表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/8

第四話 匂いと追跡者

紅陽を発ったレンは、オルフェンを経由して王都へと向かう。

目的は錬金術に必要な器具の調達――ただそれだけのはずだった。


だがその旅路の先で、もう一つの物語が動き始める。


“匂い”を辿る者。

そして、知らぬ間に追われる者。

 紅陽を出てから数日。


 レンは予定通りオルフェンを経由し、王都へと到着していた。


 石造りの巨大な城壁。人の往来、商人の呼び声、整備された道。紅陽とは比べものにならない規模と活気が、王都にはあった。


「……相変わらず人が多いな」


 軽く周囲を見回しながら、レンは門をくぐる。


 今回の目的は明確だ。


 錬金術用の器具の調達。

 そして、比較用のハイポーションの購入。


 余計な寄り道をする理由はない。


「まずは道具屋だな」


 記憶を頼りに、レンは以前立ち寄ったことのある通りへと向かった。


 しばらく歩くと、目的の店が見えてくる。


 外観は地味だが、扱っている品は確かだ。錬金術に必要な器具も一通り揃っている。


 扉を開けると、鈴の音が鳴った。


「いらっしゃい」


 店の奥から、無精ひげの店主が顔を出す。


 レンは懐から紙を取り出し、カウンターに広げた。


「これをお願い。あと、ハイポーションも一つ」

「……ふむ」


 店主は紙に目を通し、鼻を鳴らす。


「錬金道具一式か。揃えてやるよ」

「頼む」


 しばらくして、必要な器具が一つずつ揃えられていく。


 フラスコ、蒸留器、細かな管、調合用の器具。紅陽には存在しない、専門的な道具ばかりだ。


「ほらよ。それとハイポーション」

 小瓶が一つ、カウンターに置かれる。


 淡く濁った液体が、わずかに光を反射している。


「毎度あり」


 レンは代金を支払い、荷をまとめる。


「助かった」


 短く礼を言って、店を後にした。


 目的は達成した。


 あとは紅陽へ戻るだけだ。


 そのまま通りを抜け、門へと向かう。


 その時だった。


 すれ違う人の中に、ひときわ目を引く存在がいた。


 猫耳の獣人の女。


 その動きは軽やかで、無駄がない。人混みの中を、まるで流れるように進んでいく。


 レンは特に気に留めることなく、そのまま歩き続けた。


 ――だが。


「……あれ?」


 女は足を止めた。


 ゆっくりと振り返る。


 すでにレンは人混みの中を抜け、遠ざかりつつある。


「今の匂い……」


 小さく呟く。


 その目が、わずかに揺れた。


「あの人の匂いだ……」


 確信に近い感覚だった。


 だが、違和感もある。


「……なんで、あの男から?」


 狐の匂い。


 忘れるはずのない匂い。


 ずっと探し続けていた――


 それが、今、別の男からした。


 女の表情が変わる。


 迷いはなかった。


 再び歩き出す。


 今度は、人混みを縫うように、先ほどの男――レンの進んだ方向へ。


 門の前。


 レンは門番と軽くやり取りをしていた。


「出るのか?」

「ああ。用は済んだ」

「気をつけろよ」


 短いやり取り。


 その間に、女は距離を詰める。


 自然な動きで、人の流れに紛れながら近づく。


 そして――


「……やっぱり」


 視線が、レンの衣服に止まる。


 ほんのわずか。


 気づく者はほとんどいないだろう。


 だが、彼女には分かる。


 服の端に付着した、一本の毛。


 狐の毛。


「間違いない……」


 確信に変わる。


「あの人のことを知ってる」


 呼吸がわずかに速くなる。


「やっと……」


 長い時間だった。


 探し続けて、手がかりすら掴めなかった。


 それが今、目の前にある。


「やっと手がかりを掴んだ」


 感情を押し殺す。


 ここで動くのは違う。


 確実に、追う。


 見失わないように。


 慎重に。


 レンが門を抜ける。


 その背中を、女は少し距離を置いて追い始めた。


 足音は消し、気配を殺す。


 それは訓練された者の動きだった。


 獲物を追う者のそれ。


 だがその目には、殺意ではなく――


 執着と、わずかな焦りが宿っていた。


 知らぬ間に始まる追跡。


 追われていることに、まだ気づかぬまま。


 レンは紅陽への帰路につく。


 そしてその背後には、静かに迫る影があった。

第四話を読んでいただきありがとうございます。


今回は、レンの王都での買い出しと、猫耳の獣人――“追跡者”の登場でした。

ここから物語は一気に緊張感を帯びていきます。


匂いを辿る者と、知らずに進む者。

この二人の動きが、次回から交差し始めます。


次話では、レン側の“違和感”が描かれていきます。

ぜひ続きもお楽しみください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ