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ぬば玉  作者: しんげつ
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九、準備

豊祈祭は水が朝凍らなくなる時期に準備する。

梅の花が咲く頃が1番わかりやすい。

器も、稚児が踊る衣も全て新調して臨む。


天帝が御山の麓にある月の根国の水の里に行幸して、

御山の麓で行うのが現天帝の最近の習慣になっていた。


天帝といえども男禁の御山に登ることはできなかった。

御山は天狗と呼ばれる行者達に守られていた。

行者は男扱いしないらしい。


凛は踊りを捧げる里の子らと衣を作っていた。

布は月の根国の王庭から下賜される。

普段は着られない絹と肌触りの良い木綿に色は草花でつける。


染める布を平な石の上に貼り

穀物の糊や豆汁を混ぜる。今、仕上げているのは発色の良いツキクサの花で、

空の色をだと思っている。


凛の髪は三色の色のうち、白い部分を特に黒く染めていた。黒は丸い玉になっている

木の実で、近くの日当たりの良いところで育てて、時々左衣と取りに行っていた。


三毛であることは、とにかく秘密にしろと言われて育ってきた。

忌むものではなく、敬意を払うものらしいが、

本来、水の里ではなく、王廷の神祇家の血縁者のみに出現すると聞かされている。

稀有であり、

隠した方が良いならば、隠せば良いのだと言われて来た。


まだ水が冷たい時期で、しばらくすると手が動かないほどに冷えてくる。

けれど、もうすぐ舞の奉納の春が来るのを身体が覚えていて、

何だか嬉しくなるのだ。

凛が最後の布を掬い上げて、川から上がると、


「昨日の行者はどうなった?」

歳上の真角が聞いた。

昨日は大騒ぎで、川に流れ着いた行者を凛達の住む館へ運び込んだ

とと様はお館様と呼ばれる里長だった。

「夜に熱が出たけど、今朝は落ち着いてた。」

出てくる時は寝息を立てていたから、左衣と安堵してからこちらへ来た。


「あら、まあ。」

隣で布を広げていた真角が、川沿いを馬が走っていくのを目でおいかけている。

「知り合い?」と聞いた。


「え?相生様よ。」真角が知らないの?と言う顔をした。

「相生様って?」

「宰相様の克勝様のお子よ。」

「ああ、宰相様の。克勝様はお館にも時々いらっしゃることがあるからわかるけど、

 相生様は直接お会いしたことないのよね。」


「って。真角?」

うっとりと見つめている真角に声をかける。


「ん?ああ。素敵よねえ。」

「え?ああいうのが好みなの?」

「え?凛は違うの?」

反対にいた梶野が聞く。


「っえ?えええー?」

周りを見るとみんなの目が馬を追いかけて見ている。


「だって、馬に颯爽と乗って、いつもピシッとしてて、

 次期宰相さまよ。」

「背も高くて素敵。どうして本妻の方がいないのかしら。

理想の方がいらっしゃるのかしら。」


「ええ?この前はカラ様が良いって言ってなかった?」

里の少し離れたところにいる綺麗な白髪を持つ一族だった。

「えーーカラ様?

なんか時々近寄りがたい。」

「そう?」

「カラ様も素敵だけど相生様はもっとしびれるわあ。」

「きゃあ」

皆、夢中になっている

周りの賑やかさをよそに、

凛は、

お館にいらっしゃるわよね。

と考えていた。


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