六、落ちる
山の民は御山では狩りをしない。
御山の隣の低い連山である床山までがせいぜいで、
御山は禁猟だった。聖域なのだ。御山守る行者に大抵は追い払われる。
ともかく猪が出ると聞きつけて床山に来た。
白い猪のつがいだ。
これは逃せない。天竺屋に売ろう。
里に持って帰ったところで、
天府に吸い上げられて終わりだ。
仲間と、仕掛けをあちこちに作りながら、
御山近くまできて追い込んだ。まだ床山連山にいて、
御山には入っていないとの感覚だった。
下り道から登りの獣道に差し掛かると、待っていたかのように、
弓矢が飛んできた。
ガサガサ。ヒュン。
「何?」
避けて走り出す。けれども上から鳥の様に見ているのか、どんどん追い詰められる。
走りながら、舌打ちをした。ここはもう御山なのか。
ヒンっ
という鳴き声と共に、猪が罠のひとつにかかる。
「しめた!」
矢が飛んでこようが、縄にむかって走る。崖近くに縄を仕掛けたのは自分だ。
ヒュン
弓矢は尚も飛んでくる。
大きな影が動いたと感じた瞬間、
弓の方向から弓の主が目の前に飛んできた。
同じくらいの身長の朱色の袴をはいた男に叫ぶ。
「お、お前も猪か?もう一頭いるそちらを狙え!
これは俺のものだ!」
「いや逃がしたい。」
弓の主がとい言うと至近距離で弓を構える。
「な。」
尻もちをついて構えた主を見た刹那、
ビューン。ビューン
狩人の仲間の石礫だ。
どおーん。
と大きな音が近づく。
見ると大きな岩が加速して転がってくる。弓の主は猪の縄を剣で切った。
巨石が迫ってくる。
猪は崖と反対ににげる。
弓の主は、巨石と一緒に崖に落ちていった。
「臨兵闘者 皆陣列前行」
時々、御山の行者達が口にする呪文が崖の向こうの滝へと落ちていく。
尻餅をついて呆然としている間に、仲間がきた。
「危ないぞ。猪、一頭は捕まえたぞ!」
仲間の狩人は走りながら言う。
「おお!」久しぶりの歓喜に沸いて後を追う。
崖の端から、一緒に弓の主の男がが落ちた崖を覘くと、
滝の水飛沫で底は見えなかった。
「うわ。これは助からんな。」と滝の爆音より大きな声で仲間はいった。
「御山かここは?」
「ああ。行者だろうな。御山を守ってる。」
「おいおい。いいのかよ。」
「どうしようもないだろ。とにかく獲物持って帰るぞ!」
そういうと指笛で仲間を呼んだ。




