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ぬば玉  作者: しんげつ
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五十四、裁く

血塗られた手、

の夢を宰相の克勝は見た。

残暑の強い陽射しを窓から斜めに浴びながら、廊下を進む。


綾人の処分は極刑だ。

御山に登る斎宮を誘拐したのだ。


実の姉である

鏡殿は、現王の母君だ。


そして父は、、、、。

自分の宰相の地位をいつでも奪える位置にある。

この機に、静一族を消滅させる事は、簡単だった。

檀下に軍人らしく横を向いて、直立していた麻継を見て、

相手が視線を合わさない様にしているのを感じる。

息子の綾人は末子であったはずだが、感情は読めなかった。


けれども、垓月様はな。。。

王もそろそろ、ものの道理がわかり

しっかりしてきた。けれども

王として国を統べるには、どうしても繊細すぎる。

持って生まれた気性で、どうすることも出来ない。


上座に座った該月王を見ると、緊張のせいか、青白い顔をしていた。


垓月王に、まだ後継はいない。

賜死という制度が彼国にはまだあると聞く。

此の国も炎帝の時代は、天府に賜死という制度があったが、

暴君が面白がって多用していたため、

炎帝の死後、禁忌となった。

制度ではなく、習慣として、殉死もなくなった。

炎帝に殉死を望むものなど居なかった。


垓月が実母である鏡に賜死を命ずるなど、

出来はしないだろう。ここは月の根国、属国の王庭。

示しをつけなくては行けないほどのものでは無いのかもしれない。


扉の向こうがざわつくと、両手を後ろで縛られた綾人が

御前に連れてこられた。目の前にひざ立ちの綾人だけが居た。

藤見は護送中に逃走していた。

綾人の容姿は乱れているが、朝黒く日焼けして、

該月王より健康そうにすら見えた。


克勝は、良く響く声で話しかけた。


「綾人よ。取調べでは、次期斎宮の凛を連れ去り、

 帝献上しようとした誘拐の罪状であるが、相違ないか?」

該月王の横にいる克勝を見据えて

「ああ、そうだ。」

いつものように横柄な態度で答える。


「言い訳があれば聞こう。」

「もっと天府と繋がりを持って、月の根国は属国ではなく

 同盟国という立場になろうとは思わんのか?」

「そんなに違うか?」

「天府は何かというと、月の根国に調を献上させて、いい気なもんだ。銅の献上は

 尋常じゃない数だ。」

「民への搾取がきついと?」

「銅山のことはよくわからん。しかし、銅をよこせ、美人をよこせだの、酷くないか?」

「では人民のために、凛を献上しようとしたと?」

「あーまあ、そんなとこだ。」

 助けようとしている意図が読めているらしい。


「巫女の藤見は?何故凛を襲った?」

「そこまでは知るか。三毛を連れ出したいといったら、喜んで加担した。

 神託をする者が二人では嫌だったんでは?」


克勝は、こちらは最もらしい理由に、逆に安堵すら覚えて、

該月王を見遣った。

該月は言葉を発しようとして、口をつぐんで、

目で克勝に助けを求めている様だった。


「では、藤見については、引き続き逃走中として、探索を続ける。」

次の言葉を待たずに綾人が、

「俺も次に会えたら聞きたいぜ。殺したいほど憎いとはどんなもんかってね。」

白けた様に言うと、

「叔父上。口をお慎みください。」

今までに聞いたことのない低い声で、該月王が答えた。


直立していた麻継の手が一瞬動いて、月槍が音を立てたように

皆、該月王の強い言葉に驚いていた。


「藤見がクニのために筮占をして来たのは明白。邪な気合では務まらない。」

湖に石を投げたように静かに静寂が広がっていく。

気圧されて綾人は、

「そうだがな。」と言うのが精一杯のようだ。


克勝は事態をどう動かすのが良いか思案しながら聞いた。

「話を戻すが、天府からの租税の搾取はお前に害はあるのか?」

「ち、ねぇーよ。別に。」

「では逆に、何を得たかったのだ。」

「俺は軍人にはなりたくない。他の方法で出世をしたかっただけだ。」

その瞬間、

「克勝!王をお守りしろ!」

ものすごい大きな響く声で、麻継が叫びながら槍を転がし刀を抜いた。

克勝より速く動いた相生が、王の前に立ちはだかると同時に、


綾人の首は宮殿の隅に飛んだ。








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