十、碧玉
館に戻ると、外に馬が繋がれているのが見えた。
台所側から館に入ると、左衣が
「おかえり。中食と薬を持っていって。熱が下がってるみたいなの。」と凛に盆ごと渡した。
部屋まで来ると部屋の扉が開いていて、盆を手にしたまま覗く。
行者の男は凛を見た。
やっぱり助けてくれた人だ。
思ったより若そうだった。
「もう大丈夫なの?」と聞く。
「ああ。大分息がし易い。」と言い、少し微笑む。
ひょっとしたら凛の同じくらいの歳かも知れないと思う。
髪の色は黒かったが、肌が抜ける様に白い。
行者ではあり得ない白さだ。
不意に行者が言う。
「お前の髪の色はかわっているな。」
凛はぎくりとした。
まだこの男に数回しか会ったことしかない。
変わってるかな?そんなことは無いよ。
一昨日、染めたばかりだから、大体は黒髪のはずだ。
「光に当たると色が変わる。」
益々、体が固くなった。
固まった凛を他所に、男は体を動かそうとした。
「う。」
体を起こそうとすると痛いらしい。
凛は近づいて薬湯を盆ごと差し出した。
「良く聞くよ。秘伝だから。
苦いけど。」
「ああ。天狗もこんな薬を飲ませる。」
天狗の里は御山にあって、斎宮を守っている。
里の者は水の里に降りてくる時は大抵面をしているから
どんな顔か想像でしか知らなかった。
ちゃんと人だな。と思った。
「あなたの名は?」
「碧だ。」
「私は凛よ。りん。」
「彼国の文字ではこう書くの。あおいは文字ある?」
「ああ。色の碧だ。」
空で描く。
「玉の色と同じね。」
と首にかかっている飾り玉の碧玉を見て言う。
「そうだな。」
「変わってるよね。その首飾り。」
これか?左手で飾りを待ち上げた。
うん。丸い碧玉はあんまり見ないのよ。大抵は管玉にするから。
凛は玉の工房の様子を思い描いた。
「何処から?天狗の里にも玉造集団が居るの?」
「いいや。大抵は自分たちで削って作るが、確かに
こんなに大きい色玉はあまり見ないな。御山には。」
「だよね。」近づいてまじまじとみる。
「横は瑪瑙だよね。」
「ああ、これと水晶は御山で取れるからな。」と言う。
ガタっと音がして扉を見ると
とと様の横に先ほど宰相の息子と騒がれていた相生と片膝をついた面を付けた男が居た。
「碧殿か?」と相生が聞いた。確認する様な間合いだ。
そうだが?
と碧は言うと、横にいる面を付けた男を見た。
表情は面で読み取れないが、碧の方は明らかに知り合いを見ている様だ。
それを感じたのか相生は
「いや。俺は昔の知り合いだ。碧殿は知らんとは思う。」
と言った。
凛はは宰相の息子である相生が碧を知っていることに驚いた。
碧もよく分からないと言った風情で、面の男は動かない。
とと様が口を割った。
「赤子の頃を知っていると言うことだよ。」
とと様の雰囲気は穏やかで、その場の居心地の悪さを一掃した。




