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ぬば玉  作者: しんげつ
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五十一、朝会

同じ侍女に連れられて、同じ部屋に戻ると、

凛は、海が見える窓際の椅子に膝を抱えて座った。

一体、自分は何処へ行くのか。

篁は水の里にいる月の根国の宰相へ便りを出したと言った。

当たり前だが、凛の帰る場所は水の里ではないのだ。


懐に入れていた布の円盤を出す。

もう覚えてしまった程、眺めている星宿の名が書かれている盤だ。

連れ出された時も懐に入れていて、そのまま持ってこられた。

本物は神祇家にあるが、これが手元にあると少し心強かった。

過去に何があっても、実の父が見ていた盤だ。


さっき沈んで行った太陽を追いかけるように

太白と赤銅色の半月の月が直線に並んでいる。

月の近くには、角宿の一の星が見える。目測では合ではなく犯の距離だ。

佐奈田様と千明様がここにいたら何というのだろうか。


王妃様が臨席されるために出立されたのだから、

予定通り棚機の祭は、水の里で行われたはずだ。


自分がいなくても何もかも上手く回っているではないか。

心配してくれる人はいないのではないかとすら思う。


水の里でとと様達は、自分が連れ去られた事に

気づかないかも知れない。

碧は月の根国にはあの日はいなかったはずで、

棚機祭りに自分がいなくても、

直ぐには気が付かないだろう。まだカラ様は水の里に居るのだろうか。

さすがに相生様は気づいているのだろうか。


未だ夕陽が残り、明るい時に供された食事は、

美しく光る器に沢山の海物が置かれていた。


この天府の城のある山の向こうは海に迫り出した

断崖だった。階段のように建てられた城は山を占拠するように

へばりついている。

月の根国も内海があり、海の魚を食したが、この海は内海ではなく、

話に聞く、外海ではないかと思う。海の色が濃くて深い。

海の向こうをいくら見やっても島が見えないのだ。

「カラ様ともっと話をしておくんだった。」

きっと彼なら自分が何処に居るのか、

教えてくれるに違いない。

水の里は、御山を左手にして立つと、北斗が見えた。

この部屋から北斗は見えないから、この建物の窓のない方が

水の里でなのかもしれない。


色んなことが毎日ありすぎて、頭が熱くなってくる。

左の頬に手を当てると篁の肌の温度が思い出されて、

頭がチカチカするようだった。


「頭痛くなってきた。」と独言する。

人を好きになるとか、そういう事は、斎宮には無用に違いない。

「はあ。」

窓の向こうの

星は海に落ちそうになっていて、佐奈田様が天は球体であると言い切っている訳が

なんとなくわかる気がして微睡む。そのまま海風を浴びながら、

浅い眠りについたらしいと後で思った。


どどどーん。

銅の太鼓を鳴らす音で目を覚ます。

膝に置いた手から顔を上げると。

まだ夜明け前だ。


窓から覗くと人が動いているのが見えた。

「なんだろう?」

高台に続く扉から外にでる。欄干のところまで来ると、

広場に人が集まりつつあるのが上から見下ろせた。

人が行く先に黒い石で積み上げられた門があり、

門の向こうには白い石の積み上げられた城がある。


白い衣で正装した官人らしき人たちが城を目指している。

どどどーん。どどどーん。

太鼓の音が早く打たれる。

二体の背の高い青銅の像が天高くそびえて、

先端に鈴が付いている様にみえた。


白い衣装の人達が一ヶ所を目指して、集まっていく。

太鼓が止むと、鈴も同調していたのが止む。

そして静寂。


砦のような城の真ん中に赤い衣装を纏い王冠を被った男が現れて、

広場にはおおおーーーーと唸るような声がした。

青銅の鈴も共鳴しているかのようだ。


声は言う。

「皆のもの、今日また心を新たにしようぞ!

 天の声は皆に力を与えん! 日の神に栄光あれ!」


うおおーーーー

広場にいる兵士は右手をあげている。

官人たちは拝礼する。


熱狂的空気が下から上に舞い上がってきて、めまいがしそうだった。

赤い服を着た男を目を凝らして見た。

よく通る声だ。

「あれは、、、天帝?」


水の里に行幸する際の騎乗の人か、御簾の向こうでしか会った事はない。

いつも遠くからしか見られなかった。

背丈はそれほど高くはないが、

恰幅がよい。

全員白色の服の中で、嫌でも目立つ際立った赤い色だ。

横に立っているのは、

「篁。。。。」周りの侍従たちに囲まれてすぐ建物の中に入っていく。


集まっていたものたちも散会していくようだ。

この天府にはこれだけの住人がいるのか

領からも上がってきているのか、

見えない力が見えるようだった。


コンコン扉を叩く音がする。

振り返ると中まで侍女が入ってきて、お支度をという。

最初から仕切っている侍女で、必要な事以上は喋らない。


上掛けをかけて後ろについて行く。

扉のない部屋へ廊下がつながっていた。


松明の炊かれた明るい方へ目を向けると

片膝を付いている男が振り返る。


「あ。相生様。」

相生に駆け寄った。いつも優しい伯父だ。片膝をついたまま手を伸ばして

凛の背中に手を添える。

正面を見た、相生の視線の先には

壇上の椅子に先ほどの白い衣装の篁皇子が、脚を組んで座っていた。


「さて、これで良いか?」

二人を見て言う。

拝礼し、相生が緊張した声で述べた。

「誠に有難うございます。

 神祇家の三毛のなれば、非常に心配しておりました。」


「お前は宰相の息子ときいたが

 このものと血縁か?」

「私の父は凛の祖父にあたります。」

「なるほど。兄弟の子か。」

「はい。」

「克勝はうちの大臣の友野と比較的懇意だ

 まあ上手くやるが良い。」


颯爽と立ち上がると、数段降りて近寄る。

不意に、毛を持たれた。驚いて、正面から篁を見る。

「三毛がなぜ斎宮にならねばならんのかわからん。」

そういうと、一歩踏み出して、額に口付けをされた。


「なっ?!」

周りの空気を他所に

意味ありげに笑うと、

「道中気をつけろ。

 最近は盗賊が多い。献上の調もあちこちで襲われる。」


「は!」

相生が再度

拝礼すると、付き添っている寛治に

「これで良いな?」

とニヤリと笑って、部屋を去った。


犯:天体が7寸(約0.7度)以内に接近すること

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