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ぬば玉  作者: しんげつ
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三十五、訪問者

「これは、雅様。」

突然の訪いに千明が驚いて立ち上がった。

算式見ていた佐奈田も入り口に目を遣った。

「前触れなく、ごめんなさいね。佐奈田様と少しお話を。」


さすがに佐奈田も立ち上がって、長椅子の前に移動しようとして少し蹌踉ける。

「佐奈田様。」

千明も雅も足の悪い佐奈田にかけよって椅子に座らせてくれた。

雅と直接話をすることは稀で、近くにいても何処か距離を感じる

雰囲気の持ち主だと思っている。


「先日、凛と話をされたと聞いております。どこまで話されたのかと。」

「どこまでと言われますと。。。」

少し間を置いて

「暦と天体の話をしました。」

天文官なのだから、これは問題ないはずだ。

「凛はどう言っていましたか?」

「天の象について学びたいと。」

「天の象ですか?」

「月、陽、星、風、雲、空など自然の摂理と申しましょうか。」

「占卜については?」

「特に、星の運行に興味があると言えば宜しいか。」

「星占をしたいと?」

「はっきりとは。」

高の遺品の円盤については、この場では控えるべきだと思い、

佐奈田は、少し、黙っていた。千明がこちらを見ている。

天の異変と自分たちの生活には、相関性などないとは、流石に雅の前では言えない。

もう何十年も前だが、斎宮として御山の暮らしをしていた

その人の次の言葉は意外であった。


「あの子は斎宮になる命運です。それも良いのかもしれません。」

千明が素直に驚きの表情をしたのをみて、

若いの。

とふと思う。


千明の方から視線を感じながら

「先日の稲を播く時期の神託は見事でしたな。暦は間違えると大事なります故。

 月の動きは、斎宮なられた時には必ず必要かと。」

「ええ、月だけでなく、天の動きを知ることは大事ですからね。

 天府は月の根国よりももっと暦について慎重なのです。」

千明がつい、口を挟んできた。

「そのようですね。天の運行は地の暮らしに反映され、

 その天の意思語ることのできるのが天帝とされていると。」


雅ははっきりと言う千明に少し意外な表情してから

「その手助けをするのが巫女であると信じております。

 もし、佐奈田様が良ければ、天の動きを凛に教えてはいただけないでしょうか?」


佐奈田は、自分同じ目線の高さくらいの雅の顔を見た。

顔立ちに月日を少し感じ、顔がもう一人の女性と重なる。

「占いとは非なるものでも?」雅は少し微笑んで、

「佐奈田様のお考えは、夫を通して良く存じ上げているつもりです。」

と言う。

宰相の克勝も現実を良く見る。迷信などに囚われたりせず、

かと言って、自然への畏怖がないわけではない質だ。


「もう高のような者を周りから出したくはないのだが。」

雅も刹那、暗い目をして頷く。

「千明。凛殿と一緒に学ぶことになるが?」

「誰と学ぼうと、私は問題はないですよ。」

「良かった。凛がお邪魔にならないと良いのですが。」

「大丈夫です。私はこの道が長いのです。ただ。。。。」

佐奈田をもう一度みる

「暦を扱うことは天命を知る事に繋がります。天府に知られないようにしなくては」

「天の運行については知りたがるのに、暦を作るのは大罪だとはな。」

「危険でしょうか?」

「もちろん、凛殿には空の動きの仕組みをお伝えするのにとどめます。」

佐奈田は、千明から雅へ目線を移しつつ、確認するように言った。


「そうだな。我々は常に叛逆者となる危険をはらんでいるからな。」







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