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第46話 

 燃えたシエスタ。

 その焼け跡が翌日になって業者による撤去作業が始まった。

 火事の原因を調べるために警察も導入されていて、この建物の責任者である私は聴取に付き合わされていた。

 フィーネの死体は……見つからなかった。

 骨すら焼き尽くす業火だったのだから灰すら残さなかったのだろう。

 救えたはずの命。

 もっと私が火事に気づくのが早ければ。そんな後悔が頭の中をぐるぐると巡る。


 聴取はそこそこに済んで解放された私は灰となった建物の少し離れた場所を歩いていると、何か輝いて見えるものがそこにあった。

 それが気になり拾い上げる。

 紋章……、この形は確か……。


「くそ……そういう事か」

「ご主人! 聴取は終わったのだな。その……フィーネ先生は……」

「逝ってしまたよ……」

「くそっ! どうしてこんな事にッ!」


 ジーナも悔しげに言った。

 リオンは今、シエスタで凝らしていた子供達の解放でグライカン中央市民病院に付き添っていてまだフィーネが亡くなったことを知らないはずだ。

 知ればどうなるか……。きっと泣きじゃくるだろうな。

 あの子も先生にはお世話になったはずだから。


「それは?」


 ジーナが私の拾い上げた紋章に気づいた。

 それを見ると、目を見開いた。


「王国軍の紋章じゃないか!」


 そう……。これは王国軍の紋章だ。

 こんな場所にあるはずがない物。

 なにせ中立都市に他国の軍隊が入り込むことは条約で禁止されているのだから。

 なら何故ここにあるかと言えば答えは一つだろう。


「ご主人? どうした?」


 立ち上がり歩き出した私にジーナが聞いてきた。


「しばらく留守にする。リオンと子供達のことは頼んだ」

「留守……こんな時にか! どこに行くつもりなんだ! こんな自体なんだぞ? 仕事なんて後にしろ!」

「仕事じゃないっ!」


 言って私は紋章を地面に叩きつけた!

 そんな様子にジーナは「そうか……そういうことか」と呟く。


「ご主人。王国に行くつもりなのだな?」

「……」

「以前の帝国のダンジョンにあった王国製ゴーレム。今回の火事! どれもご主人を狙った物だと……そういうことなんだな!」


 分からない。確信はない。

 ダンジョンにあったゴーレムも私を狙ったものかどうかは分からない。

 だが、偶然とは思えない。

 帝国軍が手を焼くほどのダンジョンを作り上げたゴーレムを今稼働させた事、私の孤児院の火事に近くに落ちていた、あるはずの無い王国軍の紋章。


 愚かながら私の脳には「ジークリンデを返さなければ今後も不幸がお前に襲いかかるぞ」と言いたげなメッセージに見えて仕方ない。


「黙ってないで答えろご主人! 王国だろ? 王子に父上が仕組んだ物なのだろう!」


 18という若さでありながらジーナも考えは私と同じところまで至ったようだ。

 手元にある情報がそう語っているのだから気づいて当たり前なのだが……。いや。気付かせるために撒いたのか?

 だとしたらそれは悪手だぞ! カーマインッ!


「これはお前には関係ない。私の仕事の不始末だ。待っていなさい」


 歩き出した私の前にジーナが立ち塞がる。


「なんの真似だ?」

「行くなら私も連れて行け」

「断る」


 無視して進もうとしたが腕を掴まれた。

 それも力強くだ。

 ジーナの爪が食い込み私の皮膚から血がジワリと滲んだ。


「王子と父上に関係するなら私も無関係ではない。むしろこのまま無関係で終わらせないでほしい。私だって怒っているんだ! この怒りをこのままにしておける程私は愚かではないぞ!」


 その目を見ると、涙の中に怒りが見えた。

 怒り……か。


「それはお前が選んだのか?」

「そうだ。これは私が選んだ! ご主人お邪魔は絶対にしない。この命に誓って誓う!」


 ジーナの手を振りほどき私は歩き出す。

 「ご主人ッ!!」とジーナの声が後ろから響いた。


「命に誓う? こんな事のために命を使うな。これは命をかけるほどの事でも、誓うほどでもない……。ただの仕返しだ。行くぞ」

「ご主人……ああ!」


 そうだ、これは仕返しだ。

 お前達がそこまで私の周りから命を奪おうとするのなら容赦はしない。

 勿論殺しはしないがな。

 死より辛い絶望を貴様らの醜い脳みそに叩き込んでやるッ!


 ***


 夜の王都。

 エアロバイクに乗って王城前までやって来た私とジーナは少し離れた場所で降りる。

 今回リオンには子供達の世話を頼んである為、何も告げずにやって来た

 目を覚ますまではリオンも屋敷には戻らないだろう。

 だったら子供達が目覚める前に終わらせるのみ。

 それによるを選んだのにはもう一つ理由がある。


 ジーナは天竜の装備を身につけていてやる気満々と言った様子。

 まあ私もジーナのことを言えた立場ではないがね。

 自分自身の装備を見てもかなり重装備と言える。

 今回連れてくるか迷ったがこいつにも来て貰った。


『久々に人間の恐怖を接種できるのね〜。ご馳走の予感だわ〜』


 ウィルだ。こいつを連れ出すために夜を選んだのがもう一つの理由。

 日中だと人の往来が多い為、ウィルを見た一般人が次々と倒れていくからな。

 

「ウィル。悪いが味わう余裕なんてないぞ。それに醜いクソ共の恐怖なんてインスタント食品に劣る。お前にはもっと良い物をこれが終わったらくれてやる」

『ほんと!? なにくれるの?』

「お前、いつもその服だろ? 良い服を買ってやる。今じゃ女物に詳しい家族も居るんだからな」


 言ってジーナを見る。

 ジーナはキョトンとした顔を浮かべていた。


「ご主人、今なんて……」

「らしくない事を言った。行くぞ2人とも」

『は〜い! 服かぁ。良いわねぇ。食べ物よりも良いじゃない! 今は夏だし、涼しげな服がいいかしら〜』


 ウィルの奴、もう買ってもらう物を考えてるな。

 ジーナは「今のはどういう意味だ!」と後ろから駆けて着いてくる。

 2度と言わん。言ってやるものか。

 

 王城の正門前に辿り着いた。

 夜だからか門は固く閉ざされていて来るものを拒む鉄壁の壁としてそこに君臨していた。


「そこの2人止まれ。こんな夜に王城に何のようだ」


 城の警備か。

 マスケット銃にツノが突き出たようなヘルムを被った赤い士官服を着た2人が私たちの前にやって来た。

 まあこんな夜に正門付近を歩いてる輩など不審に思われて当然だろう。


「怪しい奴め。ここがどこか心得ているのか?」

「ええ。リベリア王国の王城である事は承知ですよ?」

「だったらこんな時間にこの辺りに近づくな。撃ち殺されたいのか?」


 警告で銃口を向けるのか、いやはや……リベリア人はせっかちで困る。

 私は向けられた銃身を掴み上げ、士官に一歩、歩み寄る。

 予想外だったのか士官が顔を強張らせた。


「いえ。私は仕事に来たんですよ。面倒なクレーマー。それもとびきりのモンスタークレーマーの対応にね」

「そいつを離せ! 離さなければ!」


 もう1人がすぐにでも発砲する勢いで銃口を向けてきた。

 ジーナが「お、おい!? 見つかったぞどうするんだ!」と戸惑っているな――


「見つかった? ジーナ何か勘違いしてないか?」


「へ?」と素っ頓狂な声を上げるジーナ。

 まさか忍び込むと思っていたのか? おめでたい奴だ。

 

「元々正面からお邪魔するつもりだったんだぞ? これは仕事なんだ。堂々としないでどうする?」

「貴様!!」


 我慢の限界を迎えたようで士官がマスケット銃を発砲した。

 同時に私は掴んでいた銃を奪い取りストック部分で顎を殴りつけ正面の1人を沈ませ、屈んで銃弾を躱す。


「こいつ!?」


 外した士官は急ぎ装填作業に移るが……。

 間に合うわけないだろう。

 この技術が発展したご時世にマスケット銃などとアンティークな物を使っているからだ。

 無防備な士官に肉薄し頭を両手で掴んでゴキッと捻ってやると、士官は崩れ落ちる。

 それを見たジーナが「殺したのか?」と覗きこんだ。


「殺すわけないだろう。私を誰だと思っている。この程度の雑魚ぐらいスライムを倒すより楽に無力化できる。生かしたままな」

「生きてるのか? 首の骨を折ったんじゃ……」

「折ってはいない。関節を外してくっ付けた。瞬間的な衝撃で脳が驚いて気を失ってるだけだな。これは使える技術だ。お前もこれから私と仕事をする以上覚えておくんだ」

「覚えられるかッ!」


 ふむ。まあ初心者向けの技ではないしな、怒って当然か。ゆくゆくはやってもらうがね。


「さて。邪魔者は失せた。ウィル」

『はいはーい』

「ここから先、お前は【死の刻印】を放ち続けろ。ただし。敵対しない奴の刻印を外すんだ」

『えー。着けて外すって面倒くさいわね〜』

「私の装備の癖に面倒くさがるな。終わったら褒美が待ってるんだぞ? やってくれ」

『はいは〜い』


 ここまで来るのに、市民と士官を先に見つけては味方だと私が認めてきた。

 だからウィルの効果はそこまで市民達に降りかかってはいないと思うが……。まあ、あったとしても心臓が締めつけられる痛みが襲うぐらいだろう。


「お前を連れ歩くのも一苦労だ」

『あら。私は私に近づこうとする無礼者の梅雨払いをしてるだけよ』


 飛んだ梅雨払いだ。

 私は閉ざされた王城の正門を押して開く。

 中は屋敷などと比べ物にならないほど広く豪華絢爛な装飾が施されていた。

 先程の騒ぎを聞きつけたのだろうか、私の侵入に士官達が一斉に駆けつけ銃を向けてきた。

 まあ当然か。


「侵入者め! 貴様何用だ!」


 このくだりまたするのか?

 呆れつつ。私は叫んできた偉そうな仕官に向かって言ってやることにする。


「クレーム対応に来た。私の仕事にケチをつけただけでなく、身内を1人殺されたからな」

「殺された?」

「ああ。だから私はその仕返しに来たのだがね? 王子と……そのそば付きの奴隷に……今ここにおられますか?」


 そう言ってやると仕官達が銃を構え直した。


「王子の命を狙う逆賊か! ならば容赦せん!」

「そうかい。だが一応これだけは聞いておく」


 私は奪い取ったマスケット銃をこの場で1番偉そうな仕官に向ける。


「敵対する気がない奴は今すぐ武器を捨てて失せろ。私の邪魔をするなら容赦はしない」

「ほざけっ!!」


 士官達の銃弾が一斉に放たれた。

 誰も……逃げないか……。


「はぁ……ウィル。パーティー開幕だ」


 瞬間死が辺りに満ちていく。

 誰もが体を痛みに蝕まれ膝をつく、放たれた弾丸は全て躱し、私は我が家のように城の中を歩いて進むのだった。

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