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ぬば玉  作者: しんげつ
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六十三、八俣の市

月の根国の王廷を出発してから一日で宿場の多いの邑にたどり着く。

あの道を行くと八俣の大きな市がありそこを通ってさらに一日中で

陶国の国境近くに着くと教えられた。


宿場の多い邑まで相生は送ってくれた。碧は付かず離れず、

という言葉がぴったりな速さで、並走していたと思う。用務の時の面を着けていたから、どんな表情だったのか分からなかったし、

国境あたりで、消えてしまった。

相生は相変わらず温厚で、別れる時は目に涙を溜めて

「気をつけろ。」と送り出してくれた。千明には意外だったようで、

いつも豪快に馬を乗りこなす相生殿が、と驚いていたが、

凛はこの温情ある伯父と血の繋がりがある思うと、

何故か安心して、手を握り合って別れた。

馬は散々迷ったが一頭を牧で相生と一緒に選んだ。自分には背が高かったが

千明が引くには良い高さだと言われた優しい目をした牝馬で、

健康そうな薄茶の毛並みをしていた。


相生が愛馬をクロ、篁がシロとしていたのを思い出して、

碧はあまりにも直接過ぎる名だと思ったので、ヘキにした。

碧玉のヘキなら碧も怒らないだろう。


前に凛が乗り、後ろに千明が騎乗した。

千明は大歩いて馬を引いていることも多かった。


道は人が比較的歩いていてあまり怖さはない。

この街道沿いは点々と宿場があって、旅人目当ての水売りや、食べ物売りも沢山いた。

それは八俣の市にいくにつれて人は益々多くなった。


山に囲まれた道を抜けると、

一気に平野が広がり、向こう側に城壁のようなものが見える。

「あれが八俣の市でしょうね。」

千明は馬の手綱を引いて言う。

「ここから平原のようだから後ろに乗りますよ。」

と声をかけるとひょいっと乗った。

「凛殿。もう少し前へ。」と言い

「少し走らせても?」と聞く。

馬に乗るのが得意と聞いたことはないが、

手綱を引くと

「はいっ」っと声をかけて馬は早足で歩き出すから不思議だった。

この分なら暗くなる前に辿り着けそうだ。


「千明様。八俣の市は大きいそうですけど、

 道は全てのクニに繋がっているのでしょうか?」

八俣というのだから八本の道があるのだろうか?


「おそらくは繋がっています。交易の拠点でしょうね。」

城壁のような場所を眺めて答える。

なだらかな坂を登ると、市の門があり、全く知らない土地に来たと

感じる。どこまでも続く、店にかけられた布がはためいていて、

人の数がすごくて、騎乗でいることが怖くなるほど道を人が行き交う。

前につれて行かれた天府の市もすごい、と思ったが、

八俣では物の種類が多い。大通りも何本もあるようだ。


何軒か声をかけて、宿に落ち着いた。

連れの部屋が同じではないことに不信の目を向けられる。

「そっちのお嬢さんは?」

「巫女様です。」

「あんたは?」

「巫女様の御付きです。」と言って

「こちらは先払いつもりですが。」と付け加えて、袖の下に銀の粒を

そっといれる。少し歳のいった昔は綺麗だったであろう女将はわかった風情で、

「間に衝立置いとくよ。」というと、離れの中へ通してくれた。


扉にたどり着く前に、ふと天を見ると、右手に太陽の名残が明るく残っており、

太白が見え始めていた。見上げていると千明が

「軍事の星。ですか?」と口で笑顔を作る。

「佐奈田様には言えませんね。」と言って顔を見合わせた。

「そうですね。でも月に雲がかかっているのは、言っても良さそうですね。」

凛に一歩近づいて見上げる。

「あ、本当。明日は雨でしょうか。」

千明に顔を向けた。月の周りに雲が出ていて、滲んで見えた。

「そうでしょうね.」

と言いながら、扉開けると、

「相部屋のようですね。」と呟いた。

先に到着していた人たちに軽く頭を下げて、

中に入る。

千明は腰を下ろすと、

「明日中に陶国に着いた方が良いかもしれない。」と凛に言い、

隣でも同じような話をしている男女がいた。


「明後日は絶対嵐だってば。」

「いやわからんだろ。明日は晴れだろ。夕焼けが綺麗だったぞ。」

「川を見なかったの?魚が釣れてなかった。」


川という言葉に反応して耳を傾ける。

二人は同じクニから陶器を売りに来ているらしかった。

「すみません。私たち陶国に行きたいのですけど。」

と千明が声を男にかける。

「ん?ああ、客人か?」

「はい。出発してしまった方がいいのかしら。」

「そうだな。朝早くだよな。」二人で思案顔だ。

凛の顔を見て、

「私、於才。あなたは?」と歳上の女性が聞く

「月の根国の凛と申します。私は千明。」

「書庫を目指しているのです。」


「書庫を?彼国の?」

「沢山の文書があると聞いております。」

「ああ、確かにな。しかしよそモンに貸したりしないんじゃ?」

男の方は、書庫の存在は知っているようだった。

「王廷より親書を預かっているので、何とかなるかと。」

千明の言葉に反応して、

「偉い位の人たち?」と於才が身構えて、二人を眺めた。

「いいえ、学問、いや彼国の知識学ぶ事が目的で。」

千明が丁寧な口調で話すと、

「ふーん。ま、頑張って。陶国は色んな人たちがいて楽しいよ。」


そう言われて、翌日早朝に四人で陶国の国境の邑に着いた。


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