三十九、隙間
藤見は次の占いについて、準備をしていた。
神託は舞もだが、甲骨も使う。
御山の斎宮は、亀トを得意とすると聞いているが、ここでは
亀より獣骨が手に入りやすい。
時々、先日の占卜の様子が思い出されて心が乱れていた。
神の声を聞きたいのに、俗物の人間の声が聞こえる。
「歩いてこよ。」
外に出た。小道を森の方へ行こうとして、
垓月王の居る王廷に目をやる。
環濠の中には宮が見える。
垓月は歳が近く、同じくらいの年齢の女子は思いを馳せて支えてきたと思う。
心が弱いと言われるが、愚かではなく、王に立つには優しすぎるのだ。
母の鏡様に似て、色白で面長、女にしたら美しいと思う。
自分がお相手にと恋焦がれている女子は多い。
藤見も畏れ多いと思いながら心惹かれるところがある。
占術で、政を支えてきた自負はある。
特に決めかねる事案に対しては
神託が必要だった。
垓月が王に立つ時は、
神祇家の雅について、神託をし、垓月の擁立に反対する勢力を抑えたと思う。
自分の神託の声は絶対だった。
それを凛が奪っていく。
次の占いにも凛は来るだろう。
もうすぐ御山の祭りもある。
藤見はひたすら気が重かった。
右から藤見に近づいた人の気配に気づき、
身構えると綾人だった。
「藤見。最近当たらんな。」
気に触ることをずばっと言われて、眉間にしわがよる。
「何が言いたい?
占辞は神との語らいの結果だ。愚弄する気か?」
「いやなに。凛と言う娘、
邪魔ではないか?」
心にあるものを言い当てられて、
怪訝な顔で綾人を見返した。
「お前の占いは良く当たるのだ。
今もそれは変わらない。けれど、凛が当たりすぎて、最近お前が霞んで見える。」
「当たるやつがいればそれで良いではないか。
国の安寧のためだ。」
「表向きはな。」
ひげた笑いをした。
「王は凛にご心傾だが?」
「良いことだ。王はお心が弱いとこをがおありだ。」
足先を見て答えた。
小さな頃から、王を守りたいと思って占ってきたのだ。
悔しいが、どうしようもない。
「王の信頼を取り戻したいとは思わぬか?」
綾人は静かに言った。
「信頼?元々されているのか?」
強がりを言う。
王の王政に仕えようと必死に巫女の修行をしてきたが、
最近は、必ず、凛も同じ占いをさせている。
立場は確かに失いつつある。
「凛がこのクニからいなくなるってのはどうだ?」
「はあ?後、何年かしたらどのみち斎宮だろ?
御山に上がったらそうそう、降りてはこられない。」
綾人は、ニヤリとして、
「やはり邪魔か。」
藤見は綾人にのせられたことに気が付いて、舌打ちした。
「どっちでも良いだろ?しばらくは巫女が二人でも。」
藤見は振り切るように歩き出した。
「そうは思わん。御山に上がるのが遅れれば、
お前は潰されるぞ。
なあ。潰される前に俺に手をかさないか?」




