時計の針の裏
首都の会館で働く書記は、名誉職の承認に使われた古い印影を探していた。資料を整理するうち、承認を求める書類と、承認が不要とされる書類があると気づいた。後者には「定例支出」の文字が付いている。
その日、施設の維持費について議論があった。清掃員の契約を打ち切る案に、職員の代表が反対した。書記も必要な作業量を説明し、再検討が決まった。
会議の後、議長が声を掛けた。「古い印のことは、急いで調べなくてもいい」
「監査で必要だと言われています」
議長は小さくうなずき、それ以上何も言わなかった。
夜、書記は会館の時計を止めて点検する職人を見た。何十年も同じ場所で動いていた時計も、部品を替えなければ止まる。
会館の時計職人は、最後の大修理の書類を整理していた。部品を届けた運送会社はすでに廃業し、受け取った職員も退職している。書記が尋ねると、職人は修理当時の会議を覚えていないと答えた。時間だけを合わせに来たのだから当然だ。議長は名誉職の承認手続きについて話題を変えたがった。若い書記は無理に追及せず、議事録に質問と回答を残した。夜、清掃員の一人が契約の更新を心配して相談に来た。書記は職員代表の窓口を教え、翌朝の会議室予約を済ませた。古い時計が時を刻む音は廊下まで聞こえた。どんな権限を持つ人間も、会議の予定を永遠には止められない。 書記は時刻を確認し、承認欄には誰の名前も書き足さなかった。
資料の中で最後に正式な承認者名が書かれていた年は、会館の時計が一度大修理された年と一致していた。偶然に意味を与えぬよう、彼は日付だけを控えた。




