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第42話

「帝国のダンジョンの中に王国製のゴーレムがなぁ。それはあれやないん? 合同演習かなんかでダンジョン攻略しとったかなんとか〜」

「王国と帝国は一応和平を結んではいるがあまり良い関係とは言えない。最近だってニュースで言ってただろ? 戦争間近だって……」

「ほな違うか……」


 こいつは世間に疎すぎる。鉄弄りばかりで興味がないのか? だが知識はある。だからこうして頼ってきたわけだが。


 そんな私はユルリカと工房内で茶を飲んで話し合いの途中だ。ゴーレムの中から出てきた部品。魔導駆動完成型8式。馬鹿みたいに言いづらい名前だが、要は人工知能だ。

 これまで7回の試作を重ね作り出されてきた人工知能だが、そのどれもパッとしない出来で、組み込まれたゴーレムは赤ん坊レベルの知能までしか発達しなかった。

 だがこの8式は違う。自立し、最適解を考え、周りに知識を与える。

 そう知識を与えるんだ。


 大陸に現存する知識の全てを網羅した中枢データ。そこにある知識を魔力を通じて直接脳に焼き付ける。

 そんな存在が帝国の、それもダンジョンの最奥のボスとして君臨していた。

 あのダンジョンの異常は8式による知識譲渡による結果だろう。


「っちゅうことは……あらかじめゴーレムを仕込んだっちゅうことかいな」

「その可能性が高いな。戦争に備えて、手頃な未発見ダンジョンに押し込んでいたんだろう。回線と同時にダンジョンから知識を分け与えた魔物と共に地上へ侵攻……。結果は私が依頼で見た通りだとすれば成功で間違いなしだな」


 軍はかなりの深傷を負う羽目になった。それどころか上装兵というエリート2人までも犠牲になった。

 だが何故今起動を? 戦争は回避されたのに……。まさかボスになってしまった事でゴーレム自体が魔物として変異したか?

 なにぶんこれは専門外だ。考えたところでどうしようもない。


「ユルリカ。お前に聞きたいのはゴーレムについてだ。ゴーレムがダンジョンのボスになったとして魔素に侵されることはあるか? 例えば魔物みたいに人間を無差別に襲うようになったりとか……」

「ないなぁ」


 即答だった。ユルリカは湯気立つコーヒー(激甘)をぐいっと飲んで言った。


「ええか? ゴーレムっちゅうんは確かに動く兵器や。8式っちゅうべらぼうに賢い人工知能を搭載したとしても機械って点に変わりはない。要は武具と一緒や。ダンジョンに行って武具が勝手に動き出すか?」

「いいや。ないな」

「そういうこっちゃ。魔素は確かに解明されてない点が多い。やけど魔素で動くゴーレムが人間みたいに1人でに歩き出したり話し出したりせえへんやろ」


 と言っているが1人だけ近い存在がいるんだよな。私の屋敷に……しかも同室にプカプカと浮かぶウィルの奴が……。


「そないなわけや。十中八九王国が何かしら仕込んだんやろ。そうとしか考えられん。まあウチは実物見たわけやあらへんし……。どんな目的があったかも予想がつかんしなぁ」

「だったらゴーレムに基本性能を教えてくれ。武装はどうでもいいとして、他の機能だ。データの保存とかそういうの」

「それやったら……」


 立ち上がったユルリカは工房の端に備えられている本棚に向かい煤まみれの雑誌を持ってきた。


「これは?」

「最新ゴーレム特集! 実はうちも自作ゴーレムを作ってみたいな〜っと思った時期があってなぁ……。お金的に無理やから諦めたけど……」


 ほ〜ん。と頷きながらパラパラと中を見ていく。そこにはゴーレムの画像と性能、値段までぎっしり書かれていた。ふむ……。よく分からんな。


「そこにあるのは何年も前の型落ち品やけど。まあどのゴーレムにも着いとるんは、カメラにデータ保存のメモリ、あとは遠隔操作の受信パーツやな」

「遠隔操作……」

「そうや。離れた場所から指示を飛ばして動かす! やからゴーレムが街の防衛とか、未来のダンジョン攻略とかに夢を持たせてるっちゅうわけや! まあそんなんかなり未来の話やろうけど……」


 遠隔操作であれば、王国から帝国領まで操作できるか……。それにカメラとデータを保存するメモリか……。


「ユルリカ。そのデータ保存は遠隔で送信できたりもできるのか?」

「出来るで? その送受信する為のパーツが作れたらの話やけどな」

「作れたら?」


 つまり今の世の中には存在しないということか?


「ほんまアイザックは何もわかっとらんなぁ。データの送受信ってかなりの容量のデータを電波に乗せて運ぶんやで? そないなもんを小型かつゴーレムの中に入れようもんなら全長50メートル越えの大型ゴーレムになってまうわ」

「なら無理か……」

「王国が開発に成功してなければやけどな」


 コーヒーを飲み切ったユルリカがおかわりをコップに並々注いでいる。砂糖をそんなに入れたら……あ〜あ……。コーヒーが泣いてるぞ……。


「でもそれがどないしたんや? こないな話したところでどうしようも出来へんやろ。ゴーレムぶっ壊したわけやし」


 確かに壊しはした。あくまで帝国軍がという名目で。

 だが数日前のカーマイン王子とジーナの父バルトルトの訪問があるし偶然と思えない。

 それに王子の権力と財力があればゴーレムの一体ぐらいどうとでも操作できるはずだ。

 あの依頼で私は力を見せすぎた。私の考えが現実になるとしたら……。いや考えるのはよそう。あくまで可能性の話だ。


「長いこと邪魔して悪かったなユルリカ」

「何やもう帰るんか? どうせならこの後1杯付き合って貰おうって思っとったのに」

「私が酒を飲まないのは知ってるだろ? 邪魔したな。それはお前にくれてやる」

「マジで!?」


 私と会ってから初めて目を輝かせたな……。友人の来訪よりもそんな部品の方が嬉しいとは……。何だか悲しいぞ、友よ。


「ゴーレム作りたかったんだろ? その夢を叶えるチャンスじゃないか」

「うっひゃ〜! サンキューなアイザック! こうしちゃおれんわ! 早速この日のために眠らせておいた装甲を引っ張り出してこな〜!」


 作ってるじゃないか。ちゃっかり。

 だが聞きたい話は聞けた。最悪の想定も考えることができた。となれば次の王国――いやバルトルトとカーマイン王子の一手を予想しないとな。

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