七、工房
凛は、明け方から炊き始めた米が
釜でやっと美味しそうに炊けたのを見ていた。
東に太白がうっすらと瞬いて、
もうすぐ太陽で見えなくなりそうだ。
炊けた米を笹で包んで、玉の工房へ向かった。
玉を造るには色々な工程がある。
大きな岩をカチ割り、磨いて丸くする。
磨いた玉に鉄の細い棒で穴を開けていく。
最後に麻紐で縛る。
今日からは、碧玉を削り始めるところのようだった。
「おはよう。」
と言いながら笹に包んだ米飯を渡していく。
碧玉の原石が裏に立てかけてある。
運んできた修羅と呼ばれる引き道具と一緒にそのまま置かれていた。
縦に青緑が見える。
真ん中より右手に碧色が集中している巨大な岩だった。
じっと見ていると、
「昨日の夜に運ばれたんだ。」
の声にふりかえる。
工房の師だった。
「桑時さま。おはようございます。」
手に持っていた笹包を手渡す。
「ありがとう。綺麗だろう?
昨日は、つい興奮してしまったよ。なかなかコレだけの鉱脈は見つからない。
しばらく、夢中になりそうだ。」
「まあ。」凛は桑時が照れながら話すのを見て笑う。
もうかなりの歳で、里の長老である能さまの次くらいの年のはずだが、
石の材質を見るといつも嬉しそうで、少年の様だと思う。
凛達はこの工房では食事の世話と
穴に通す紐を結っていることが多かった。
朔と望月の間の三日月を形取る石は
特別で、石も選ばれて、
加工も熟練のもの達が行う。
丸くする時は小さな子供でも削らせてもらえるが、
三日月は大人だけだ。
泉龍岳の方向で取れたと聞いた。
「歌仙山ではないのですね。」
「ああ。あちらは取り尽くしてしまった感がある上に、
最近動きが騒がしい。」
「大地が揺れると。」
「ああ。そうだ。歌仙山の向こうは取れるのかもしれないが、
あちら側は危険だからね。」
歌仙山と横山の間の谷間以降は
灰族という顔を朱で塗った人たちが暮らしている。
ずっと昔から住んでいるらしく、
古の朱の民として恐れられていた。
「泉龍岳なら、行きは川で降れば良いからね。下流の幡豆氏とは良好な関係だしね。
帰りは引き上げなければならないけど。」
「桑時さま。」
砥石を扱っている若い衆に呼ばれる。
「磨く石の大きさを決めたいのですが。」
「ああ、いまいく。碧玉は普段の石とは少し勝手がちがうからね。」
「柔らかいのですか?」
「いや、硬い。上手く穴を突くことができれば、それから磨くが、
いかんせんどうして加減がね。」
「紐の用意を頼むよ。」
「はい。孔の大きさを後で見に行きますね。」
かまどに戻らなくては。
そろそろ、飯を配っていた女達が戻ってくる。
門の向こうからいつも一緒にいる二人が走りながら、向かってくるのが見えた。
「だれか!川に人が流れついてた!傷だらけなんだ!だれか!」
叫び声が里中に響き渡った。




