四十、衣
「そう言えば、今年は、棚機の奉納はどうするの?」
久しぶりに訪ねてくれた左衣に聞く。
「もちろん、奉納はあるのよ。
天府の王妃様は今年も送ってくれたわよ。」
「そう。。」
自分がいなくても当たり前に行事は進むのだ。
夏の盛りの頃に行われる八月の奉納だった。
天府の王妃が、後宮で育てているお蚕から絹を作り
衣を織る。五色の旗が添えられて御山麓は、艶やかなる。
幣帛はいつもの奉納よりも鮮やかなものだった。
目線を外した凛に左衣は、
「今年の奉納舞の最後は、真角ちゃんよ。」
と言った。
「足は?足は治ったんだ。」
「ええ、問題ないわね。前に帝がいらした時は、凛が代わりに舞ったから、
今度は怪我しない様に気をつけてるのよ。しばらくお洗濯はお休みするって
宣言してた。」
ころころと良く笑う真角を思い出す。
「上弦の月ね。」
「え?」
「ああ、半月なのよね、棚機の奉納舞の時には。」
「そうね。星も良く見えるでしょうね。晴れるといいけど。
垓月様はいらっしゃるから。」
「凛も来れたら良いのだけど?」
凛はふと、「駄目なのかしら?」
と呟いた。
「だって、帰っていけないとか聞いてないわ。」
「そうだけど。難しいのじゃない?」
「ひょっとして、垓月様に同行するとか、
そういう理由があれば、、、、どう?」
「雅様にお伺いしてみる?」
「する!だって、斎宮様、病を克服されたって聞いたもの。
直ぐに御山に登る訳じゃないもの。」
「斎宮様は、大丈夫だったみたいね。本当よ。とと様も言っていたわ。」
声が二人して段々、大きくなる。
「次の斎宮が衣を納めに行くのよ。ええ。良いわよ。」
扉の前にいつのまにか立っていた雅が、微笑んで言った。
「雅様?!」
「何も逃げ出そうってわけじゃないのよ。
宰相にも願い出てみましょう。垓月王に同行したいとね。」
女が三人集まると、確かに姦しい。声の輪から外れた所に、
藤見は偶然通りかかってしまった。
垓月王にに同行だと?
藤見は腑が煮えくりかえった。私であろう?毎年、同行してきたのは。
今年は来るなということか?
-なあ。潰される前に俺に手を貸さないか?
綾人の声が頭が左右に持ってかれる様にこだまする。
あの時は、バカばかしい。と思ったが今となっては心にストンと響く
王の信頼は藤見にとって全てだと言い切れる。
とにかく連れてこいと綾人に言われた。
胸に手を当てると、碧玉の付いた玉の腕飾りをもう一方の手で握りしめた。
御山へ行く前に、朔の占卜がある。
垓月王の心に寄り添うのは私だ。




