七十一、鉄
帝の十光は朝日に光り輝く城の壁を見ていた。
今年は五穀がよく実った。天府の支配下から凶作の知らせは受けていない。
稲穂も虫の被害が少なかったと聞いていた。
遠くで、
ケーン。。。ケーン。。。
と超の鳴く声がした。超の声は城壁に反響していた。
天府で一番の威神は日の神と共に、
超と呼ばれる鳥たちだ。
天府が飼い慣らしているから、空に超が来た時は、天府の見張りが来ているという
意味だった。超の存在は見るものに脅威を与えるようで
人心の掌握を容易にしてくれる。
超はすでに自家繁殖していない。超の世話をする点族が繁殖を試みているが、
大した数ではなかった。
おそらく50羽もいない。秋の繁殖期に上手くいくことを祈るしかなかった。
成鳥には大の大人が乗る事も出来るが、
多くは、体重の軽いものしか無理だった。点族は一族が身長が低いことを生かして
いる。十光も若い時には乗った。
今も帝の乗れるだけの超はいつでも準備されているが
もう遠くに行きたいと思わなくなったのは何故かと思う。
馬で行けるだけの所で良い。
その超が東宮のいる宮へと飛んでいく。
「ん?」
また篁のやつ何をやっておるのか。
彼らしく、宮の周りはいつも騒がしい。先日、連れ込んだという女が、
三毛の女あったとうのは、本当なのだろうか。
間者ではなく、女たちの噂だから当てにはならないが。
超がニ羽降り立つのを高台向こうにみていると、
大臣の友野に後ろから声を掛けられた。
「帝。」
振り返ると、拝礼した友野が
「軍の蔡将軍が謁見を願い入れております。」
と言った。
「超と将軍か。」
「は?」
一人ごちを聞き取った友野は不思議そうな顔をした。
「いや。戯言だ。」
大臣の友野は書記官たちの奏上する竹簡の選別に今朝も向かっていた。
友野が赤色の印のついた竹簡を手にしているのを見る。
「急ぎか?」
十光はまだ、朝日に光り輝く城の壁を見ながら構える。
「彼の国が戦乱に次第にむかっていると。」
「戦乱?いつものことではないか。」
呆れ顔で十光は友野に言ったが、友野の雰囲気はいつもの軽い調子のそれではない。
「聞こう。」
友野は振り返って
「将軍。」と壁の向こうに控えていた蔡将軍に声をかけると、
蔡は直ぐに進みよって、そばに控える。
「帝も行かれたことのある真国へ渡るための
壱の島に彼国と真国のものが増えてきました。
聞くと、真のクニで後継者争いが起こり、
それを狙った、彼国の軍が攻め込んだ様です。
すると大陸の北側の土のクニが好機と見て、
南下を始めた。土のクニは騎馬民族で好戦的と聞き及びます。
領土を南にどんどん拡大しております。
那より、援護の願いが来ております。」
「那か。彼国はしばらくは土族の応戦に躍起であろう。那は救助か。」
蔡将軍は片膝をついたまま
「天府の支配下ものもおります。砦は此の国で維持されている状態が長年。」
がっしりとした体付きに合った声をしていた。
年が上の戦経験の高い物言いが気に障り、
外に目を逸らす。
「真も那も予はいったことがあるからな。思い入れはあるぞ。」
誰も発言しない。背を向けたまま、聞いた。
「真や那を助ける要点はなんだ?」
「彼国への足掛けです。」
軍はいつでも戦闘したがっている。
「友野?」文官の友野をみた。
「真那は、鉄が出、精製したものを此の国へ運んでおります。」
長年、首を飛ばされずに臣下を務める友野の、核心をついた答えにニヤリと笑う。
「鉄だな。欲しいものは。」
「確かに。」友野は大きく頷く。
「そのために今まで、友好を保ってきたが、
我がクニで鉄は出ないのか?」腕組みをし直して、彼を見据える。
「鉄は出ると考えております。
しかしその製鉄の技術が、銅のそれと比べて未熟です。」
友野の口調が重い。
「真那はその技術はあるのだな。」
「那には鉄を扱っている一族が幾つかございます。」
拝礼するのに少し間があったのを十光は見逃さなかった。
目を縋って、
「遠征を望むか?」と体を二人に向けて聞いた。
口調の変わった十光の声に、友野も
祭将軍も片膝をついたまに顔を上げた。
「我がクニの軍はどれくらい送れるのだ?」
「直ぐにという事ならば、一万程は。」
「馬や兵糧は壱の島や真那のクニで調達する事が前提ですが。」
蔡が直ぐ答える。
「お前はどう考えるか?
若い時分は壱の島へ嬉々として行き、
戦った。後方にいるばかりではなかったぞ。
戦地をどれくらい皆知っているのだ。」
「我らの世代は皆大陸ので戦いを収めたものばかりです。
全員帰国はしておりませんが、
帰国した者たちは、皆精鋭です。」
戦いを好む蔡らしい返答だった。
「友野。」
「はい。この時期に出陣をし、
大陸で冬を迎えるのは恐ろしい事です。」
戦場に行ったことがないものの発言だったが、今の十光には腹に落ちる
満足なこたえだった。
「海沿いはまだ良い。しかし山に入っては終わる。」
二人の強い視線感じながら、間を取った。
「派兵はないな。」
将軍と周りの立ち会っている臣下に確認する。
若い臣下は戦地を知らずに育ったものもいた。
友野は、
帝は女狂いと噂に違わない実体も知っているが、
戦場の話となると、やはり肝が座っている。と改めて思った。
一部のまとめ役を除いて、歩兵は農民だった。
農閑期に戦いをさせて、クニをどうにかしてきたのだ。
戦ばかりしていては国庫はすり減るばかりだ。
「辰砂は丹氏がここででつくっておる。
鉄が出れば、その氏の一つにでも作らせよう。」
辰砂は、昔から掘り続けられていて、
生口と同様の価値があった。
「此の国で鉄を探せ。辰砂も銅も出るのだ。鉄が出ないわけではなかろう。
真那から上手く技術を持った民を連れ出せ。
真那のクニは諦めろ。」
友野には、その口調から、帝に、辰砂の生成を灰族から奪った炎帝が重なった。
直系の現帝は同じ血縁だ。炎帝の時代は暴力政治だったと聞く。
友野は額に汗を感じながら、声を張り上げて言った。
「鉄をさがし、どこのクニのものでも生成をご覧に入れましょう。」




