第七話 再会と、ほどけた糸
紅陽での激突は、一つの名前で止まった。
追う者と、追われる者。
敵として向き合っていた二人は――
その瞬間、ただの“夫婦”へと戻る。
静まり返った空気の中。
猫耳の獣人――ルナは、信じられないものを見るように立ち尽くしていた。
「レンファ……」
声が震える。
その目は、戦闘中とはまるで別人のように揺れていた。
レンファは、一歩、また一歩と前に出る。
「ルナ」
静かに呼ぶ。
それだけで。
張り詰めていた何かが、音を立てて崩れた。
「……っ」
ルナの手から、暗器が落ちる。
カラン、と乾いた音が地面に響く。
次の瞬間。
走った。
一直線に。
迷いなく。
「レンファ!!」
飛び込むように、その胸にぶつかる。
レンファはそれを受け止めた。
強く、しっかりと。
まるで、二度と離さないとでも言うように。
「……生きてた」
ルナの声が、掠れる。
「……生きてた……!」
そのまま、顔を押し付ける。
肩が震えている。
「ずっと……探してた……!」
言葉が途切れる。
呼吸が乱れる。
「どこにもいなくて……手がかりもなくて……」
感情が、溢れる。
「でも、匂いが……匂いがしたから……!」
顔を上げる。
涙で滲んだ視界の中で、それでもレンファを見つめる。
「やっと……見つけた……」
その一言に、すべてが込められていた。
レンファは、静かにルナの頭に手を置く。
「……そうか」
短い言葉。
だが、そこには確かな安堵があった。
「大変だったな」
その一言で。
ルナの表情が、さらに崩れる。
「……うん」
小さく頷く。
戦場では見せなかった、完全に力の抜けた顔だった。
その様子を、周囲の面々は黙って見ていた。
レンも、フィオも、リディアも。
誰も口を挟まない。
それほどに、この再会は、重かった。
やがて。
ルナが、ふと周囲に気づく。
視線がゆっくりと動く。
リディア、レン、フィオ、レオン、セラ。
――そして。
「……あ」
完全に固まった。
「……えっと……」
さっきまで戦っていた相手が、全員こちらを見ている。
しかも武器を構えていた相手だ。
状況を理解した瞬間。
ルナの顔が、みるみる赤くなる。
「……ご迷惑を……おかけして……」
そう言いかけた、その時。
レンファの手が、ルナの頭を掴んだ。
「ほら」
ぐいっと。
そのまま――
「ご迷惑をおかけして」
強制的に頭を下げさせる。
「ちょっ――」
「ご迷惑をおかけして」
「言ってる言ってる!」
ルナが慌てて顔を上げようとするが、がっちり押さえられている。
「だって〜!」
「だってじゃないでしょ!」
「ふぇ〜ん……」
さっきまでの張り詰めた空気が嘘のように、甘えた声が響く。
完全に別人だった。
その様子を見て、レンがぽつりと呟く。
「……このギャップはなに?」
フィオも同じく呆れたように言う。
「さっきまで、完全に殺しのプロみたいな動きしてたよね?」
「うん」
レオンが苦笑する。
「リディアとやり合えるレベルで、あの状態だからな」
「普通じゃない」
セラも頷く。
リディアは剣を収めながら、静かに言った。
「……戦いの質が違った」
それが評価だった。
だが――
目の前のルナは、完全に別の存在だった。
「ふぇ〜ん……レンファぁ……」
「泣くな」
頭を撫でられて、さらにくっつく。
「会いたかった……」
「分かってる」
そのやり取りを見て、レンは肩をすくめた。
「……まあ、敵じゃなさそうでよかった」
「結果的にはね」
フィオが苦笑する。
ミレーヌが一歩前に出る。
「とりあえず、中に入りな。話はそれからだよ」
「……はい」
ルナが小さく頷く。
まだ少しだけ、レンファの服を掴んだまま。
その姿は、先ほどまでのアサシンとは思えないほどだった。
だが――
それでも確かに、同一人物。
紅陽に、新たな存在が加わった。
それは、戦力としても――
そして何より、“繋がり”としても。
大きな意味を持つことになる。
第七話を読んでいただきありがとうございます。
今回は、ルナとレンファの再会、そして誤解の解消を描きました。
戦闘時の冷徹さと、再会時の感情の爆発――そのギャップを楽しんでいただけたら嬉しいです。
ここからは、ルナが紅陽に加わることで、物語がさらに広がっていきます。
次回は、落ち着いた後の会話と「居場所」の話へ。
引き続きお楽しみください。




