川沿いの市場
ヴァルノワでは川沿いの市場が再開された。昨年の増水で一部の店が閉じ、通路の補修に時間がかかった。ナディアは再開を取材し、商店の人々がどこで営業を続けたかを聞いた。
ローズは花の苗を買いに来た。久しぶりに賑やかな場所へ出たという。ナディアが話しかけると、ローズは孫の近況を嬉しそうに話した。
「クレールさんのことは」
「分からないわ。でも、帰ってこられる場所は残しておきたいの」
ナディアはそれ以上尋ねなかった。
編集部へ戻ると、信託の寄付契約の記事について校閲から質問が来ていた。寄付が減った理由を、疑惑だけで説明することはできない。ナディアは記事を直し、礼拝堂が屋根の修繕費を探している事情を加えた。
川のそばでは、数年前の水害で家を失った人々が記念の植樹をしていた。苗木の根元に名札を付け、将来この場所で子どもたちが遊べるよう願ったという。ナディアはその話を記事の中心に据えた。編集長は信託についての調査報道を進める一方、町が穏やかに戻る様子も伝えてほしいと言った。ローズは植樹に加わり、土を足すのを手伝った。帰り道、彼女はルカの墓へ向かうジュリアンを見かけた。二人は短く挨拶しただけで、それぞれの道を歩いた。川沿いの市場には新しい店も入り、空いていた角の場所では若者がパンを焼き始めていた。古い店が消える悲しさと、新しい店が生まれる喜びが、同じ道に並んでいた。 店先では小さな風鈴が鳴り、子どもたちが立ち止まっていた。
窓の外で市場の片づけが進み、川には夕日の光が流れていた。町は日々、事件とは別の理由でも変わっていた。




