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ぬば玉  作者: しんげつ
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四十一、声

朔日の舞の奉納では、

舞手は全員が白い衣装を纏う。朔日は新月なので不足する明るさを補うためだと

雅に聞いた。

水の里でも朔日は大切にされていたから、

考えは馴染み易かった。

白い綿の衣に金の環を耳にも腕にもつける。

水の里では石だったな。とふと思った。

碧玉は神祇家に来てから、見たことが無かった。


舞の真ん中は藤見が必ず立つ。凛は後方で、舞ながら、

合わせる音が、水の里と同じなのが嬉しかった。

弦の付いた楽器は数が多いが、笙の音も鈴を使うのも同じで、

向く方向も御山の方角だ。もうすぐ棚機の祭儀に水の里に帰れることになっている。

嬉しくて、見えないはずの御山が見える様な心持ちがする。


奉納が終わると、

そのまま、占辞を述べる。珍しく、ト骨を神前で行っている。

雨が降るかどうかと言ったものを、

焼印で占う。ト兆をみて、「月が陰る。」と藤見が言い、

後ろの控えの臣下たちが騒めく。

神の声は藤見にどのように届いているのだろう。

藤見は火前で、迫力があり、威厳が感じられる。

騒めきを背中で聞きながら、

藤見の榊を持っている腕に碧玉の腕輪が見えて

驚いた。玉の産地はどこでもあるが、あの色は水の里で扱っている玉だった。

以前、工房の師、桑時が、これだけの鉱脈は中々ない。

と言っていたのを思い出す。

碧が持っている玉にも似ている。碧玉は管玉にすることが多い。

丸くするのは熟練の技術だ。以前からあれをつけていたのか

頭に思い描いてみるが、思い出せなかった。


藤見は今夜は倒れることなく占卜を終える。ト骨は

興味深い。祖母の雅は亀トをたまにしているが

どのように吉兆を占うかは、秘技らしいからいつかは教えてくれるのだろうか。


藤見が振り返ると、チラッと凛を見た気がして、ハッとした。

「凛」

垓月王に呼ばれて、一瞬、息が止まった。立ち上がりながら

気持ちを昨日の星占いへ持っていく。

凛は千明が辰星はしばらく見えない時期になると言っていた言葉を借りることに

決めていた。そして、今朝は日の出前に鎮星が東の空に見えた。


「水がしばらくなくなります。そして季節の終わりには中央の天子様が

 現れ始めています。」


佐奈田様もいらしているから、きっと嫌いな予兆だ。

天の異変はそこにあるだけだ。と言う考えのお方だ。占辞の根拠を

きっと読み切っているに違いない。


後ろでざわめきが聞こえる。今度は言葉を選んだつもりだったが

何を述べても皆、ざわめくのだろう。


振り返ると、藤見と目があう。


藤見の方は、凛に自然に声をかけることだけを考えていた。

「ちょっと話がある。」では自然ではない。

どうしようか、と考えていると、凛の方から声がかかった。


奉納舞の舞台から降りると、呼び止められた。

「藤見。碧玉のことだけど。」

「碧玉?」

「うん。ほらその腕の玉。それって、何処から手に入れたの?」

「何処って。」

綾人からだとは言えなかった。先日声をかけられた時に、

枷の様に与えられた。

「昔、何かの折に、王廷から頂いたものだ」


「そう。珍しい色の碧玉だから。」

「珍しい?」

「私は水の里での出だから良く、綺麗な石をよく見かけるけど、

 変わってるの。色が。」

「ああ、そうなんだ。確か、綾人殿が沢山持っていると思うよ。」


「綾人殿?」佐奈田のところで話をしていた、しつこい目線の人物だ

「彼は鏡様の弟だから、色々、手に入り易いのじゃないかな。

 欲しいのなら、綾人殿のところに案内しようか?」

「ううん。欲しいのではなくて興味があって。」

「彼、石は沢山持ってるし、見せてもらうのは良いのでは?

 一緒に行くよ。良かったら。」

「そう。そうしようかな」

本当のところは石よりも盤の話が聞きたい。


藤見は凛の迷っている様な様子を見て、

「今からでも訪ねる?次の祭祀は水の里でしょう?色々と立て込むし。」

「そうよね。水の里よね次は。」

いつになく、嬉しそうな様子で話す凛に藤見は、心に小波が立っているのを感じた。

「じゃあ、行こうか。」

口が渇いて、唾液を飲み込もうとしてもできない。背中に冷や汗を感じながら

蝉が鳴いている小道を通り抜けて、

鏡の住む館のすぐ横の綾人達の敷地に入る。

周りの柵に沿って馬が飼われているのが見えて、

馬の横を通り過ぎる。

ちょうど綾人は体の大きい男と話を外でしていた。


「綾人殿!」

藤見が声をかけると二人でこちらを見る。

綾人は横に凛がいることに気がついた様子で、

大男に耳打ちすると駆け足でやってくる。

あっという間だった。


藤見も凛も峰打ちを食わされた。


大男はすぐに凛を肩に抱える。

「こいつはどうします?」と藤見を見下ろした。

「捨ておけ。こいつが倒れていたところでな。

 神のお告げとでも言っておこう。

 幸い、朔日は月がないのだからな。何とでも言える。」


冷たい目で、口だけが笑っているのが妙だった。



辰星(水星)、歳星(木星)

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