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ぬば玉  作者: しんげつ
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三十六、摂理

凛は雅から許可を貰い

佐奈田の元に通うようになってから、千明とも話をする事が増えた。

星の動きは毎日変わるが、よく観察をすると、規則的な動きも見て取れる。

彼国では日蝕や月蝕が計算できるほどの過去からの記録がある。

手元にないのは惜しいが

月の根国ではそれほど月蝕は気にしていない事に気がついた。日蝕は目に見えて分かるから確かに恐怖だが、月蝕は夜にしか分からない。

けれども月の動きは、暦に関わるから慎重に観察するのが大事だと

千明に言われた。


「今夜は鬼宿に太白があり、井宿に歳星と辰星ですね。月は角宿。」

「角宿ではなく、亢宿かと」

「えー?角宿でしょう?」

「いや、これは譲れませんよ。」

星の動きで、二人で必ず言い合いになれるほどに馴染んでいる。


「佐奈田様!」

意見を求める二人に、

「うーむ。同じくらいに確かに見えるな。」

腕組みをして答える。

同じは確かにあるがはっきりさせたい。

測ってみようと話をしていると、

外で、馬の嗎と、衛兵が誰かと喋っているのが聞こえて、

「誰か来ますね。」と千明が言うと、

足音と共に、綾人が入ってきた。


「これはこれは三毛殿ではありませんか。」

綾人は、凛見ると慇懃に挨拶をした。凛は自分を舐めるように見る

綾人は苦手だった。


「何か御用かの。綾人殿。」

「いや何。聞きたい事がありましてね。昔の文書を調べておりましたら

 思い出した者がおりまして。」

「昔の?」

「姉上の鏡が一時、占いに凝っていた時があったのを覚えておられますか?」

佐奈田はしれっとして言った。

「いいや、そんなことはあったか?」

「おや、佐奈田殿ともあろうお方が?」

ふんっと鼻白むとにやりと笑って

「では、箒星が来たことは覚えておられるでしょうな?」

「無論だ。」

千明と凛は佐奈田が間髪入れずに答えるのを見ていた。

「あの年に亡くなった高、と言う人物を覚えおられるか?」

凛は名前に反応しそうになったが、千明が凛の手首をそっと抑えたのに気づいて

動かなかった。


「高は私の弟子だったからな。」

「あの者が使っていた匙と盤が欲しいのだ。」

挑むように綾人は言う。

「あれは秘術じゃな。」

佐奈田は笑顔のまま答えて、笑っていない目は威圧を皆が感じていた。


「まず、盤は手元にはないし、私は使い方を知らない。」

「何かご存知では?高殿は愛弟子だったはず。」


「弟子が師匠より秀でることはある。

 私が教えたのは秘術ではない。単なる、彼国の天文学だ。

 此の国に来てもうすでに長い。彼国よりこちらの暮らしが長いがな。」


「高殿が占いに使用していた盤は?」

「あれはあやつが自分で作ったものだ。まあ元の形は彼国もので、単に方角を示す道 具であったものを改めたものだ。鏡殿によく使用していたやつじゃな。」

綾人は黙って頷く。


「あの盤を見たことはある。基本は彼国で使われておる形で、

 占うのは盤ではなく、その組み合わせをどう読み込んでいくかだ。

 高の頭の中まではわからんよ。」


「しかし、師ならば少しくらいは。。。。」


「おそらくは算式を組み合わせている。」

「算式。彼国の法か?」

「まあそうだな。」佐奈田は手元にあった石を並べた。


「数の摂理だ。1に1を加えると2になる。

 これは1が倍の数にふえてもその結果は同じ数である。

 そういう原理じゃがわかるか?」


「ああ。何となくは。俺は読書が嫌いでね。

 実家に書籍がある珍しい一族だがな。」


佐奈田はため息混じりに、

「勿体無いの。占術は妖、アヤカシではなく、自然の摂理で動いている

 天の声を聞くものだ。だから高がどの摂理をとらえていたのかはわからん。」


「盤は?盤と匙があればわかるか?」

「さあ、どうだろうな。」

佐奈田は逆に質問をした。

「そなたは鏡様の実弟、補佐役の仕事であろう?

 高の死について何か知っておるか?」

思いがけない返しに、

凛は動けないまま、千明の手を握っていた。


「あ?い、いや。まだ若い時分で、物事がよくわかっていなかったからな。」

「そうか。生きておったら鏡殿と同じくらいの歳だな。」

「な。ああ。」

 話を折られた格好になった綾人は睨むように佐奈田に言った。


「ひとまず、盤を探す。」

「盤が無くとも、天の声は聞ける。

 何か隠していないか?見えないものを恐れすぎているように見えるな。」


「な。無礼な。」

「そなた一族は元々、軍事の職であったか?」

「ああ。父の職を知っておろう。」

「書籍がそんなにあるのか?」

綾人は一瞬何の話か分からなくなったようだった。

「祖先が彼国から此の国建国前に持ち込んだと聞いているが?」


「そうか。羨ましいな。盤を使いたいとは、占卜をしたいと?

 出陣でも近いのか?」

「それは言えんな。」


佐奈田は少し間を置いて、語気を強めて言った。

「戦は民を疲弊させる。夏が終われば収穫の時期だ。

 彼国も然り。民を疲弊させるな。」

「ふん。盤を手に入れたらまたくる。」

そういうと、騒がしく去っていく。


凛は千明の手を取ったまま、匙という言葉を初めて聞いた事に気がついた。



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