第24話
「それでどうなったのだ!?」
夕食を囲んでジーナに過去を話していた私はとても懐かしい気分に浸っていた。
隣を見るとリオンがハンバーグを食べ終えて、ジーナお手製ジャンボアイスクリームを口いっぱいに頬張ってご満悦と言った様子だ。
「その後婆さんにウィルヘルミナを返そうとしたら断られたよ。何故か死にそうに転がり回ってな……。そうなると物を返せないから任務は失敗だ。金も断ったんだが、なんと6億支払われ城から叩き出されたがね」
「ほう。それはウィルヘルミナ殿がまた何かしたのではないか?」
「そうかもな。だがあいつにも自我があるんだ。やりたい事でも見つけたんだろ。その自由を縛る権利は私にはないよ。だから仕方なく持ち帰ることにしたんだが――」
「が?」
ジーナが首を傾げた。そう。これはかなり困った事なんだが……。
「ウィルヘルミナの奴。どうしても私から離れたくないとわがままを言い出してな。しかも女性を見るやすぐにあの苦痛を与えようとするんだ……客に対してもだぞ? こればっかりは困ったもんだ」
「そうか。だからご主人は部屋に入るなと言ったのか」
「そう言うことだ。なぜそんな悪戯をするかは分からんがね」
ステーキを切り分け口に運んだ。
完全に冷めてる……長話をしすぎたな。
だが決して悪い気分ではない。こうして昔話ができるのはジーナがこの屋敷に来てくれたからだろう。
そんなジーナは私をジトっと見てくる。
「なんだ?」
「いいや。ご主人は鈍いと思ってな……」
「鈍い? 私がか?」
「分かってないのなら良いのだ。これではウィルヘルミナ殿が可哀想だ」
何を言ってるんだ?
「話はここまで。さあ今日ジーナは夜トイレに向かうことができないぞ〜」
「は? 私がか?」
「そうだ。お前さんは怪談話が苦手だろう」
「うっ。た、確かに苦手だが……今の話は全く怖く無かったぞ! ちゃんとトイレにも行けるぞ!」
「おやおや。お前さん忘れてやしないか?」
「何をだ」
ムッとした様子のジーナ。本当に忘れているようだな。
「言っただろ。外套の話をした者は死ぬと」
「…………〜〜!!!」
思い出したのか、ジーナの顔色がサ〜っと面白いぐらいに青く染まっていった。
「そ、そそそそれも冗談なんだろ!?」
「いいや例外なくみんな死んでるぞ?」
「う、うううう嘘だぁぁぁぁぁぁ!!」
まあ、死にはしないんだけどな。ウィルヘルミナの死の呪いは本人が認めた人間には作用しない。それに今は彼女以外にも私が認めた相手にもそれが適応されている。
つまりこの屋敷で勤めてるお前さんは死ぬことはないんだが。
「ああああああ〜〜!」
こうして嘆くジーナの姿があまりにもおもしろすぎるから黙っておこう。貴族では味わえないスリルってやつさ。
ジリリリリリ!!!
「ん?」
突如、屋敷の電話が鳴り響いた。依頼の受付時間は終了していると言うのになんだ?
リオンがアイスクリームを一口多めに頬張り電話へ向かって行った。
「もひもひ。アイザックっれふ」
ここからでも電話に出た声は聞こえるが……リオン。電話に出る時は食べ物を飲み込んでからにしなさい。まったくしょうのない子だ。
「はいはい……本当にッ?!!」
いきなりでかい声を出すもんだからジーナが驚き跳ねてしまったじゃないか。
ジーナはさっきの話の恐怖も合わさりうっすらと目に涙が浮かんでいる。
「はい……はい。ちょっと待ってくださいね」
ガチャリ……。ドタドタドタ!
リオンが慌てた様子でこちらに駆けて今に戻ってきた。
「先生! 変態変態!」
「リオン落ち着きなさい。変態ではなく大変だろう。何があった?」
「う、うん。実はこの街に超でっかいドラゴンが向かってるんだって! それもいっぱい!!」
「なに? それはワイバーンとかではないのか?」
「ううん。でっかいドラゴンだって! 東の方からびゅ〜んってこっちに向かって来てるらしいよ?」
「分かった。電話に出るからリオンは下がってなさい。ジーナ。食事の後片付けを頼む」
「あいあい!」
返事するリオンに対してジーナは「死がお迎えに来たのだ……」とブツブツなにか祈りの言葉を呟いてる。
流石に言いすぎたか。私は廊下に出て、受話器を握り電話に出る。
「もしもしお電話代わりました私がアイザック本人ですが――」
『アイザック先生ですか!? 大変なんです。法国からドラゴンが! 天竜が!!』
電話に出るや否や男の声が耳を劈くほど叫んでこられた。受話器を少し話しても中々の声量で耳が痛い。
「落ち着きなさい。あなたは?」
『わ、私はグライカン国境警備隊連隊長のヴォルフです。夜分遅くにすみません』
国境警備連隊……グライカンの外壁を守る軍隊がこんな夜に――しかも天竜だと?
「ヴォルフ殿。あいにく今の時間は仕事を受け付けてなくてね。悪いがギルドの方に連絡してください」
『そう言わないでください! ギルドの方にはとっくに連絡しました! なんでもあのドラゴンはギルドの緊急討伐対象だったらしく高ランクの冒険者が討伐に派遣されたらしいのですが』
「が?」
『その冒険者は帰らず代わりにそのドラゴンが飛来したのですよ! しかも仲間を引き連れて! 今あれに立ち向かえるのは先生しかいないと!』
つまり今ギルドで戦える人材が居ないから私に回したんだな? 全く厄介な。
「それでも魔物討伐は専門外でね。すみませんが別の冒険者を頼るがよろしい」
ギルドの尻拭いなどごめんだ。天竜討伐? そんなのは冒険者とお前さんたちの本業だろうに。
『困ります! もう頼れるのは先生しかいないんです! お願いしますこのままではグライカンが……大陸がドラゴンに焼かれてしまう!』
その受話器から流れてくる声が漏れていたのか、ジーナとリオンが聞いたのか不安そうな顔を向けてくる。
そんな目で見ないでくれ……。私もボランティアで仕事を受けるような馬鹿じゃないんだ。だが、そうだな……。
「条件がある」
『で、では!』
「報酬として7000万お支払いして頂けるのであれば引き受けましょう」
『な、7000万!? 先生それはひどいです! この街の危機なんですよ!?』
「危機がなんです。私は冒険者ではない。ただの探索者。いわば市民だ。この街を守る義務もなければ義理もない。それに7000万ぐらい役所にあるはずでしょう。それともなんです? やはり他の冒険者を頼りますか。私は一向に構いませんがね」
『ぐぬぬ……。わ、分かりました。今すぐに市長に掛け合ってみます。3分下さい』
「分かりました。では3分後。またご連絡をお待ちしてます。では」
電話を切ったと同時
ジーナとリオンが駆け寄ってきて私に不安そうに話しかけてきた。
「ドラゴンって、法国から来るということはあの天竜か!?」
「て、てて天竜ってあの本に出てくる伝説の!?」
法国の書物には確かに伝説の魔物として描かれた物が多いが、過去に何体か人間の手で討伐されてるただの魔物だ。
「そうだな。伝説と言っても長く生きた竜種に過ぎない。ただの火を吹くトカゲだよ」
「トカゲって……ご主人それはないだろ。で、どうするのだ?」
「どうするも何も連絡待ちだ。まあ恐らくだが金は入る。だから2人とも準備をしなさい」
「「はい!」」
返事して2人は装備やら消耗品の準備に取り掛かり始めた。リオンは手慣れた様子だが、ジーナはここに来てまだ2ヶ月というのに慣れるのが早いな。
無駄な動きがなく手早く支度を済ませていく。
きっとリオンの教え方が上手かったんだろうな。
「さて……私も支度をするか」
今回は救出任務ではなく討伐任務だ。あまりこの手の依頼は受けたくないのだがね。
そう思いながら自室へと向かうと、フワリと現れた霊魂がニヤニヤしながら私を見てくる。
『聞いたわよ? でかいトカゲがこっちに来てるって?』
「そうだウィル。君の力を借りたい。手伝ってくれるか?」
『ええ。ええ! もちろんよ! 久々の仕事なんですもの。張り切っちゃうわよ〜!』
君が張り切るととんでもないことになるんだがな……。
最悪の事態を考えながら私は黒の外套――【深淵から伸びる手】を羽織った。
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