確かめ、机の中の封筒を確認した。封筒には未投函の手紙があり、差出人は夫、宛先は昔の同僚だった。内容は近況の挨拶だけで、秘密を告発する文面ではない。捜査官は家族に返却できるものを選び、記録に残した。消防団が捜索から戻ると、温かい食事が用意されていた。男をよく知らない若者も協力していた。失踪した人間を見つける仕事は、噂より先に今日の命を考える仕事だった。妻は帰り際、夫の手袋だけでも見つかればと小さな声で言った。 警察犬は川沿いの道を確かめていた。
夜、捜索は安全のため一時中断された。霧の向こうで車の灯りが点滅していた。




