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第41話

 ゴーレムを倒し、魔族共は予想通り、競争本能に支配されてボスの間へと猛進し始めた。

 そのお陰で私達は魔族の目を掻い潜り安全に外へと帰還することができた。

 手に持った証拠品を持ち帰って。


 ダンジョンを出ると忘れていた帝国の寒さが私たちを出迎えた。中が風を通さない分暖かかったらからか、妙にこの寒さが痛かった。

 が、同時に心地いい。


「先生! アイザックせんせ〜い!」

「ん?」


 声に目を移す。森の奥から駆けてくるのはグルエルだ。

 辺りに魔物も居ない辺り、外に出ていた個体も中へと戻っていったのだろう。

 要は安全は確保されたと言うわけか。


「先生! 息子は!? アイネさんは!?」

「なるほど。奥方はアイネという名前でしたか」


 答えながら手で背後を2人を促す。するとグルエルはうるっと目を輝かせ――


「ジョルジュ! アイネさん!」


 駆け寄った。ジョルジュに抱きついたはいいが、その怪我だ……。大事に扱うべきじゃないか?


「と、父さん」

「ジョルジュ! あージョルジュ。良かった生きていて。良かった!」

「痛いよ父さん」

「ジョルジュ!? お前腕が!」


 そこでようやく気づいたか。感動の再会で危うく殺すところだったぞ?


「ああ。中の魔物にやられて……。でもアイザックさん達のおかげでなんとか生きて帰れた」

「そうだな……。腕ぐらいいくらでも治せる。良かった……良かったぁ……」


 安心したようなグルエルだが、安針なことを忘れていやしないか?


「グルエルさん。感動の再会の途中申し訳ないが……」

「あ、ああ。料金ですね? 今は手持ちがないのですが、後で振り込みでも?」

「構いませんよ? その代わり契約は交わしていただきますが」

「それぐらい! 構いませんとも!」


 そう言ったグルエルは取り出したナイフで手首を切った。血がドバドバと溢れ出すが……。そんなに血は必要ないんだがなぁ。


「あはは……では失礼します」


 その血を指につけて念じる。途端に指先に1日が光を放つ。契約は完了だ。とは言っても支払いが済めば消えるだけの物だがね。


「終わりました。では後日、ここに振り込みをお願いします」

「はい! 先生? ぜひお礼がしたいのですが……」

「お礼?」


 はい! とグルエルの笑顔。隣のジョルジュも真っ直ぐ私を見てくるあたり父に賛成と言った感じか。

 だが――


「結構。お礼なら後日まとめて支払いしていただけるので。それでは、私達は急いでいるので」

「あっ! アイザックさん!」


 立ち去ろうとした私にジョルジュが声を掛けてきた。


「アイザックさんは……本当にニュートリウス連隊の出ではないのですか?」

「ジョルジュ……」


 この事実をこの場で知っているのは私とグルエルだけだ。ジーナとリオンの2人は「またその名だ」「ニュートリウス?」と首を傾げている。あまりこの話はされたくない。


「違いますよ。私はただの探索者ですよ。そのような連帯は聞き覚えありませんな」

「ですがその白い髪。ダンジョンの中で見た戦闘技術。あれらは全て連帯メンバーが使っていた物です! アイザックさん! あなたは本当に!!」

「諄いですな。では……」


 これ以上の問答は無用。私はリオンとジーナに「行くぞ」と告げて、この場を立ち去る。

 急がなければいけないんだ。あのゴーレムから回収したこの部品。これをグライカンの街で調べる必要があるのだから。


***


 エアロバイクで屋敷に到着してすぐ私は2人を屋敷に残し街へ繰り出した。

 リオンとジーナは私の様子に不審がっていたようだが、これは闇が深そうだから屋敷で夕食の支度をするように言い残した。強くだ。


 回収したゴーレムの部品は今年に入って開発された新型のパーツだった。エアロバイクのような魔具弄りが趣味が幸いしたな。

 何も知らなければただの部品としてていたところだ。


 そんな私は南地区。煙と煤の匂いで充満する鍛治工房が数多く立ち並ぶ場所に来た。

 ここは冒険者とっての装備の買い付けや専属鍛治士によるオーダーメイドが盛んに行われている大事な場所だ。

 とは言っても私には専属の鍛治士はいない。

 少しばかり仲の良い鍛治士が居るだけだ。同じ趣味のな。


 辿り着いた目的の鍛治工房は一見普通の煙突を備た石造りの建物だ。隣にジャガーノートと呼ばれる大型バイクが停めてあるが……。

 ここに冒険者の姿はない。なんせここを切り盛りしている奴は癖が強いからな。だれも相手したがらない。私を除いて。


「ユルリカ〜。いるか〜?」


 扉を開けてその名を叫ぶ。なんせ中は騒音でいっぱいだ。鉄を削る耳の痛い音。爆音のロックミュージック。ユルリカの下手くそな歌声……というか叫び声。

 入り口からでは聞こえようがないな。

 そう考えて、勝手に工房へと入っていく。


「キルゼムオール! キルゼムオール!! この世の全ては皆殺し〜!!」


 工房は更にうるさい。そこにはゴーグルをはめ、黒のインナーシャツにダボっとしたズボンを着込んだ赤い髪の短いツインテールをした女が、曲に合わせて体を揺らし鉄を削っていた。

 なんて物騒な曲だ。高いうところは私と趣味は合いそうにないな。

 それよりここまで近づいているというのに何故気づいてくれない。これだから人気が無いということに気づかないのか?


「ユルリカぁぁぁ!!」

「神様も天使もみんなみんな――って……お〜。アイザック! 我友アイザックやないか〜」

「うるさい!! 音楽を消してくれ! 耳が破裂しそうだ!!」

「は〜? なんてぇ?」


 ぶっ飛ばしてやろうか……。そう思いながらもジェスチャーで曲を消せ! と強く訴える。

 すると気づいてくれたのか――


「なんやお前もこの曲が気に入ったんか? ほな」


 音量を更に上げやがった!? 耳どころか頭が破裂しそうだ!!


「この馬鹿!! 曲を消せと言っているッ”!!」


 ドカッ!! とユルリカの頭をぶん殴ってやると、ようやく音を下げてくれた。周りの時工房からも多少の騒音は聞こえるが、今の今まで脳天破壊騒音ミージックを体感した私にとっては小鳥の囀りのようなものに感じる。


「ちぇー。せっかいノリノリなとこやったのに……。なんやねん。このクソボケぇ……」

「クソボケはお前だよユルリカ。まったくお前の耳はどうなってんだか……」


 立ち上がったユルリカの背は小さい。まあドワーフだからな。見た目だけで言えばリオンと大差ないが、年齢は38と私より少し上だ。

 大陸西部の奇妙な言葉を使ってはいるが……。まあ意味は理解できる分、問題はない。

 性格に難があるだけだ。


「で? 何しに来たん? ようやくウチにオーダーメイドを頼みに来たんかぁ?」

「それはない。武器は間に合ってるからな」

「ちっ。シけた客やなぁ。お前が友達やなかったらこの金槌で頭かち割っとるとこやったで」


 トントンと金槌を叩いてはいるが、そうやって本当に冒険者の頭をかち割ってあの世に送ったこともあるのだから恐ろしいよ。


「武具はいらないが、お前に見て欲しいものがあってね。これなんだが」

「ん〜?」


 金床の上にゴーレムから回収した部品を置いてやると、ユルリカは目を細めてジーッと見つめ始めた。


「こ、これ!? お前どこで手に入れたんや! 魔導駆動完成型8式やないか!」

「やっぱお前もそう見えるか」

「やっぱってなんや! で、どこで手に入ったんや! いかにお前が金持ちやとしてもこいつを手に入れるのは無理やろ! なんせまだ世に出回ってる数が3つだけっちゅうシロモンやからなぁ」

「ダンジョンだよ」

「1週間前のオークションでも900億っちゅう値段で――ってダンジョンんん!?」


 ナイスツッコミだな。とまあユルリカが驚くのも無理はない。私だってこれを見つけた時は相当驚いたものだ。同時に、恐怖でもあった。

 帝国領のダンジョンに王国製ゴーレムと最新の部品があったのだから。

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