七十ニ、探す
天竺屋はカラという銀髪の男を探していた。
正しくは緑と灰色の眼を持つ男だった。
彼国の北西の方角で生まれやすいと聞いている色違いの眼をだった。
此の国は彼国から見ると東だから、かなり遠くまでやってきたものだと、
思っている。自分も彼国から見たらかなり南からやってきたから
人のことはいえないが、それにしても珍しい眼だ。
直ぐ捕まえられると思ったが、現れては直ぐにどこかに消えてしまう
雲を掴むような男だった。
けれども、灰族の情報が欲しかった。
配下の草の根に探させていたが、
珍しく3日ほど連絡が途絶えていた。
まさか、殺されてはいないだろうが、いつもより落ち着かない。
壁についている彼国の暦をみる。月の満ち欠けを元に作っているらしい。
天府もそろそろ暦をどうにかしてはどうかと思う。
帝は天命を聞き、それを統べるものとして
玉座にいられるのだ。
天の動きを常に見ている、大国の彼国は、暦が発達している。
彼国と海を隔てている此の国は、どこかのんびりしているとしか
言いようがなかった。
コンコン。
小さく扉を叩く音がする。
「入れ。」扉に向かって言うと、
ほおかむりをした草の根の一人が、扉を少し開けて滑り入った。
「おお。見つかったか!」
つい笑顔になって、声が裏返った。
「はい。」
ほおかむりの男が後ろを振り返ると、
銀髪の男が続けて入ってきた。
天竺屋は満足そうに頷く。
「久しぶりだな。天竺屋。」
ニヤリと笑ったその顔に向かって
「お待ちしておりました」という。
草たちよりひと頭抜けている身長の男に
「手荒な真似をしておりませんかな?」と聞くと
「ああ。皆行き届いているな。」そういうと
銀髪の前に手を挙げて、手首に巻かれた縄を見せた。
「こ、これは失礼を。お取りしろ。」
草の根たちに声をかけると、
最初に入ってきた男が、慌てて小刀で縄を切り落とした。
銀髪の男は、縄が切れると、一歩踏み出して、
「さて、話しを聞こうか!」
自由になった手首を振り、横にある椅子にこしかける。
天竺屋は、
「下がれ。」と草の根に命じ、
「ご無礼を。」と拝礼し、近づいた。
「まあお互い様だ。商船に載せてくれた恩は忘れていないからな。
それで?連行してまで俺に何が聞きたい?」
背の低い天竺屋を椅子から見上げるように聞いた。
外からの光が緑の方の眼を反射して、少し近づき難さを感じながら、
核心を聞いてみる。
「それは、カラ様は鉄の作り方をご存知んじかどうか。
で、ございます。」
カラは無表情で、問いに驚いているのか、全くわからなかった。
「鉄か。。。
作り方は見た事があるが作った事はない。」
「それでは私と同じ知識で御座いましょう。」欲しいのは、もっと奥の情報だ。
天竺屋の方に、目で頷くとカラは続けた。
「最初に見たのは、海を渡った時だ。壱の島から那国へ渡った。
彼国の支配下ではないな。天府の支配がまだある地区だ。
そこで、砂から鉄を作っていたな。
砂の他に、石からも鉄が作れる。彼国では石を潰して作っていたはずだ。
最近、彼の国は戦乱と聞く。南下してくるのはどの国か知らないが、
逃げてくるものがいるはずだ。そのもの達に作り方は聞くしかないな。
問題は此の国で、鉄を生み出す砂や石が採れるかどうかだ。」
天竺屋は、カラのさすがの博識に、口笛を吹きたくなった。
「採れるのを見た事はございますか?」
「どうだろうか?どれが鉄を含む砂か石かは見かけではわからないな俺は。」
「なるほど。」天竺屋はカラの目をじっと見ている。
「鉄は何に使うのか?」
「もちろん道具を作ります。」
「殺傷能力が高いな。」
「そうでございます。もちろん農機具にとっては
石や青銅より鋭利なのは土壌を作るのに適しているでしょうが。」
「まあな。船で運ぶのではなく此の国で地を削って作るのだな。」
目を細めて天竺屋は微笑む。
「鉄は巨万の富を産みます。」
「鉄の採掘は人間がやるには大変だと思うが。」
カラらしくない受け身の反応だった。
「またご冗談ですか。銅は銅山から鉄は鉄山からとるのでございます。
その源があれば、何処でも参りますよ私は。」
カラはため気まじりに
「生粋の商人だな。芯から。」と言って苦笑した。
「お褒めの言葉と致します。
ところで、カラ様。
灰族と繋がりはございますか。」
「灰族?歌仙山の向こうのか?
特には無いが?」
天竺屋は大きく頷き、
「では歌仙山の向こうへ行った事はございますか?」
カラは意図が読めずに黙した。
「歌仙山の向こうは天竺屋の領域ではございませんので。」
また更に目を細めて微笑む。
カラはふと目線を外して、外を見た。
「昔、まだ子供の時分に、迷い込んだ事はある。」
「おお!ございますか!」
前のめりの天竺屋を左手で制して、
「迷い込んだだけだ。ただ、生きて帰って来れた、それだけだがな。」
期待はするなという口調だった。
「おいくつの時でございますか?」
「子供の時だ。彼国へ行く前なのは確かだが。
月の根国はまだ、先王の時代だったはずだ。」
「ふむ。現在の王は垓月王。
先代は、柳月様ですな。垓月様が王になられたのは
確か十歳は越えられていたはず。カラ様が彼国に渡ったのは?」
「箒星が来た年だ。」
「ああ、流れ星の?」
「そうだな。他には。。。。」少し戸惑った様に見えたカラは
「うむ。少し考えてみよう。」と言った。
「いえ。だいたいの時で良いのでございます。
奥深くまで迷われましたか?捉えられた事は?」
矢継ぎ早に問いかける。
「捉えられてはいないな。」
「お連れ様は?」
カラは、ほおに当てていた手を外して肘の前で手を重ねた。
「一緒に行った当時の友人はもう死んでいない。」
「本当でございますか?」
「一緒に行ったのは、高だ。先々代の王の息子のな。」
「高?あ、鏡様の。」
天竺屋も意外な人物名前で、流石に黙った。
そして、
「なるほど。」と外に目を遣ると、
商人らしくない暗い目をして、
「灰族と繋がりが、持ちたいのですが。」
と言った。
カラは、これ以上話すことはないと言った風情で答える。
「残念だな。俺には伝手はない。」




