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最終話 帰る場所

すれ違い、追いかけ、そして再び出会う。


長い時間をかけて辿り着いたのは、

“元の場所”ではなく――


“これからの居場所”だった。

 蒼月亭の中。


 戦いの余韻がまだわずかに残る中、全員が落ち着いた空気を取り戻していた。


 ルナはレンファの隣に座りながら、ようやく状況を整理するように息を吐いた。


「……改めて、話していい?」


 その言葉に、全員の視線が集まる。


「レンファがいなくなったのは……材料採取に行った時」


 ゆっくりと、言葉を紡ぐ。


「普段は一緒に行くんだけど……その日は、たまたま洗濯物が終わらなくて」


 少しだけ、苦笑する。


「先に行ってもらって、あとで追いかけたの」


 だが――


「……いなかった」


 その一言で、空気が引き締まる。


「痕跡も、戦った跡もなかった。ただ……消えたみたいに」


 視線が落ちる。


「それで、国中探した」


 短く言うが、その重さは伝わる。


「どこにもいなくて……でも、噂だけはあった」


 顔を上げる。


「連れて行かれるのを見たって人がいたの」


 その場の全員が、黙って聞いている。


「だから、追いかけた。ずっと」


 時間の長さは語らない。


 だが、その一言で十分だった。


「手がかりなんてほとんどなくて……それでも、匂いだけを頼りに」


 そして――


 レンの方を見る。


「王都で、すれ違った」


 あの瞬間を思い出すように、目を細める。


「レンファの匂いがして……でも、違う人だった」


 少しだけ笑う。


「“なんで?”って思った」


 そして、肩をすくめる。


「……あとは、ご覧の通り」


 場に、わずかな笑いが広がる。


 レンが軽く手を挙げる。


「その“違う人”が俺な」

「うん」

「びっくりしたわ」


 フィオも苦笑する。


「完全に巻き込まれた形だよね」

「結果オーライだろ」

「まあね」


 少しずつ、空気が柔らいでいく。


 その中で、レンファが静かに口を開いた。


「……家は?」


 短い問い。


 ルナは迷いなく答える。


「引き払った」


 間を置かず、続ける。


「帰る所は?」

「ない」


 はっきりと。


 迷いはなかった。


 その言葉を受けて、レンファは一度だけ目を閉じる。


 そして。


 ミレーヌの方を向いた。


「ミレーヌさん」


 姿勢を正す。


「厚かましいお願いですが」


 真っ直ぐに言う。


「妻の待つ家に帰るつもりでしたが……こうしてここにいます」


 一度、ルナを見る。


 そして、もう一度前を向く。


「家も無いと言います」


 短く息を吸う。


「この村に、住まわせてもらえれば……」


 その言葉に、ルナがすぐに続く。


「レンファがいいって言うなら、私はどこでもいいよ」


 即答だった。


 迷いのない声。


 それを聞いて、ミレーヌは少しだけ笑う。


「誤解も解けたしね」


 軽く肩をすくめる。


「レンファの妻なら、疑う必要もないよ」


 その一言で、全てが決まる。


 レオンがすぐに立ち上がる。


「じゃあ早速、廃屋を直すか?」


「早いね」

 レンが苦笑する。


「住む場所が必要だろ」

「それはそうだけど」


 カイも頷く。


「直すなら手伝うぞ」

「助かる」


 流れは一気に動き出した。


 レンファが頭を下げる。


「ありがとうございます」


 その横で――


「ありがとうにゃん!」


 ルナが元気よく言う。


 一瞬、空気が止まる。


 そして。


「……このギャップは凄いわ」

 フィオが呆れたように言う。


「さっきまでの動きと別人すぎるでしょ」

「旦那さんにゾッコンなんだね」

 セラが笑う。


 ルナは胸を張る。


「レンファが世界一にゃん!」


「……とても暗器使いのアサシンとは思えない」

 レオンがぼそりと呟く。


「同感」

 レンも頷く。


 だが、その空気は決して悪いものではない。


 むしろ――


 紅陽らしい、温かさがあった。


 レンファが小さく息を吐く。


 その視線の先には、ルナがいる。


 失ったと思っていた存在。


 もう戻らないと思っていた日常。


 それが今、ここにある。


 以前と同じではない。


 だが。


 それでも、確かに――


「……ここでいい」


 小さく、呟く。


 それは誰に向けた言葉でもなかった。


 だが、確かな決意だった。


 紅陽という場所に。


 また一つ、新しい“居場所”が生まれる。


 それは――


 レンファとルナ。


 二人の帰る場所だった。

最終話まで読んでいただき、ありがとうございました。


今回のスピンオフでは、レンファとルナの再会、そして紅陽という場所に新たな“居場所”が生まれるまでを描きました。


戦闘、追跡、再会、そして日常へ。

一連の流れを通して、「居場所」というテーマを感じていただけたなら嬉しいです。


ここから先は、紅陽での新しい生活や、さらに広がる人の繋がりへと続いていきます。

また別の物語でお会いできたら嬉しいです。


ありがとうございました。

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