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第27話

 コンコンコン。

 私達が朝のティータイムを楽しんでいるとノックが響いた。「はいはーい」とリオンが出ようとしたが、それをジーナが止めて代わりに対応に向かう。

 メイドの仕事も板についてきたみたいだ。


 リオンにも客の対応はできるのだが……いかんせん子供だからか相手にされないケースが多い。

 こういう所もジーナを迎えて良かったと言えるだろう。見た目も上等だからな、流石は元貴族だ。


「ご主人。ギルドのサリネル殿がいらっしゃったのだが……」


 ジーナが部屋の前からちょこんと顔を出して通して良いか聞いてきた。昨夜から一夜明けてのギルド職員の来客。間違いなく天竜関連だろう。


「通してくれ」

「了解した。リオン? 茶の用意を頼む」

「あいあい!」


 ジーナが玄関に戻り、敬礼で答えたリオンがキッチンへ向かう。残された私も客を出迎える準備をしなければ。

 そう思い客間に向かおうとしたのだが――


「おはようございますアイザック先生。この間はどうも」


 サリネルが居間にやって来た。遅れてやって来たジーナが「言伝だけらしくて、ここで良いと言われてな」と言った。


「と、いうと……昨日の一件のことですかな?」

「はい。昨日はグライカンの街を天竜から守って頂き一市民として感謝しています」

「いえいえ。報酬を頂く以上当たり前の仕事ですよ」


 チラリとサリネルから一瞬だけ睨まれたのを私は見逃さない。街の危機なのだから金なんてどうでも良いだろ。と言いたげだな。


「つきましては市長及びギルド長で話し合いを行った結果、報酬なのですがお聞きしていた7000万から1億に変更したいとの事で……」

「1億ですか?」

「はい……足りませんか?」


 足りないって……私はそこまで金の亡者ではないぞ。


「火を吹くトカゲにそこまで払って貰うつもりはありませんよ。ですが何故増額を?」

「その事なんですが、天竜の素材を市とギルドで買い取りたいのです」


 そう言うことか。まあアレだけ大きな竜だ。

 素材にして冒険者に売るなり配布でもすれば生存率も上がり、依頼達成率も大幅にアップするだろう。

 そうなればグライカンの街の評価自体も上がる。それは市長としても望むところのはず。だからこその報酬増額にお願いと言うわけだ。


「私は構いませんよ?」

「本当ですか!!?」

「ええ」


 天竜の素材などこの世界で最後にいつ出回っただろうか……。私が覚えている限りで一度だけ、欠けた鱗一枚で数百万だったはず。それが今町にある死骸は綺麗な状態でどこも欠損していない状態だ。この世に存在する金に換算できるだろうか。

 おそらく無理だろう。それをたった1億で了承したのだから驚くのも無理はない。


「良いのかご主人。たった1億で天竜の死骸を……」


 言い切った私にジーナが不安そうな目を向けてくる。


「構わないさ。どうせあのトカゲの素材など私には必要ないし、金もまだまだある。つまり魅力0だ」

「魅力0って……それはないだろう」

「なんだ? ジーナは素材が欲しいのか?」

「い、いや! 私はべ、別に……ただご主人が勿体ないことを言い出すものだから……。その……注意をだなぁ」


 分かりやすい奴だ。貴族令嬢の頃に父親の陰謀の後押しとしてジーナを竜討伐に向かわされていたが……どうやら本人自身も乗り気だったらしいな。天竜の素材を使った何かが欲しいんだろうか。


「ならサリネルさん。鱗100枚と牙100本。それから火炎袋の3割と骨を1本見繕ってください。それと報酬の1億で好きにして頂いて構いません」

「ご、ご主人……!!」


 ジーナからの羨望の眼差しが眩しい。

 そんな目で私を見るんじゃない。私はお前を奴隷に落とした張本人なんだぞ。憎まれこそすれ、感謝されるような人間じゃない。


「承りました。ではそのように手配します。重ねて感謝申し上げます。天竜討伐、並びに素材の融通に感謝を」

「どうも。どうか大切に使ってください」


 そう返すとサリネルは部屋を後にした。私たちは部屋から彼女を見送り椅子に着く。遅れてリオンがお茶を運んできたが、必要無くなったな……。


「すまんリオン。客人は帰った。飲みたいなら飲んでいいぞ?」

「先生いいの〜? じゃあ飲む!」


 ゴクゴクと一気に飲み干すリオン。淹れたてのお茶なんじゃないか? 喉火傷しちゃわないか?

 そんな心配は必要ないようで、リオンはプハーッと満足げだった。


「ご主人。その……」

「どうしたジーナ?」


 なんだかモゾモゾともどかしそうにしているジーナ。

 さっき私に意見したのが気まずいと言ったところか。

 まあ今は奴隷だしな。冷静になって振り返ってみて焦ってるんだろう。


「す、すまない。意見を言ってしまって」

「いいさ。お前、武具には興味があったんだろ? それにあのトカゲは私とウィルが倒したんだ。どう扱おうが所有権は私にあった。だから気にしなくていい」

「だが……」

「そこまで申し訳ないと思うならそうだな……。新たな装備が完成したら手合わせの一つでもしてやろうか?」

「本当か!?」


 私は頷く。

 彼女も体を動かしたい盛りだろうし、強くなる分には歓迎だからな。


「だが最初は特訓から始める……そこからだ。ゆくゆくは独り立ち出来るようになるまで面倒は見てやるさ」

「独り立ち……。まさかご主人は私をいつか奴隷から解放するつもりなのか?」

「もちろんそのつもりだが?」


 ジーナだけじゃなくリオンに対しても同じだ。

 リオンはまだ幼い事もあり成長するまでは面倒を見るつもりだ。ジーナは貴族出身だからこそ世の中に対して無知なところが多い。

 最初こそ戒めのつもりで奴隷に堕としたが、根は良い奴だ。実力と知識が十分培われたら奴隷から解放してやっても良いと思っている。


「ご主人……どうやら私は貴方のことを勘違いしていたようだ」

「勘違い?」

「奴隷に落とされたあの日、私はご主人のことを金にがめつい犯罪者としか見ていなかった。だが共に過ごす内に貴方の考え方や強さを認識した。今では尊敬しているし、ここに来て良かったとさえ思ってる。ありがとう」

「随分と素直だな」

「わ、私だって人間なんだ! 素直に人を褒める事もある!」


 貴族でも珍しい部類だと思うがね。まあそう言う部分も含めて良い奴なんだ。


「取り敢えずは一息入れよう。今ので気が少し疲れた」

「ああ、そうだな。では新しく茶を入れ直してくる」

「あ! 僕は僕は〜コーラがいいな!」

「はいはい。リオンはコーラだな。待っていてくれ」


 キッチンへ向かうジーナの足取りはどこか軽快だった。天竜の素材が彼女への謝罪にはならないだろうが、少しでも喜んでくれるのなら頼んだ甲斐があったな。

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