四十三、すれ違い
気を失ったのはほんの一瞬だった。
藤見は目を開けずに、その場で倒れ込んだままでいた。
人声は遠ざかっていく。
綾人たちが凛を馬に引き上げて乗せたのを
薄目で見ていた。
いつ用意したのか手早く、屋敷から去っていく。
いつまで倒れていようか考えていると、
「巫女様?
どうされました?」
屋敷の侍女らしい女に声をかけられて。
むっくりと座る。
「いや、どうやらそこで躓いて一瞬意識を失った様だ。」
「まあ。何か手当いたしましょうか?」
「いいや。ありがとう。」
力なく立ち上がると、自分の部屋を目指す。
歩いているうちに意識がはっきりしてきた。
綾人のやつ、どこに連れ去ったんだ?
売り飛ばすには三毛は目立ちすぎるぞ。
色々考えながら、自分の館へ戻ると、扉を閉めてへたり込んだ。
「つっ」
腹も痛いが何故か口の中がヒリヒリしていた。
もう辺りは暗いが、松明をつける余裕はなかった。
「藤見様。」
見習いの巫女が顔を出す。
「いらっしゃったのですね。
夕餉は要らなかったのですか?」
「ああ、ちょっと気分が悪くてね。」
「ご体調が?」
「ああ。」
何と答えるのも億劫だ。
「今夜は三毛様もいらっしゃらなくて。」の言葉で、
ハッと気づいた。
そうだ。いなくなって騒ぎになる前に時間稼ぎが必要だ。
「三毛様もお疲れなのでは?
お部屋の明かりがついていないのなら、そっとしておいておあげ。」
「そうですね。」
「雅様にはお疲れの様だと言っておきます。」
「ああ、ありがとう。」
雅様が様子を見にこなければ一晩は時間が稼げる。
凛はもう気がついているのだろうか。
いや、一緒に襲われたのだから何とでも言い訳をしよう。
「しかし、手荒だな。」
つい独り言が口をついて出ると
綾人から貰った碧玉の腕輪を外して放り投げた。
外の廊下へ出て、月を探す。当たり前だが
新月で見えはしない。
けれども、太白がやたらと強く光っているのが目についた。
月がないのに、晴れているから星はよく見える。
ト骨で、月が陰ると出ていた。新月とは違うのだ。
聞こえる虫の音色は明らかに暑い時期の音で、
今日も寝苦しそうだ。
前に嵐がくると言った凛の占辞を思い出した。
凛の声は小さいのに良く通る声だと思ったことがある。
「何なんだよ。声すら、斎宮の質ってか?」
邪魔は邪魔だが、
凛が殺される事は無いだろうし、誰とっても不利益だ。
目障りで消しても、心の中では逆に凛の声が
反芻されて、自分の心を削る様だ。
垓月王は三毛様が居なくなったら、何とおっしゃるのだろうか。
また、小うるさい、宰相が適当に取りなすのだろうか。
自分は役に立てないのだろうか?
垓月の何となく自信のなさそうな表情が
目に浮かぶ。
自分を肯定できるものは自分だけだ。
「所詮は、他人だ。」独り言すると、深いため息が出た。
太白(金星)




