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第49話

「ジーク! 助けてくれ! お前が奴に優しく扱われているのも知っている。だから頼む! どうかこの父を助けてくれ!」


 私は一体何を見ているのだろうか。奴隷に堕ちる前に見た父上は厳格でとても強い人だと思っていた。

 過去に戦争で活躍したと王立学校の教科書に載っていたし、私はその人の娘であることに誇りを持っていた。

 なのになんだ? この惨めな男は。


 百歩譲って、私を取り戻そうと足掻いたのは理解してやる。

 だが、それにしては勝手が過ぎるんじゃないか?

 帝国軍を苦しませ、孤児院を焼いて子供達の住む場所とフィーネ先生の命を奪った。

 それをなんの詫びれもせず助けてくれだと?

 私はこんな屑の娘だったのか……。

 そう考えると、胸の中からこう……煮えたぎる何かが込み上げてきそうだ。


「ジーク!」

「誰だそれは? 今お前の目の前にいるのはジーナだ。お前の呼ぶジークリンデはお前がご主人に報酬を拒否した日に死んだ」

「お前! まだあの日私が言ったことを根に持っているのか! あれは蘇生魔法が有効だと思っていたからで――」

「そうだな。確かにそう思っての発言だったのだろう。だが、あの日あの言葉を受けた私は絶望したのだ。信じていたのに、お前を誇りに思っていたのに……」

「ジ、ジーク?」

「その名で呼ぶなッ!」

「ぐあっ!?」

 

 気付けば私は腹が立つあまりバルトルトの頭を蹴り飛ばしていた。

 この一撃であの恐ろしかった父親の存在はこんなにも脆く、弱々しい物だったのだと気づかされた。


「気でも狂ったか!?」

「狂っているのはお前の方だ! なぜ孤児院を焼いた! なぜフィーネ先生を殺したッ!」


 バルトルトの首を掴む! 苦しそうに踠きながらもこの男は告げる。

 

「全ては我がグラリューゼの為だ。その為の犠牲など瑣末なことじゃないか。寧ろ感謝されこそすれ、恨まれる謂れなどないわ……」

「このッ! 腐れ外道がッ!!」


 顔面をぶん殴った。

 ここまで殺意が湧いたのは初めてだ。

 よもや自分の父親に対して抱くことになろうとは思いもしなかったがな。

 乱れた息を整えていると、ご主人がじっとこちらを見ている姿を捉えた。

 そんな心配そうに見ないでくれご主人。

 大丈夫。こいつは確かにムカつく男だが、殺しはしない。


「バルトルト……。お前にひとつ言っておくことがある」

「言っておくこと……だと?」


 ぷっと血を吐き捨てながらバルトルトが見上げてくる。

 ああ……。一度覚悟を決めればこんなにも人間は無情になれるのだな。

 

「お前とは父と子の関係だったが、それも今日限りだ」

「ジーク! お前なにを!?」

「今言ったことが全てだ。お前とは縁を切る。もう顔すら見たくもない……願わくば大陸の端で静かに朽ちて消えろ」


 踵を返し、ご主人の元へ足を進める。

 背後から「ジーク!」とこの世に存在しない愚か者の名を呼ぶ声が聞こえるが、「私の用は済んだ」と、ご主人の肩に手を置いてそう伝えた。

 ここにきた理由は……果たせた。


「ジークリンデ……」


 いや、まだこいつが居たな……。

 カーマイン王子。

 かつてジークリンデだった女の婚約者。

 今ではただのゲロ吐き小僧。


「ジークリンデ……私だ、カーマインだ。これは悪い夢なんだ……そうだ、そうに違いない。グラハイム卿がこんな奴に負けるわけもないんだ」


 現実逃避か……。今、目の前で起こっている事実を認めたくないようだな。

 ふっ。今思えば半年前の私もこいつと同じように現実から目を背けていたんだったか。


「王子。ジークリンデという女はダンジョンで息絶えました。今あなたの目の前にいる女はただの奴隷ジーナです」

「違う、違う違う違うッ! 君はジークリンデだ! 誰よりも気高く美しい私の妻だ! 君の全ては私の物だ! 私も君の物だ!」

「お戯を。私のような下女が貴方のような高貴な存在の所有物になれるとは思えません」


 ただそれだけ言ってご主人の元へ向かう。

 目の前からはバルトルトが「ジーク」と呼び、横からはカーマイン王子からの「ジークリンデ」という声。

 もううんざりだ。早く終わらせてフィーネ先生を弔いたい。


「もういいな」

「ああ。手間取らせてすまないご主人。行こう……」

「分かった」


 ご主人と共に私はこの部屋から歩き始める。

 後ろからは情けない男2人の声が残された。

 さよなら。過去の私よ……。

 さよなら。家族よ……。

 なぜだろうな。

 腹が立つほど嫌いになったはずなのに、あの2人の声を聞くたび、胸が痛んで涙が溢れてきたのは。


 ***


 さて、最後の仕上げだ。

 そうして向かった先は現国王の座す間だ。

 ここまで来てなんの謝罪もなしに帰るなんて真似はできるはずがないからな。

 子供の不始末親の始末ってやつだ。

 固く閉ざされた謁見の間の扉を開く。

 奥には王妃に国王の2人が頭を抱えて座に構えていた。

 2人とも50を超える老齢だ。

 このような事態になってさぞ胸が苦しいだろうな。

 

「アイザック・ニュートリウス……。ニュートリウス連隊【死風】よ……いったい我になんのようだ」

「言わずとも察しがついておられるのでは?」

「そうだな……。まずは謝罪を。我が愚息が多大な迷惑をおかけした事、ここにお詫び申し上げる」


 王妃、王共々頭を深く下げた。これにはジーナもギョッとしているが……。頭を下げるのは親として当たり前ではないか?


「王よ。貴方は今回の件にどれだけ関わっておいででしたか?」

「正直に申し上げる。我はバルトルトを奴隷の身から解放し侯爵の座に戻したいと思っておった。その娘がアイザック殿の奴隷になったことも知っていた。だから息子に金を私円満に解決するよう言伝えたつもりだったのだが……」

「なるほど……十分です」


 王はバルトルトの身柄さえ確保できれば良かっただけというわけだな。


「ですが、そのバルトルトとあなた方の息子は少々やり過ぎましたな。帝国領に放ったゴーレムの起動に、軍を使った私に対するグライカンでの嫌がらせ。同時に2国の不可侵条約を破ったのですからな」

「ぐっ……。確かにそうだ……」

「まあその話は一旦置いておいて、払うものを払っていただきましょう」


 慰謝料は頂かなければな。

 タダで許されるほど大陸は優しくはないのだから。

 

「い、いくら所望する。アイザック殿の言い値で構わん……」

「あなた!? そんな事言っては此奴が!」

「お前は黙っていなさい!」


 国王の一一喝で王妃が黙った。誰も得しない喧嘩を見せられてうんざりだ。

 

「お二人の痴話喧嘩なぞ見たくもありません。払って頂けるのですね?」

「ああ……」

「では、孤児院の焼失、私の大事な教え子を殺害した慰謝料として700億。グライカンと帝国で見た王国の凶行の口止め料として5兆頂こう」

「ご、5兆!? あなたどうかしてるわ!? そんな金払えるわけがないでしょう!?」


 王妃は納得いかない様子だ。

 

「何故です? 安いものでしょう? 私への慰謝料は別として、5兆払えば2国から睨まれずに済むのですよ? いいんですか? 私が帝国とグライカンに口走っても?」

「そ、それだけはやめてくれ……頼む」


 王が必死に頭を下げる程の弱みだ。

 

「そうでしょうなぁ。仮に2国に睨まれるような事になれば必然的に法国も警戒するでしょう。そうなればこの国の物流はお終いだ。他国は皆、騙し討ちするような下劣な国家として王国を揶揄されるでしょう。それがたったの5兆で解決するのですよ? 王妃、よく考えて頂きたい……どちらが得か」

「私たちを……王国を殺すつもり……?」

「いいえ殺しはしませんとも……ただ」


 2人は私の次に告げる言葉に息を飲んでいる。

 隣に控えるジーナは「そこまでするか……」と言ったような顔を向けてきている。

 まあ思うことがあれば後で聞いてやろう。


「ただ。死ぬほど苦しい生活をあんた達に味わってもらう。それが私の望みだ」

「屍食鬼め……。その名の通り私たちの命を食い物にする害虫め……」


 厚化粧が崩れるぞ? 王妃。確かに命を食い物にしてるのは私だが、こと今回の件に至ってはあんたの息子が引き起こしたことだろうに……。

 子が子なら親も親だな。

 

「なんとでも言えばよろしい。ですがこれで命は助かるのは事実です。王よ? 答えはいかに?」


 暫し悩んだ王は口を開いた。

 結果は見えていた。

 これは交渉などではなくただの脅しだ。

 これに応じてさえくれれば私も全て忘れると言った条件なのだから。

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