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ぬば玉  作者: しんげつ
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三十四、道標

昼の日光に当たりすぎたのか、夜は寝付けそうになかった。

夜は少し涼しいが、日中は晴れると体が重いと思った。

まだ、真夏の太陽ではないけれど、雨季の晴れ間はジトっとしていた。


夜風に当たると、空の星見上げた。日の沈む前に、夕焼けの中で、

三日月と辰星と歳星、少し離れて太白も見えた。カラが水の里で

星は騒がしくはないか。

と聞いた事を思い出す。カラの表現なら、この天は騒がしい。ということだろう。

巻物の事書を読み取れば、星の犯に当たるだろうし、

辰星を水、歳星を五穀、太白を秋と読めば、

豊作の兆しだ。


佐奈田様は嫌いな考えだろうけど、良いことなら、

言葉を選んで紡ぐのも悪くはない。と思う。

空を睨むようにしていると

この向きからは、北斗が見ない。ことに気がついて、

少し建物沿いを歩くと、

ふっと

風が走った。


振り返ると、碧が片膝で立ち上がるところだ。

「あ。」

嬉しくなって、駆け寄る。

「帰る前に覗いて見て良かった。」

「今から帰るの?夜だよ?」

「暗い方が、俺は楽だからな。」

夜目が効くということか。

「夜にうろうろすると危ないぞ。松明のある方ならともかく。」

「あはは。そうだね。北斗があっちからは見えないから」

「帝星か。」

「子の方向を指すからわかりやすくて。御山の方向も分かりやすいし。」

御山の麓には水の里があるのだ。


「御山は丑寅の方だな。ここから見ると。」

「詳しいね。最近、そういう方向を表す言葉を知ったの。」

「方角は天狗にとって大事だからな。円盤の使い方は分かったか?」

「ううん。やっぱり、対が欲しいなって。でもカラ様がくれた星占の巻を

 眺めていて、星宿と五星の示すものはなんとなく覚えたの。」

「吉兆を占うか?」

「空が全てではないと思うけど、やっぱり私には神の声を聞く才はないと

 思うから。」

「占トには色々あって、風なんかもあるからな。」

「風?強かったら凶事とか?」

「そんな簡単なものではなさそうだがな。」

起こった出来事をどう解釈するかは人それぞれなのだ。

自分はまだ占トの域の入り口にいるだけだ。

「碧は虹が出たら、何か感じる?」

「虹だな。と思う。」

「え?」

単純な答えについ笑う。


「なんだ?虹が出たら良い前触れだ。とか?」

「皆言うよね。けれど、実際はどうなのかな?」

「実際、良い事が起こるかどうかと言うことか?」

「うん。天文官の佐奈田様は、起こらないっていう考えみたい。」

「天文官がそんなこと言っていいのか?」

「まあ、禁句だって言ってたけど。」

「凛はどう思うんだ?」

「虹をみたら、綺麗だな。って。」

「次に起こることを考えるか?」

「うーん。なんとなく嬉しいとは思うけど。斎宮ってそういうのを

 皆んなのために、道標として掲げるのかな。」

「斎宮になると毎日祈祷だろう?そのうち出来るようになる。」

「ありがとう。でも佐奈田様のお考えも分かるの。天の異変は私たちの

 暮らしに異変がある予兆ではないと。」

「確かにな。風が御山から吹いたら良くない、と言われているが、実際は

 その風が海の向こうの雪雲を伴ってくるから寒くなる。ってことだしな。」

「御山おろしね。懐かしい。まだそんなに経ってないのにね。」

御山の見える水の里を思った。


「凛。頑張ってるやつに頑張れとは言わないけどな。とにかく踏ん張れ。

 あがいていると、答えが見つかることもある。」

強い口調で言う、碧の言葉に胸がいっぱいになって、風景が滲んでみえる。


「泣くな。」

そういうと、凛の頭をポンっと叩く。

「帰りたいな。」

「帰ってもきっと皆んなが困るだろ?凛の扱いに。」

直ぐにではなくなったが、次の斎宮だ。

「そうだよね。」

ため息混じりに言うと、碧の手が凛の右頬に触れたのを感じる。

そのまま目線を上げると、碧と唇を重ねた。



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