第47話
「バルトルト。ジークリンデを取り戻す手筈が整ったと言ったがそれは本当なんだろうな」
「はいカーマイン王子。帝国に配備させておいたゴーレムを使って奴を誘き出し戦力を図りました。ニュートリウス連隊といえど奴はたった1人の人間。どうやら全隊員の技を完全に使いこなせていないようです」
王城最上階にある私の部屋で私の顔を見上げるバルトルトがそう言った。
ジークリンデ奪還についてはこいつに全て任せていた。
思ったより早く成果を出してくれたようで助かる。
「ゴーレムを使ったからどうなったんだ。私にも分かるように説明しろ」
「はい。奴の力はゴーレムを通して確認した所、魔力量はそこまで高くない様子。ただ奴の力で最も注意する点は集中力にあるでしょう」
「集中力?」
「集中力です。奴の動き、技、魔術その使い分けは敵の弱点を正確に見極めるその思考力です。ですがご安心を。そんな奴の集中力を削ぐ為の仕掛けは成功しましたので」
「おお! では奴から力づくでジークリンデを奪い返せるということか!」
「はい。明日早朝にグライカンへ隠密部隊を向かわせます。選りすぐりの精鋭達です。いかに奴でも冷静をかいた状態では生きてはいられないでしょうな」
そうなると、ジークリンデの身柄は確実に奪い返せるという事か。
「はは。よくやった。これが上手く行った暁には貴様を侯爵の地位に戻してもらうよう父に計らってやる」
「ははぁ! ありがとうございます!」
膝を着き頭を下げるバルトルト。
そうなると明日が楽しみで仕方ない。これでジークリンデは私の妻として……。
ドゴン……。
「何だ今の音は?」
微かだが、遠くで何かが炸裂する音が聞こえたぞ。
バルトルトは気づいていないのか、「何の音でございますか?」と首を傾げてる。
歳だからか耳が遠いらしい。
ドゴン!
「また聞こえたぞ! なんだこの音は!」
「私にも聞こえました……どうやら爆発物が炸裂したような音ですが……」
私は椅子から立ち上がり、壁に備え付けられた内線電話を取り、警備に連絡を入れた。
「おい! 爆発が聞こえたがどうなってる? 何かあったのか?」
『は、はい! ただいま賊が王城に侵入中です! 近衛師団が迎撃に当たっていますが……』
「当たってるが? なんだ!」
『奴の力は異常で、ってうわぁ――!?』
ドゴォン!!
受話器の向こう側からとんでもない爆音が響いて思わず受話器から耳を離した。
「一体何が起きている……」
「王子! カーマイン王子! 如何なされたのです? 警備はなんと?」
「敵襲を受けているらしい。それも近衛師団が手を焼くほどの……」
「なんですと!?」
胸がざわつく。なにかとてつもなく嫌な予感が――
『もしもし』
突然受話器から男の声が発せられた。
出るべきではないと分かってはいるものの、耳に当てずにはいられなかった。
『この回線。王子の部屋に直通だな。そこで聞いてるお前。お前はカーマイン王子で間違いないか?』
この声ッ!? 忘れるはずがない。アイザック・ニュートリウス!?
『王子。今から3分ほどでそちらに向かいますのでお待ちになっててください』
ただそれだけを言い残して電話を切られた。手から受話器が落ちる。力が入らない。怖い。なんだ、なんなんだ!?
「王子、王子! 何が聞こえたんです!」
「奴の声だ……」
「奴? それは一体誰なんです? 賊ですか?」
「アイザックだ……。アイザック・ニュートリウス本人だ」
「なっ!?」
バルトルトの顔が青ざめた。
きっと今の私も同じ顔をしているのだろう。体が震えて止まらない。
今も部屋の外から聞こえてくる悲鳴と爆音。
まだ遠いが……3分でここに来るだと?
「バルトルト! 貴様、話が違うではないか! 奴は冷静さを欠いて今は弱っているんじゃなかったのか!」
「そ、そのはずですが……そのはずだったんですが!?」
くそっ! こいつの想定外の事態というわけか!
逃げなければ! 私はリベリオン王国王位継承権を持つ第一王子カーマインだぞ!
こんな所で死ぬわけには――
「そうだ! 父上に……父上に何とかして貰えば良いんだ!」
そうと決まれば!
受話器をとにとり父上に直通連絡を入れる。
するとすぐに応答があった。
これでなんとか助かる!
「父上! お助けください! 賊が私の命を狙っております! 父上!」
これで助かる。そう思ったが、父上からの返事がない。息遣いは聞こえているから繋がっているはずだが……。
『カーマイン。お前何をした……』
ようやく聞こえた父上の声は震えていた。
「何をって……私は婚約者であるジークリンデを取り戻そうと――」
『それは聞いている! 円満に解決するとお前が言ったから金を渡したのだぞ? なのに何だこれは!』
確かに言った。私はアイザックの屋敷に向かう際、父上から強くそう言われていた。
「円満に解決しようと思ったんです! ですが奴らが敵対してジークリンデを渡さなかったから!」
『渡さなかったから何をしたというんだ! なぜ解決できなかったと報告してこなかった!』
「そ、それは……バルトルトが……」
目をバルトルトに向けると、冷や汗をかいて挙動不審な様子だ。
『バルトルトめ。奴の力をと頼ろうとした我が愚かだったというわけか』
父上もできる事ならバルトルトを侯爵に戻して、瓦解した貴族派閥をまとめ直そうとされていた。
だから私のジークリンデを取り戻すことにも賛成してくれたのだが……。
『いいか。ワシはもう知らん。この件はカーマインお前が責任を取るんだ』
「な、なんですって!? 父上! それは酷いです! 私はただジークリンデを!」
『たかが女1人のせいで国が滅ぼされるのだぞ!? 割に合うものか! それにお前は知らんからそう言えるのだ! 奴の……ニュートリウス連隊の恐怖を!』
「またその名……。ニュートリウス連隊がどうだって言うんです! 聞きましたよ? 王国を追い詰めた存在だってことは。ですが今の奴は1人です! それのどこに恐怖など――」
『お前は何も分からないからそう言えるのだ、そこに居るバルトルトも……』
なにも……分からない? どう言うことだ?
『確かにニュートリウス連隊は強かった……【アシッドミスト】を使わざるをえんほどにな……だが、王国を敗北寸前まで追い込んだ化け物はニュートリウス連隊ではない! 奴だ……奴なのだ! アイザックたった1人なのだ!」
「そんな……そんなの嘘です! 記録にはどこにも――」
私は書庫でかつての戦争の記録を読み込んだ!
どこにもアイザック1人が王国を追い詰めたなど載っていなかったはず――
「載せられる訳なかろう! 王国軍が……たった1人の子供に蹂躙された記録など!」
「は……」
父上の声が震えている。歯がカチカチと鳴っている……。
「奴はあろう事か……この王城まで乗り込んできたのだ……。そうだ、今日のような夜だ。忘れるはずがない! 音が鳴るのだ……その音がどんどん近づいてきて近衛師団が次々に死んでいくのだ……その音が止んだと思えば……あぁ……」
私は息を飲んだ……。父上の……国王の厳格な方の言葉が恐怖に染まっていたからだ。
それ程の脅威とはなんだ……なんなのだ。
「もうおしまいだ……これはお前がしでかした事、我はもう知らん。だが仮にも我はお前の父親だ。剣聖グラハイム卿をそっちに向かわせた。それでも敵わなかった時は、諦めるんだな』
「父上? 父上!!?」
ガチャリと電話を切られた。
見捨てられた? この私が? 王位継承権を持つこの私が?
「バルトルト。貴様どうしてくれる……」
「お、王子?」
「貴様のせいで私は父上から捨てられたではないか! この奴隷がッ! 無能めがッ!!」
「や、やめてください! 王子!」
どれだけ蹴り付けても怒りは収まらない! こいつのせいで、こいつが馬鹿なせいで私が見捨てられたんだぞ!?
ドゴオオン!!
瞬間。この部屋の壁が大きく崩れ、奥から剣聖グラハイムが飛んできた。瓦礫の上でぐったり力尽きているグラハイム……。どう言うことだ。グラハイムは父上が今ここに送り込んだはずじゃ……。
じゃり。
瓦礫の粉塵が舞う奥から人影が二つ。
一つは背が高く、もう一つは低い。
そんな影がこちらに迫り声を発した。
「こんばんわ。王子、それとバルトルト。夜分遅くに申し訳ない」
「お、お前!?」
そこに現れたのは父上が恐怖する存在――アイザック本人だった。
奴の顔は笑っているが……それを見た瞬間胸が締まり息が……息が苦しい! 恐怖か? 恐怖が人はここまでも痛みと苦しみを伴うというのか!?
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