最後の配達区
リュックは郵便局の再編で担当区域を替わることになった。山沿いの古い村は別の配達員が受け持つ。最後の日、住民たちは感謝の言葉と手作りの菓子を渡してくれた。
屋敷の私道につながる集配箱には、長い間ほとんど郵便が来ていない。ところが最近、首都からの書留が一通届いた。受け取ったのは管理会社の代理人で、署名には個人名ではなく法人名が記されていた。
リュックは手続きの違いが気になり、上司へ確認した。受領記録は正しく保存されていると分かり、彼はそれ以上踏み込まなかった。
午後、引き継ぎ先の配達員と走路を回った。急な坂道では雨の日に滑りやすいこと、独り暮らしの老人には荷物を玄関まで運んであげること。伝えるべきことは多い。
新しい配達員は山道を走りながら、リュックが作った手書きの地図を見た。雨の日にぬかるむ場所や、玄関まで歩く必要がある家には小さな印が付いている。リュックは屋敷へ続く私道について、立ち入らない場所だとだけ説明した。後日、郵便局の上司から古い書留の受領確認について問い合わせがあった。記録に法人名しか残らないのは珍しくないが、代理権を示す書類が必要だったという。リュックは保管先を伝え、担当を離れた。夕方、村の老人から新しい配達員へ感謝の手紙が届いた。二人の名前が並んだその紙を見て、リュックは少し笑った。仕事は誰かに受け継がれる。秘密もまた、同じように渡されるものなのかと考えた。
最後に屋敷の前を通ったとき、門は閉まっていた。誰かが中にいたとしても、郵便を届ける人間の仕事が変わるわけではなかった。




