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ぬば玉  作者: しんげつ
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四十七、天運

長い机に添えられた丸い椅子に腰をかける。

「腹は減るだろう?三毛でも。」

そう言いながら斜向かいに篁が座ると

見計らった様に食事が提供された。

向かい合うと、茶色の髪を綺麗に束ねて、

出会った時とは違う緑かかった衣を着ている事に気がついた。


「好きなものはあるのか?」

「え?好きなもの?、、、、鮎、かな?」

つい、神祇家では食べられない水の里の鮎を思い浮かべた。

「なるほど。」

そう言って、寛治を見ると、寛治は直ぐに近くの侍女耳打ちする。

「他は?」

「え?何でも食べられるよ。たぶん。あ、漆を触るとかぶれるけど

 食べものじゃないし。」

「ふむ。三毛は何かこう特別なものを食しているのかと思ったがな。」

「それは、ないと思う。」

「三毛は食事で出る訳ではないのだな?」

「え?」つい、髪に手を遣る。先ほど、椿油だろうか香油の塗られて

櫛ですかれたので、三毛の三色がとても目立つ様に感じる。


「生まれつきだと思う。」水の里では黒く染めていた。神祇家に移ってから一度も

染めていないから、近ごろは白い部分ばかりでなく、

茶色の箇所も目立ち始めている。

「あの、会うの初めてよね?」

ずっと向こうはこちらを知っている風なのが気になっていた。

「ああ。話すのはな。こちらは、

 水の里の豊祈祭での舞で見た。」

やっと納得した。本当は舞手決まっていた友人の真角の代わりに舞った。

あの時は、御簾向こうには、帝と東宮がいらっしゃると聞いていた。


「帝は、ご執着の様だったがな。あれは、中々にな。」

また、小気味良く笑っている。


「こちらの大臣が、月の根国の宰相に求めたが

 三毛であるから献上できないと断られたそうだが?

 経緯は知っているか?」

「詳しくは知らない、かな。ちょっと色々ありすぎて説明しづらくて。

 私、元は水の里で育ったの。だけれど三毛だから

 斎宮になる天運だと。。。。それで、今は月の根国の王廷神祇家で見習い中。」


「斎宮に興味はないのか?」

「興味というか畏れが強い。かな。」

下を向いた凛に向かって、篁は椅子の背に体を預けるようにして、

憐憫の眼差しを向けた。

「天運とは厄介なものよな。蔦の様に

 自分を縛り付けていく。」

いつも明るい感じの篁に、暗い影が差したのを感じて、

顔を上げて、彼をじっと見つめる。目の色が濃くて黒いと感じた。


「ん?何だ?三毛殿はまだ見えぬ先のことが見える。というのは本当か?」

唐突な質問で、少し考える。

「今までの斎宮はそうなのかも。

 でも私にはそんな才があるとは思えなくて。」


「神は降りて来ぬと?」

「先先の斎宮の雅様はとても勘の良い子だったと。

 今の斎宮様はどうなのかお会いしたことないから分からないけど、

 もう長年斎宮を務められているのだから、

 きっと神との会話もできるのよ。」


「投げやりだな。」

「そ、そうかな。」次期帝を前にして、無責任な発言かもしれないと思う。


「神の声が聞こえるように何か工夫はないのか?」

「工夫?え?嘘をつくということ?

 声が聞こえたフリをして?」


「嘘、な。」少し微笑んで

「神祇家で何を学んでいるのだ?次期斎宮殿は。」


「舞の仕草が一番最初に教わって、

 今は天の事象についてかな?」

「天の事象?」

「月の根国では、神祇家ではないけれど、天文官が居て、天の動き見ているの。

 その動きを見て占トをし始めたところ。」


「占トとは亀トとか?」

「亀トも含めるけど、月日星動きから観る占星が今は一番興味があって。」


「なるほどな。」

「天府にも天文官は居るの?」

「無論だ。暦を作っているのは帝、ということになっているからな。

 月の動きで暦は作るだろ?そしてその月神として祀っているのが、

 月の根国だ。実際には水の里の御山で祭祀は行うがな。

 うちの天文生は優秀だぞ。天帝の命がかかっているからな。」


「天帝は月神ではない、よね?」

「ああ。考えとしては日の神だ。

 ちょっとややこしいがな。

 天文署は日蝕の日を主に観ている。日の神が隠れる日は、

 目に見えない何かが動く日だとしてな。」


「星は観ない、の?」

「まあ、観てるだろうな。誰か呼んでもいいが?」

「え?あ、ごめんなさい。聞きすぎてしまって。

 目立つことはしたくないの。」


「なるほど。」目を細める。篁から、

何だが上から見られている気になり、肩を落とした。


「では、三毛殿。今日の空を説明してもらおうか。」

 と言って、篁は何処となく優美に立ち上がった。













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