第33話
「そういうわけなんで助けてください先生!!」
2階から降りて客人の話を聞いてこれだ。
私の目の前にいる男、どうやら帝国からやって来た高官らしい。
帝国領にあるダンジョンに定期調査に向かった息子夫婦が帰ってこないとの事でここまでやって来たようだ。
「助けるのは構いませんが、同じ軍を頼った方がよろしいのでは? 彼らの最新鋭装備と軍隊連携があれば救出も容易いでしょうに」
帝国は他国と違って冒険者に頼るスタイルはとっていない。
自国の武力こそ至高と考え、軍が統治、警備、ダンジョンの掃討に当たっている。
それに依頼主の息子夫婦は帝国軍所属なのだから同じ軍に任せた方が良いんじゃないかと私は思ったわけだ。
「それが……問題のダンジョンですが、なにかおかしいのです!」
「おかしい? それはどう言ったところが」
「ええ。ダンジョンというのは中に魔物が存在して外には溢れないようになってますよね」
ダンジョンというのはどんな事があっても魔物が中から外へ溢れ出す事はない。
なぜなら外の魔物と中の魔物は別の存在だからだ。
ダンジョン内の魔素で育った魔物が外に適応できないと、ギルドの学者がそう発表していたはず。
「それが出てくるんですよ! それも大量に! わんさかと!」
グイグイくるなこの人……。
まあまあ、と抑えながら客人をひとまず座らせる。
にしても中から溢れ出す魔物か……。興味深いな。
「外の魔素が特別濃厚というわけではないのですか?」
「ありません。その調査も行いましたが基準値です。軍は溢れ出す魔物を押さえている内に、2人を調査のために中へ送り出しました」
「2人だけで? それはなかなか無謀な……」
「2人は軍内部でも上装兵と呼ばれるエリート。模擬戦だと勝率を9割キープするような猛者なのです」
「いかに対人戦に優れていても魔物相手では意味ないでしょうに……」
とはいえ、そこまでの実力者がやられるのは確かにおかしい。上装兵なら私も把握している。
確か力を認められた有数の兵士に軍が特殊兵装を与えたのが上装兵だ。
ニュートリウス連隊の後釜……そう呼ばれる事も聞いた事がある。
「それと2人ですが……まだ生きてるみたいなのです」
「なぜそれが?」
客人がタブレットを取り出してテーブルに置いた。
電源がつくと地図のようなマップが開かれ奥の方に赤い点が2つ。今も少しずつだが動いている。
「これがその2人の反応です。生きている限りこの反応は消えることはありません……。ですがここから帰ってこられないのか動かないのです!」
「となると、今回は死体回収ではなく、本当の救助になりますな」
これはかなり厄介だ。
死体なら拾って持ち帰るだけだが、生きているとなると帰りの難易度が格段に上がる。
護衛任務になるからな……それに異常なダンジョン。珍しい事例だが……やれるか?
「先生。2人が帰ってこなくなってもう5日になります! 救助に派遣した兵士も皆帰って来ません。これでは2人の記憶が……。先生はあのニュートリウス連隊の生き残りだと記録で拝見しました! あの部隊の生き残りであれば確実に――」
ジーナとリオンがその言葉を聞いて不思議そうに私を見てくる。
この人……私の過去を知っていたか……。これ以上この話を切り出されては敵わん。
「失礼ですがそこまで肩入れすると言うことはあなたは2人のなんです?」
「私は旦那側の父です。ようやく嫁を貰ったというのに……このままでは私は孫の顔を見れずに2人を失ってしまう!」
どおりで必死な訳だ。随分優しい父親じゃないか。
「なるほど……分かりました。お受けいたしましょう」
「本当ですか!?」
「ですが報酬は5000万です。それでもよろしいですか?」
「はい! はい! 問題ありません。先生どうか、どうか2人をよろしく頼みます!」
即答……か。この様子だと軍の経費から落とすつもりか? まあ私は構わないがね。
高官の男の名前はグルエルというらしく、将校の立場にあるらしい。
恐らく2人の救出に兵士を派遣したのもこの人だろう。失敗するや可能な限りの死体の回収は済ませたらしい。有能だな。
***
「今回はジーナにもついて来てもらう」
「わ、私もか!?」
こういう厄介な仕事はリオンと向かうのだが、何せ帰りが護衛になるのだ。人手は多い方が確実性が増す。
まだまだ実力不足感は否めないが、守るぐらいならジーナにも出来るだろうが……。
「なんだ嫌なのか?」
「い、いやそうではないのだが……。良いのか? 私はほら……リオンよりも未熟だし」
隣でハムエッグサンドをもぐもぐしているリオンに目を向けるジーナ。
リオンときたらそんなジーナの気持ちも露知らず、ハムエッグサンドを夢中になって頬張っている。ってそのパン……私のじゃないか?
「未熟は仕事量が少ないからだ。数をこなせば次第に慣れてくる。それに簡単な仕事ばかりではお前の成長に繋がらない。今回は良い機会だ。ついて来なさい」
「で、では! 支度してくる!」
ジーナは希望に満ちた目をして自室へ支度に向かった。
やる気はあって根はいい子なんだがなぁ。思い込みが激しい上、自分を卑下しているのが難点だ。
まあそうさせたのは彼女を迎えた当時の私の発言にあるのだが――
「せんせ〜?」
「ん? どうしたリオン」
「3人で行くって事はかなり大変な仕事になる?」
「そうだなぁ。行ってみないと分からないが魔物が外に溢れ出してるんだ。普通じゃない。それなりに覚悟して向かう必要があるぞ」
「ほ〜なんら〜」
パンを齧りながら答えるな。あー! もう。食べカスが床にパラパラと落ちてるじゃないか。
「まったく……」
「ん〜!」
私は手拭きでリオンの口周りの食べカスを拭き取った。あとで床は本人に掃除させよう。
ジーナの支度には少し掛かるだろう。私も本腰を入れた支度が必要だな……。いや待てよ……救助対象が生きているなら――
リオンの口を拭き終えた私は一度自室へ向かう。
「先生?」
「3人と言ったな。訂正する。今回は4人だ」
リオンにそう告げて自室へ。部屋の端に掛けられた街灯の前に立ち、4人目に声を掛ける。
「ウィル。手伝ってくれ」
フワリとウィルが背伸びをしながら現れた。
『ん〜!! 珍しいわね〜。お前が私を連れて外に行くなんて』
「話は聞いてたんだろ? 厄介な案件になりそうなんだ。頼むよ」
『頼むって。やめてよね〜。お前は私の所有者なんだから雑に持ち出しなさいよ。……私は少しぐらい雑に扱ってくれた方が……』
「なんだって?」
『な、なんでもないッ! この馬鹿ッ!』
ふん! と言って消えてしまった。
なんだったんだ? ウィルの奴……。
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