表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ぬば玉  作者: しんげつ
45/52

四十六、日嗣

その一つの建物に先ほど、篁の命を聞いていた侍従に案内されて、

足を踏み入れると、侍女達が一斉に列をなして礼をする。

少し、圧倒されて、上手く足がでない。一瞬立ち尽くすと、

年配の女が「コチラへ」と部屋の一つに案内してくれた。

どこも石造りで強固そうな壁だった。


「湯浴みのご用意が出来ましたらお呼びします。」

そう声をかけられてまだ幼そうな侍女が椅子を引いた。

別の侍女がお茶と食べ物持ってくるが、

茶器が光っていて驚く。

普段使っている皿とは土が違うのかと思った。


昨日の朝、握り飯を食べただけで、

ずっと何も食べていない。緊張し過ぎて空腹を感じていなかった。

食べ物は竹の皮で包まれていた。

ゆっくり剥くと、口に入れる。甘い。

周りは餅で中は豆の甘煮のようだった。

美味しいと感じて、周りを

よく見ると壁の石は黒く、硬そうで、

外から見た石とは違いそうだ。

キョロキョロしていると、

扉が開いて、「湯浴みの用意ができましたので。」という。

湯浴みとはなんだろうか。

禊のようなものだろうか?


侍女に続いて部屋に入ると、

部屋が暖かい。中に木製の大きな桶があり、湯が張ってある。

「お衣装を着替える前に、湯浴みを。」

両側から来た侍女達が服を脱がせてしまった。

「ええ。ちょっと!」

「中へ。」

困惑しながらも、指さされて、桶の中にはいる。

暖かい。腕まくりをした侍女が布で体をふく。

ひと通り終えると「お立ちください。」

と言われる。

乾いた布でふかれて

白い服を着せられる。

絹だった。

その上から濃紺の重ね着、さらに薄い桃色を重ねた。

帯の習慣が違うのか、

重ね着と同じ色の帯を後ろではなく前で止めた。

髪も櫛ですいてまとめ上げる。

神祇の衣装を着るのに似ていた。

簪は銀色だった。先についた細工が揺れるように出来ている。


「まあ、いいわね。」

と満足気な侍女は違う部屋に案内した。「では後ほど。」そう言い残すと、

皆、去っていく。

部屋がどれだけあるのか、何人支えているのか分からなかった。

人は沢山いるのに、静かなのだ。寛治は先ほど

「夕餉」と言っていたから、しばらく待てと言うことだ。

部屋の中をぐるりと見渡す。

天蓋付きの寝所と、机と椅子が置かれている。月の根国と違うのは

やはり石造りであるところだ。光の入ってくる扉を開ける。

「わあ。」高台の向こうは海が広がっていた。太陽が左手にあるから

西方を向いているのだと思う。

欄干の方へ進むと、一瞬身体がすくんだ。足元は断崖絶壁で、下を向くのは

怖くて、後退りする。

遠くの方に見えるのは島だろうか?鳥が其方に沢山飛んでいる。

しばらく眺めて、部屋の寝所に腰掛ける。

綾人はどうしただろうか。ひょっとして、天府の門をくぐったのを

見られてはいないだろうか。

神祇家の人たちは自分がいなくなった事に気がついたであろうか。

一緒にいた藤見は大丈夫なのだろうか。

色々考えすぎて、頭が熱くなる。挿された簪を抜いて、少し横たわる。


次に気がついた時は、夕陽が凛を照らしていた。

「主様」

びっくりして慌てて起き上がると、先ほど案内してくれた侍女だ。

「夕餉に向かいます。」

そう言われてついていくと、両開きの扉の前に来る。

「篁様、お待たせしました。」

中から扉が開くと、侍女が入るように促す。

寛治が、入り口で礼をしたのが見え、

部屋目線を映すと、

長い机に食器が並べられて1番奥に

篁が肘をついてニヤリと笑う。


「磨けば光るな。三毛殿。」


凛は顔を赤らめた。確かに連れ去られて、泥だらけだった。

神祇の時の衣装でもここまで豪勢なものは用意されていない。

ずっと考えていたのは篁は官職の高位ではなく

帝に繋がる誰かではないか。


ふふん。ご機嫌そうな篁に聞いた。


「こんなにしてもらって悪いけど、

 あなたは誰?」

篁が目線を外して、口を開こうとすると、

横から大きな声で答えたのは、寛治で、

「帝の第一皇子、日嗣の皇子さまであらせられる。」


凛は固まって動けなかった。

帝といえば最近は女狂いで良い噂は聞かない。

舞を舞った凛をイタズラに召し上げようとした本人だった。

綾人が

凛を連れ去ったのは帝に献上したかったからだ。そう道中言われた。

手を握って、立ち尽くす。親しみのある雰囲気でつい、ついてきてしまった。

このまま、献上ということだ。なんて馬鹿なのだろう。

そう考えると、何も言えずに、篁をじっとみる。


篁が右手を挙げて言う。

「帝に献上しようと言うのではない。」

「ではなぜこの場に?」

「まあ、興味があったからな俺も。

 血は争えんなあ。」と笑う。


凛は反射的に扉から逃げようとした。

直ぐに寛治が抑える。

「落ち着け。」

もがく凛を押さえつける。


「まあまあ。今のは冗談だ。」立ち上がって言う。

「月の根国に返すにしてもな。夕餉くらい共にしてからと思っただけだ。

 だいたい、馬一頭、女一人では月の根国まで心元ないぞ。」

もっともなことをいわれて、

押さえつけられている体の力を抜いた。

綾人たちに連れられて、3日は過ごした。帰りも同じだけ時間が掛かる。


篁は凛に近づいて、右手を差し伸べて言った。

「三毛の斎宮にも興味はあるがな

 帝ほど節操は無くはないのでね。」

近づくと、 

「此方へ。」自然な所作に促され、

寛治から離れて、篁の右手を取る。


「月の根国には使いを出した。

 宰相の克勝は中々出来る男だからな。上手く取りなしてくれるだろう。」

意味ありげにしたり顔で微笑んだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ