第50話
フィーネの葬儀は慎ましおく執り行われた。
彼女に家族は居ない、この場に集まったのは私にリオン、ジーナ、それとシエスタで共に暮らしていた子供達だけだった。
「うっ、ひっく。せんせぇ……」
「泣かないのカロル……。先生は私たちを守ってくれたんだから……泣いて見送っちゃかわいそうでしょ……」
「だって、だってぇ……」
泣いてるカロルを励ましているのはリンか。
彼女の目にも涙が溢れているが我慢強いな。
歳は確かこの場にいる子供達の中では1番上だったか。
お姉さんらしく振る舞おうとしているのだろう。
神父が祈りを終え、棺桶が土に埋められていく。
あの中にフィーネの体は無い。燃えて全て灰になったのだから……。
代わりに中にあるのは焼けずに残った彼女の私物だけだ。
その私物は大事に小箱に入れられていた。
私がそれを拾い上げて、中を見た時は思わず涙が出そうになった。
そこにあったのは彼女が初めて見せてくれた笑顔の写真。私と一緒に写っていた写真だったからだ。
「ご主人……フィーネ先生とは長かったのか?」
ジーナが埋められていく棺桶を見つめながら聞いてきた。
「ああ……。彼女は私が初めて保護した子なんだ。彼女も内戦で家族、兄弟を失った。歳は7つの頃だったな……。当時の彼女はひどく大人を嫌っていてね。私も中々手を焼かされたものだ」
ジーナは黙って聞いていた。
棺桶が埋め立てられ墓の前で子供達が1人ずつ花を備え祈りを捧げている。
「フィーネは家族を失ったからか子供達の面倒をよく見てくれた……。きっとあの子達に家族の温かさを忘れて欲しくなかったんだろう。私が孤児院を作ると言ったら、フィーネ……食い気味に先生がやりたいと言いだしてな」
「だからシエスタで先生を……」
「彼女は頑張って生きたよ。教師になる為に勉学に励み、子ども達の健康管理のために栄養学を学び、料理の腕も鍛えた。誰よりも気高く……。そして、私の誇りだ」
子供達の祈りが終わった。
みんな私たちに顔を向けている。
そうだな……最後なんだ、私も見送ってあげないとな。
シスターから花を受け取り墓の前へ。
白い花……。法国に咲くミチビキ草だ。
この花は天国へ迷わず向かえるようにと願いが込められている。
私はその花を置いて祈りを捧げる。
思い起こされるのは、幼かった彼女のツンとした膨れっ面とたまに見せてくれたあどけない笑顔。
そう言えば……私のことを初めて先生と呼んだのも君だったな。
今では大陸中から私のことを先生と呼ばれるようになったよ。
「フィーネ……君はよく生きたよ。その命の選択を……私は尊重する」
彼女は選んだのだ。
自分の命を引き換えに家族である子供達を守り抜くことを。
ならば私はその意志を認めてあげるべきだ。
それが屍食鬼である私が君にしてあげられる最後の……選別なのだから。
***
葬儀から1週間過ぎた。
朝の屋敷ではリオンがせっせと掃除に励んでいる。
三角巾に白い割烹着を着た東方スタイルだ。
リオン……形から入る所があるからなぁ。
私はジーナが焼いてくれたトーストを齧りながら、BGMのように流れているテレビに目を映した。
そこには王国が混乱している映像が流れている。
国王に不満を覚えた市民達による暴動。
王国軍によるクーデターとかなり酷い様子だ。
あの石造りの街は火の手が回り、砕け、まるでこの世の終わりのような光景だ。
「もうあの国は滅ぶんじゃないだろうか」
ジーナがサラダを持ってテーブルに置いて言った。
「なにせ、ご主人が国の貯蔵の大半を持って行ったからな……。失った財力を取り戻そうと税収を引き上げ、軍の給料を引き下げたせいでこうなったと言うわけだ。間抜けめ」
「なんだ。お前もあの国出身なのに酷い言い草じゃないか」
ゴトッとコーヒーをテーブルに置いたジーナからはどこか怒りが感じられた。
何をそんなに怒っているんだ。
「私はもうあの国のものではない。あんな自分勝手な成金国家……滅びてしまえばいい」
「あー……なるほどな……」
王国から離れたことであの国の洗脳が解けたといいかわけだ。
父親と婚約者の愚かさがトドメになったんだろう。
報道を見る限り、ジーナの言う通りあの国はもう保たないだろう。
少なくともあの国王と王妃は退去する事になるはずだ。
「ご主人は思うところはないのか?」
「思うところとは?」
「あのクーデターで泣いてる子供が映った……。それはつまり家族を失ったと言う事なんじゃないだろうか……。それは私達があの日……」
あの日、王から金を巻き上げた所為で起こった。
そう言いたいわけだろう、確かにその通り。
あれは私が起こしたようなものだ。
「思うところはあるさ。だが、私は国を運営できるギリギリの金を取っただけに過ぎない。贅沢を覚えた貴族達が生活の質を落としたくないと欲張った選択で起こった事だ。まあそれなりに支援はさせてもらうつもりだがね」
「支援……?」
「ああ。あの国にいくつか児童施設を建てる。それが私が出来る支援だ」
「児童施設……。ご主人!」
バン!
なんだ? ジーナがテーブルを叩いて私の顔を見つめてきた。
「ご主人……私、孤児院の教員になりたい!」
「ふむ……なぜ?」
コーヒーを啜り彼女の話を聞く事にした。
「私はこれまで自分のやりたい事を探した。料理することは楽しい。それを仕事にするのも悪くないと思った。だが……城で見せられた王国貴族の醜態……。フィーネ先生の意志。子供達の涙。それら全て見た時私は思ったのだ……。この子達をもう悲しませたくないと」
どうやらジーナはこの半年でかなり内面的に成長したようだ。
根はいい奴だからな、素直な性格が幸いしたのだろう。
「バルトルトが私に植え付けた偏った知識を子供達に与えるわけにはいかない。ご主人が言ってくれた自分自身で何かを選び取る知識を与えたい……だから私は――孤児院の教員になりたいんだ!」
彼女の決意は本物だな。ならば――
「分かった。ではジーナ……こっちに来なさい」
「ご主人?」
私が手招きするとジーナは不思議そうに近づいてきた。
彼女の首に付けられた鉄の輪に手を触れる。
「【リリース】」
「うっ……なんだ!?」
眩い光が放たれ、この部屋を白く染めた。
光が収まると、ジーナの首についていた輪が床に落ちていた。
「こ、これは……」
「これでお前は奴隷ではなくなった」
「は、はぁ!? ど、どう言うことだ、ご主人!? 私はまだ借金の返済を終えてないぞ!?」
「借金?」
「200億と慰謝料を合わせた――」
「あ〜、問題ない。それにお前言ったじゃないか。孤児院の先生になりたいと」
「言ったが……確かに言ったが……」
「だったら私がこの町で新しく建てる孤児院……シエスタで働きなさい。給料は借金に少し引かれるがね」
「そ、それって……」
ジーナの目が輝いた。
「ああ。お前が選んだやりたい事だろ? だったらこの首輪は邪魔だ。これからは私の事をご主人と呼ばなくていいぞ」
椅子を立ち、居間から出ていくと、背後でジーナの啜り泣くような声が聞こえてくる。
今は1人にさせておこう、喜びを噛み締める時間を邪魔されたくはないだろうしな。
ジリリリリ! と電話が鳴った。
ちょうど廊下に出て電話はすぐそばにある。リオンは……掃除で2階にいるようだ。
仕方ない……出るか。
「もしもし。アイザックだが」
『アイザック殿!? アイザック殿か! 我だ! リベリオン王国の――』
「あー。国王様ですか。これはお久しぶりです。どうしました? 何やら後ろの方でドンパチと騒がしいようですが……」
『知っているだろう!? クーデターだ! 皆が我を殺しに来よる。妻もたった今首を刎ねられ……息子も軍に捕えられてしまった。頼む……助けてくれぇ……』
「助ける……誰をですかな?」
電話の向こうから銃声と怒号、いくつかの爆発音が聞こえる。
それも徐々に近づいてきているようだ。
王はビクついたように声を震わせている。
『分かっているであろう! 我と妻、そしてカーマインを助けてくれ……』
「なるほど……。確かに今のあなた方を助け出せるのはこの大陸で私だけでしょうな」
冒険者は国家の問題に参入出来ない盟約がある。
処刑される事が決まった王の奪還など不可能だ。それをこの王も分かっていての連絡だろう。
「構いませんよ? あなたと王妃。2人を救って差し上げましょう」
『2人? 息子は!? カーマインは!?』
「いやはや残念な事に彼とは契約を交わしていましてなぁ。私に知り合いの全てと接触しないと魂に刻まれているのですよ」
『な、なんだと!?』
「なので残念ですが……息子さんは諦めなさい。その代わりこのアイザック。全身全霊で王と王妃をあの世から連れ戻してみせますよ」
『ぐっ……うぅぅ……』
生き残って、王派閥の貴族を率いて王国に返り咲きたいのだろう。
だが、世継ぎであるカーマインを取り戻さなければ未来はない。
王派閥も未来なき王には従わないはずだ。
だが、契約は成されているのだ。破るわけにはいかない。
「どうします? 私は別にどっちでも構わないんですがね?」
『ま、待て! 分かった。余と妻……だけ助けてくれぇ……』
「かしこまりました。では報酬ですが――」
ジーナは夢を見つけ、王は全てを失った。
欲を張ると良いことがない。
人生何事も程良く生きるべきだと改めて思い知らされたな。
「ジーナ! リオン! 依頼だ!」
「お仕事!? どこに行くの〜」
「ぐすっ。依頼内容はなんだ?」
笑顔で飛び出てきたリオン。
泣き顔を拭うジーナに私はニッと笑い告げた。
「死地にだよ」
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