第26話
「耐性完全無視の強制複数デバフ効果付与だと!?」
屋敷に戻り、ジーナにウィル――【深淵から伸びる手】である外套の効果を教えてやった。
ジーナは特に気になっていたようだからな、私の装備が。
「つ、強すぎる。それはたとえ神が相手であっても貫通するのか?」
『ええそうよ。なんて言ったって私自身が神なんだもの』
屋敷の居間、夜も遅いと言うのに、私達は疲れを癒そうという事でお茶を飲んでいた。
ジーナの目の前でウィルが寂しい胸をふんぞり返っているのをチラッと見てお茶を口に含む。
うむ美味いな。
因みにリオンはとっくに夢の中だ。子供はもう寝る時間だからな。
「だがだとしたらなぜご主人はウィルヘルミナ殿を連れて任務に出ないのだ? 連れていけばより効率的に依頼をこなせるだろうに」
「ほ〜。ジーナでもそこに気付いたか」
「むっ。なんだその言い草は。私だってここに来てもう2ヶ月だぞ。ご主人と任務に出たことも何度かあるし、それぐらいは分かるぞ」
すまんすまん。少し馬鹿にしすぎていたな。と私は手で謝る。
「確かにジーナの言う通り、ウィルを使えばより早く依頼がこなせるだろう。だが……それは無理なんだ」
「なぜだ!?」
『それは私が説明するわ』
ウィルがフワリと浮いてジーナの側に移動した。
ジーナは未だ慣れていないのかその姿に若干顔が引き攣ったいたが、ウィルはお構いなしだ。
『私のデバフ効果なんだけど、まさかまさかの死体にも影響を与えちゃうのよね』
「死体にだと?」
『ええ。なんでか分からないのだけれど、私を装備したアイザックが死体を回収したら蘇生出来なくなっちゃうのよ』
「それは本当か!?」
ジーナが私の方を見て聞いてきた。お茶を飲んで答えてやる。
「本当だ。それに気づくまで私は連続で依頼を3回失敗しているからな」
「は〜。なんて勿体ない効果なんだ」
『神の耐性すら貫通するからかしらね〜。死んだ人間の体は神の加護っていう蘇生可能状態を維持するのだけれど、多分それを私のデバフが打ち消しちゃうのかもしれないわ』
あくまで仮説だがな。だがこの仮説は正しいと見ている。なんせ彼女を作り上げるために必要とした素材が素材なのだから。
「それはそうとウィルヘルミナ殿。貴方のその外套だが、一体なんの素材でできているのだ?」
ぶっ!!
私は思わず茶を吹いた。今ちょうどその事を考えていたのに、なんてタイムリーな事を聞くんだジーナは。
『汚いわよ? アイザック』
「仕方ないだろう。お前の素材をジーナに教えるとなるとこうもなるさ」
ジーナは首を傾げていた。なぜ素材だけでこんな反応をするのか疑問だったのだろう。
ウィルも流石に『どうする?』と目で訴えてくる。
言ってもいいが、伝えたら最後半年はトイレに行けなくなるぞ?
「聞きたいか?」
「ああ」
「どうしても聞きたいか?」
「うむ。私に二言はない」
「夜にトイレに行けない体になってもか?」
「諄いぞご主人。私はもう18の淑女だ。どんな話であれトイレには1人で行ける」
「……ふぅ。分かった」
そこまでの覚悟があるのなら言ってやる。
「ウィルの素材だがな」
ジーナはごくりと息をのんだ。
特別な武具は特別な素材が必要なものが多い。それはウィルも同様にだ。
まあ私が作った訳ではないのだが……。外套の素材は勿論ウィルから聞いている。それは。
「生きた人間の子供の血500人分だ」
「へ……」
ほら見たことか固まってしまったじゃないか。
もっとも魔物の素材的なものを想像していたのだろう。
だが残念だったな。正確には、死への恐怖。
それが大量に必要であり、最も効率が良いのが感情豊かな子供というわけだ。
「に、人間の子供……」
『ええそうよ? 生きたまますり潰し、死の直前の恐怖と後悔を叫びながらその血を生地に纏わせて作るの。それも超精密に染み込ませなきゃダメよ? ちょっとでも血に汚れがあったり、恐怖が不足したら失敗するもの。私を作り出すために大体そうねぇ……5万人ぐらいの子供が死んだかしら?』
やめてやれ。お前の追い打ちでついにジーナが気絶してしまったじゃないか。
目の前にいるジーナは完全に白目を剥いて口をあんぐりと開き、魂が抜け落ちたようになっていた。
ウィルはそんなジーナを指差してケラケラ笑っていた。
なるほど。わざとだ。こいつ、ジーナに嫉妬しないとか言っておきながら嫌がらせは続けようとしているつもりらしい。
すまんジーナ。こいつはお前を虐め続けるだろう。もしかしたら今後一生、夜はリオンと共にトイレに向かう羽目になるかもな。
***
ジーナを部屋で寝かせた後、私とウィルは自室に戻り、窓際の席で夜空を眺めながら椅子に座り向かい合っていた。
「今日で15年目か?」
『ええ。お前と出会ってから15年ね』
ウィルの手には先ほど討伐した天竜の血が入ったグラスが握られている。実物ではない。
外套に染み込ませた血は何故かウィルの飲み物として反映されるのだ。
ウィルの晩酌に付き合うように私も葡萄酒を片手に思い出に耽っていた。
『ここも随分と賑やかになったものだわ。リオンにジーナ。最初の頃はお前に同居人ができるとは思わなかった』
「そうだな。こればかりは自分でもびっくりだよ」
葡萄酒を一口含む。この町で手に入る一番高い物だ。味が芳醇で香り高い。
私に合わせてウィルが血を飲むと酔った様に頬を赤らめた。
『でも不思議と嫌じゃないわ。むしろ楽しい。あの城で1人閉じ込められてた時なんてもう考えられないぐらいよ』
「そうか。それはお前を連れ出せてよかったと言えるな」
『まあ留守番ばかりなのが癪だけれど』
「多めに見てくれ。仕事なんだ」
『分かってるわよ。それにここでお前達の帰りを待つのも悪くないって最近は考えてるわ。この家。私好きよ。みんなが帰ってくる場所。ここに残る以上私は全力で死守してみせるつもり』
「そうか。それは心強いな。なにせリオンはまだ幼くジーナは未熟なところが多い。お前が守ってくれると私も安心して外に出れるという物だよ」
ウィルは私の一番の相棒だ。常に一緒に戦うのが本来の武具と主人の在り方だとは思う。
だがこういう形も有りなんじゃないかと、少なくとも私はそう思う。
『ふふん。ならもっと私に感謝することね』
「してるさ。今日も突然の仕事に付き合って貰ってありがとう」
感謝すると、ウィルはキョトンと数秒固まってしまい、ハッと我に帰るまで数秒時間を要した。
『え、ええ。別に良いわよ。お前に使われてこそ本懐だもの。またいつでも私を使いなさいな相棒さん』
「ああ。その時は遠慮なくお前を使わせてもらう」
霊体と実体。交わることのない乾杯が月明かりで2人を照らした。明日も早い。だが、こうして夜遅くまで相棒と思い出を語り合うのも悪くない私は思った。
第3章完結です!
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