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第37話

 目の前で繰り広げる光景は信じられないものだった。

 僕とアイネが苦戦していた魔物のパーティーを1人で……魔術と近接を扱い、まるで一つのパーティーの様に立ち回っているこの人はなんだ。


「ジーナ! リオン! 今のうちに2人を」

「あいあい先生! ジーナさん!」

「ああ!」


 先生と呼ばれた人がオークの足の腱を断ち切りながら後方の仲間だろうか、2人に言った。

 リオンとジーナと呼ばれた子供と少女の2人が僕とアイネの元へ駆け付けて金髪の少女が僕の体を支えて体を見てくる。


「これは……!?」


 僕の体を見るなり彼女の顔が引き攣った。

 それもそうだろう腕が欠損するほど酷い状態だから。

 アイネの方に目を向けるとリオンと呼ばれた子供がリュックから回復アイテムと思われる瓶を取り出して飲ませたり怪我の処置をしている。

 手慣れた手つきだ。

 これまでも同じ様に怪我人の処置をしたことがあるのだろうか。

 そんなリオンはリュックを置いてアイネを背負って僕の元にやってきた。

 アイネを隣に寝かせるとリオンは、僕にグッドサインを向けてくる。


「奥さんは無事だよ。打ち身に内蔵がちょこっと傷ついてただけみたいだから痛み止めと持続回復効果のあるお薬を飲ませたからもう大丈夫!」


 ありがとう……。そう言おうとしたがジーナの声に遮られる。

 

「リオンこの御仁の怪我の状態が良くない。どうすれば……」

「こういう時は――あれだね」


 リオンがリュックを回収しに向かい駆け戻ってきた。

 ドカッとリュックを地面においては中に手を突っ込み始めた。

 取り出してきたのは青色の液体が入った瓶と黄色い液体の入った瓶。どちらも毒々しいほどに色の主張が激しい。


「ごめんね。この青い方が痛みを麻痺させるお薬で、黄色い方が活力剤なんだ。飲んでくれる?」


 鎮静剤? 活力剤? 僕はリオンの話す言葉に首を傾げる。


「あー。まいった。あまり時間がないんだけどなぁ」


 リオンは困ったように手で頭を掻いた。僕が首を傾げたせいか?


「簡単に言うね? 今のおじさんは死にかけなの。だから痛みを止めて体力を回復させなきゃいけない。ここでの治療は無理だから外に出るまでの時間稼ぎって事だよ?」

「き、君は……子供なのにそんなことが分かるのかい?」

「うん! たっくさん勉強したからね! ちゃんと医薬品取扱資格もあるよ! だから安心して飲んで」


 医薬品取扱資格だって!? 軍の医官候補でも苦戦する資格のはずだ。それをこんな子供が――


 僕はジーナに上体に支えられながらリオンが渡してきた薬を飲み込む。徐々に痛みが引いていき、なんだか気力が漲ってくる。


「これでよし。あとは帰ってからの治療だからね」

「なんでここに……」


 今更ながらこのようなダンジョンに子供2人と先生と呼ばれる人がやってきたのか気になった。

 ここは間違いなく帝国領のダンジョンだったはずだ。ここに入ることが許されたのは同じ帝国軍人だけのはず。それなのになぜ――


「それはグルエルっておじさんが先生に依頼したからだよ」

「依頼……」


 リオンが先生と呼ばれる人に目を向ける。

 そこには続けてやってきた魔物パーティーと戦闘を繰り広げ、圧倒している様子が見えた。

 先程見せたナイフ技術、魔術とは違い今度はボウガン、格闘術を使っている。

 あれは……軍事教本で見たことがある。

 あの格闘術、ナイフ捌き、ボウガンの構え方、それに魔術の使用系統。


「ニュートリウス……連隊……」


 そうだ。あれはかつて帝国の英雄の……僕たち憧れの存在。ニュートリウス連隊の連隊各員の戦闘技術だ。

 見間違うはずがない。何度も何度もこの目に焼き付けたのだから。

 僕は今、亡霊でも見ているのか? 連隊はもう存在しないはずだと言うのに……。


***


 要救助者は確保した。

 リオンとジーナのおかげで安全の確保、それに応急処置も済んだようだ。

 ならばと私は目の前から絶えず現れる魔物パーティーの殲滅に集中する。

 救助対象の2人は私が認めた。

 だから――


「ウィル! 一気に終わらせよう」

『おっけー』


 私は魔物共に手を伸ばす。今から使うのはウィルと2人だけだった頃に使っていた呪いだ。

 攻撃でも魔術でもない。ただの呪い。

 だがこれは私にとって近い勝手が良かった。

 それを今。解放する!


「グラスプハート!」


 唱えると魔物達の動きが止まった。オークもゴブリンも全個体が汗をたらりと流してはガクガク震え始める。

 そんな魔物共に私は剣を下げて歩み続ける。


「どうだ? 心臓を鷲掴みにされる感覚は。辛いだろう?」


 魔物は言葉を発さないが、その顔色は絶望、恐怖、苦悶に染まっているように見える。

 なまじ人間らしい知恵をつけたことが災いしたのだろう。

 恐怖と痛みを知らないままであればここまで苦しむ事はなかったろうに。


 一歩足を進めるたびに魔物共は後ろへ引き下がろうとするが恐怖がそれを許さない……そう恐怖だ。

 これはウィルと最初に出会った時に使われた重圧の押し付け。

 私自身体感したことがあるから良く知っている。

 これに当てられたお前達は今、体がうまく動けないだろう?


 小型のゴブリンが泡を吹いて倒れていく。

 この重圧に耐えきれなかったのだろうか、最悪ショック死するかもしれないが、そんな事はどうでもいい事だ。なにせ相手は魔物だしな。


 こうなればもはや戦闘とは言えない。

 ただの草刈りだ。

 私は魔物の首を落としては駆け抜け首を落としては飛び回る。

 中には重圧に抗い腕を振るう個体も居たが……まあ草が風で靡いた程度の違いだ。脅威でもない。

 時間を掛ければ掛けるほどこの重圧は魔物共に牙を剥いて弱まっていく。

 私はただ出来るだけ早くこの草刈りを終わらせるだけだ。

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