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第30話

 カーマイン王子とグラリューゼ元侯爵の突然の来訪。

 彼らのおかげで折角のお祭り気分が台無しである。

 それにジーナも思い悩んだように居間に座りこんではダンマリしている。


 そんな彼女にリオンが変顔をキメたり、オリジナルのギャグを披露しているが……。

 悲しい事に目を向けられていないし、無視されていた。というか何も聞こえていないのかもしれないな。


 そんなリオンを私は下がらせて、リラックス効果のあるハーブティーを入れてくるよう伝える。

 リオンは明るく返事してキッチンへ向かったが、何処となくぎこちない顔をしていた。


「ジーナ今いいか?」

「ああ……構わない」


 彼女の前に座る。顔が伏せられていて表情こそ見えないものの鼻水をずずっと啜る音は聞こえてくる。


「良かったのか?」

「あの2人のことか?」


 こういう時どう励ませばいいのかさっぱり分からん。自分から話してくれれば答えられるが、一つずつ聞かにゃならんのはかなり辛いぞ。


「父親の方は相変わらずだったが、王子の方はお前の事を心配しているようだったじゃないか」

「あれがか? 私を金で買い取ろうとした人だぞ? ……と言っても私も以前はあの国に居たのだ……。売ってしまったものを金で買い戻す事もやった事はある分、理解は出来る……出来るが……」

「自分に値段をつけられたようで嫌だったか?」


 コクリとジーナは頷いた。


「まあ良い気分じゃないな。お前もようやく命の価値が見えてきたってことだろう」

「命の価値……」

「そうだ。この世界は蘇生魔術が存在する分、命の価値が低い。だから人は死んだとしても蘇生させれば問題ないと考えるようになった。王国の人間が人を金で全てを解決しようとするのもその延長なんだろう」


 ジーナは黙って私の話に耳を傾けていた。

 心当たりがあるのだろう。耳の痛い話だろうがこれは事実だ。致し方ない。


「本来命は一度限りの物で金では買うことが出来ない貴重な物のはずだと私は考えている。お前もそう考え始めたんじゃないか?」

「そうだな……。ご主人に奴隷に堕とされ、リオンという奴隷と過ごす内に、人の価値は平等なのだと思い知らされた。ただ恵まれてるか、恵まれていないかだけの差……。そして今の私にはまだ価値がない。それなのに500億だの1兆だの言われても……そこまで自分に価値があるとも思えない。私は弱いし、無知な女なのだ……」

「だから断ったのか?」

「そうだ。今ここで王国に戻ったとしても私の命の価値は上がる事はないだろう。ただカーマイン王子に気に入られただけの女でしかない。それでは嫌なのだ。私は私にしか出来ない物を見つけ、自分の価値を証明したいのだ」

「そうか……。なら残って問題ない。お前が満足した時に出ていけばいいさ」


 今はその時ではないと聞けただけで十分だ。私もジーナを預かる者として責任を負わなければな。


「ジーナ。王子達の動向をどう考える?」

「いきなりだな……」


 ジーナが顔を上げた。さっきの話で悩みが吹っ切れたのか声音も少しばかり明るい。


「私はあの王子の事はニュースか新聞に載る程度の事しか知らん。お前さんは元婚約者だろ? だったらさっきの一幕からどう動くか……なぜ今になってお前を買い取ろうとしたのか……。わかる事があるはずだ」


 あんな追い返し方をしたんだ、とんでもない事をするのは目に見えている。

 警戒するのは当たり前だとしてもどんな手を使うかは分からない。今はどんな情報でも必要だ。

 王子がどんな性格で、どんな事が趣味なのか。それは元婚約者であるジーナにしか知らない事実のはずだ。


「そうだな……私はあの日以来父上が何をしていたのかを調べた。ご主人の言っていた通り、資金を貯め込み、私と王子の婚儀をもって帝国へ戦争を仕掛ける算段だった。恐らく王子自身は何も知らなかっただろう。知っていたとすれば……国王か……」


 国王は王子の恋心を利用してジーナを取り戻そうとしたのか?

 たしかグラリューゼ元侯爵は中々に腕の立つ為政者だと報じられていたな。

 となれば王からの信頼は厚かったはずだ。

 そんな奴が奴隷に堕ちた事実はかなりの痛手のはず。

 王はグラリューゼ元侯爵を貴族に戻したいと考えてるのか? 奴を抱え込む為に王子とジーナを結ばせ、王国をより強力な国家へと昇華させる為に。


「カーマイン王子については見たままだな。まっすぐで思いやりがある優しいお方だ。だが一度決めた事は断固曲げる事はない。以前はそう言うところが好ましいと思っていたのだがな」

「シンデレラマジックだな。貴族社会というフィルターに掛けられた状態だからこそお前は王子に好意を抱いていたんだろう。残念だったな」

「今はどうだっていい。それに私を利用しようとしていた国王にも今は思う所はある」

「おいおい。随分な言い草じゃないか。仮にもお前は王国人だというのに」

「はっ。今の私はただの奴隷に過ぎん。奴隷を嫌う王国の何処に魅力を感じれよう」


 確かになと、私は頷く。

 そうなると話はかなりややこしい。最悪本当に国際問題に発展する可能性があるぞ。


「ご主人……この件で王国がグライカンに戦争を仕掛けてきたら……」

「まず勝てないだろうな。だがそれは無いだろう」

「本当か!?」

「ああ。ここは中立都市で大陸の中心にある巨大な街だ。そこに戦争を仕掛ければ……帝国も法国も黙っちゃいない。そう簡単に戦争には振り切らんはずだ」


 ジーナはその一言で察したようにホッと息を吐いた。

 だが、戦争とはいかなくとも何かしらの嫌がらせは必ずあるだろうな。

 とりあえず今できる話はここまでか。

 話が終わると同時にお茶を運んできたリオン。

 私たちは一息入れることにした。

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