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ぬば玉  作者: しんげつ
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五十六、源淵

部屋から日暮らしの声がする外廊下に出て

カラは一言目に言った。


「雅殿の言葉が一番的確だな。」日にち薬、とは良く言ったものだ。

相生は頷きながら、

「思ったより大丈夫そうだが、今は黙って時が過ぎるのを待つしかない。」

同意しながら階段を降りた。昨日拝謁した、該月王の方は呪禁の札を肩時も離せず、

具合が悪そうだった。


「相生は待たされる事が多いな。」

昔馴染みの気やすさでカラは言った。

相生は何を言っているのかすぐ分かった様で、

「これが天運というのだろうかな。お前も、待つ、という意味ではな。」

カラも相生も木の向こうの王廷を見遣りながら暗黙の時を、

外の蝉の音を耳にしながら、動けずにいた。

もう秋の風で、日暮らしもそろそろ終わりの時分だ。


気の良い相生が先に言葉を発する。

「待って、何とかなるなら待つしかないな」

「ああ。ところで月の根国の創始期の話を知っているか?」


意外な突拍子もない質問に、相生は驚いた様子で、

「昔、母から聞いた話し程度だが。。。」と前置きする。


「確か、天府の帝の兄弟ふたり。

 兄が外海の大国との戦に行っている隙に、

 弟が帝位をとってしまった。

 兄は、急いで帰ったがすでに時遅く、兄に従う臣下がおらず、

 山の森林奥地の領地をあたえられて、

 地方統治の王として、月の根国の王についた。

 だな。」


「まあそうだが、要点が少し足りない。

 なぜ、兄は易々と帝位をうばわれたのか?」


「人徳が足りなかったのでは?」

「そうではない。」


「兄と弟は異母兄弟だ。

 しかし、兄には同母の妹がいた。

 姫は、美しく有名だった。

 しかしことあろうか、同母の兄と結ばれてしまった。」


「つまり禁忌だな。」

「そうだ。異母兄弟は今日でも夫婦となれる。

しかし、同母は絶対的禁忌なのだ。」

カラは相生と目線を合わせて続けた。


「その禁忌を破り、結ばれたことに臣下達は拒否反応をおこした。

ここぞとばかりに、弟は皆の心理をあおり、

自分を真の正統者として認めさせることに成功した。」


「弟宮側についた臣下の者達も手練れだったのだろうな。」

「ああ、特に、日が陰る日蝕を利用した。」


「蝕か。」

「伝承だがな。日が隠れたのは、禁忌を犯した兄宮が外夷から帰国したからだ。

とな。」


「そして天府から遠くに、つまり歌仙山の麓に追いやられて

月の根国と統治することになった。」


「天府が月の根国を属国扱いし、同時に恐る理由の根源はそこだ。

 正統派の兄宮を理屈を捏ねて退けた罪の意識が、いつまでも拭えない。

 創世記を知らない馬鹿どもも多いが、

 それでも月の根国は脅威なのだ。」


相生は何故カラが創世の話をしたのか、うっすらと気がついた。

「綾人は、この話を知らなかったのか?」カラは畳み掛ける様に聞いた。

「知っていたとは思うがな。」

「月の根国はいつでも帝を狙う事ができるのだ。

 何も三毛を献上などしなくてもな。」

「つまり。。。。」

「均衡を壊さない事に越したことはない。力量のないやつが

 王廷の高位につくと、あっという間に天府に攻めいられるぞ。」

「そうだな。気をつけなくてはな。此の国自体、

 基盤が未だまだ、脆弱だからな。凛を利用したりしなくても良いように、

 だな。」



 



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