二通の署名
アルマンのもとに屋敷の委任状について返答があった。私道の工事許可を得るための代理権は有効と確認された。ただし古い承認欄の署名者は、委任状の差出人とは別人だという。
彼は契約当時の理事会名簿を照合した。同じ姓の人物が何人もおり、相続による交代もあった。名前だけでは判断できない。
午後、町の老人会から遺言講座を頼まれた。アルマンは事務所を離れ、分かりやすい例を用いて財産の残し方を説明した。講座の後、何人もの人が家族との難しい話を相談してきた。
帰宅してから資料を開くと、委任状の添付書類に「第二承認者」という欄があるのを見つけた。長く空白だった役職とは別のものらしい。
補助員が探し出した規約の改正記録には、第二承認者の役割が以前より狭められたと書かれていた。以前は保管物の移送と財産処分を認める立場だったが、現在は会計監査にだけ関与する。アルマンは改正の経緯を確認し、いずれの承認も本人の署名が必要だったか調べた。実務では代理人が手続きをしていた可能性もある。昼休み、事務所の古い複写機が故障し、補助員が近くの印刷店へ走った。仕事を進めるための機械にさえ、手入れが要る。夜、アルマンは年代順に並んだ書類を見て、同じ姓が違う意味で何度も現れていることに気づいた。家族の名と役職の名を混同すれば、確かめたものまで曖昧になるだろう。 補助員は名簿の綴じ糸を新しく替え、書架へそっと戻した。誰かの署名があるからといって、その家族の全てが分かるわけではなかった。
補助員は翌朝、失効した規約の改正記録を探すことになった。アルマンは窓を閉め、街灯のついた通りを見た。




