第22話
「なに? 私の専用武具はないのかだって?」
任務を終え、皆で食卓を囲む中でジーナが突然そんなことを聞いてきた。
「ああ。少し気になったのだ……。聞いちゃダメだったか?」
「ダメという訳ではないが……」
別に隠している訳ではない。あるにはあるのだが。これを聞いて信じて貰えるのか。それにより恐怖を与えてしまうんじゃないか? そう思ってあまり言いたくはないのだが……。
「聞きたいか?」
「ぜひ!」
「先生の武器? 僕知ってるよー! むぐっ――」
リオンが余計なことを口走りそうになって、すぐに私は彼の口にハンバーグの塊を突っ込んだ。
むぐむぐと頬張っては蕩けた顔をしている……。かなりの量だ。よく噛んで食うんだぞ?
「リオンは知っているのか……。なら何故私に教えるのを躊躇っているのだ?」
「お前は苦手だと思ってな」
「私が苦手? はは。何をいう。私に苦手な物などあるはずがない! 余計な心配は結構! 教えてくれ」
「そうか? なら話してやるが――夜にトイレに行けなくなっても知らんからな」
「どんと来いだ!」
大丈夫か? まあそこまで聞きたいのなら話してやるが、私は責任を取らんからな。
***
今から10年前、まだリオンとも出会う前のこと。私が独立してこの仕事を生業にし始めた頃だ。
前職で名を広めていたこともあって、それなりに仕事はあったのだが、ある日……変わった依頼を引き受けることになった。
「ん? これは……」
その日の朝。私はポストに投函されていた一通の手紙が気になった。黒い封筒に赤い蝋で閉じられたその手紙が、私にはどうしても普通のものとは思えなかった。
屋敷に戻って中を確かめてみると、そこにはある物が盗賊に奪われてしまい、盗賊が厄介なダンジョンの奥に逃げ込んだから取り返して欲しいというものだった。
人命に関わるものではないことから当時の私はそれを断ろうとしたのだが、手紙の最後にはこう書かれていた。
『盗賊は今頃死んでいるでしょう。あれは先生にしか回収できない代物です。並の冒険者では飲まれてしまう。先生ほどの実力があればきっと……。報酬は3億支払います。何卒よろしく』
「ふむ……」
ただの物資回収で3億。それに私にしか回収出来ないと書かれていて興味が湧いた。
だから私はこの手紙の依頼を受けることにして、依頼主の住む帝国最北端に位置するドラキュレーザへと赴くことになった。
ドラキュレーザは太古の昔ヴァンパイアが支配していたとされる、帝国では珍しく貴族階級が存在する土地だった。と言っても王国と違って、その領地だけで運営されているものだからごっこ遊びみたいなものだがな。
そんな闇と極寒の土地にある城の主人が依頼主だった。
今でも鮮明に思い出せる。
赤と黒の内装。不気味な魔物の彫像。いかにも化けて出そうな雰囲気があったな。
依頼主は70の婆さんだった。名をカーミラという。家名は教えてくれなかったがね。
なんとも胡散臭い婆さんだったが、依頼内容は手紙に記されているからと必要以上のことは教えてくれなかった。
その物についても。どうやら実力の無い者がその物の話をすると即死するという呪いの物らしい。
盗賊が逃げ込んだというダンジョンは帝国でも有名な中級ダンジョンで、通称【冒険者の登竜門】と呼ばれていた。
「ここなら私じゃなくても回収は容易いはずだが……」
だがカーミラの話が事実なら盗賊は今頃死んでいるだろう……つまり回収物自体が危険物ということか。
「全くとんでもない依頼だな。まあ興味が湧いたのだから仕方ない。行くか」
***
【冒険者の登竜門】は断崖地帯を模したダンジョンだった。道幅は人一人あるかないかくらい。
強風に煽られ、飛竜種やバットなどの飛行系の魔物に溢れていた。
戦闘自体困難な足場。流石登竜門と言ったところだな。
ギルドが推奨するパーティー戦術が一切取ることができない地形。だが私は元々ソロだし問題ないがね。
道中の宝箱や魔物を討伐した時のドロップ品は全て無視。いつも通り目的だけを回収することに集中した甲斐あって、私は目標に辿り着くことができた。
なぜそれが目標だと思ったかはすぐに理解した。
地面の岩に引っかかる外套。黒く、内側の生地が人間の血のように真っ赤なそれから、ただならぬ死の気配を発していたからだ。
まるで心臓を手で掴まれているような感覚。少しでもそれに近づけば爪を立てられるような……。
一歩。また一歩と警戒しながら進むと、あたりの光景がガラリと変わった。
元々空は曇っていたのだが、一気に暗く、暗黒に包まれた。
「何が起こった!? デバフ効果を与える魔物が潜伏していたか!?」
『また1人……供物がやってきた』
不意に聞こえてくる女性の声。
「誰だ!?」
『貴様に名乗る名などない。貴様もすぐに冥府に逝く。言葉など無用』
「くそ! アンデッド系の魔物か!」
どこを見ても真っ暗だった。だが足を踏み出すと浮遊感があった。崖だ。どうやらこの地形ごと変化した訳ではなく、風景だけが塗り替えられているようだ。
「【シュペル・ムル・シャイニー!】」
これがアンデッド系の魔物の仕業と見た私は咄嗟に【聖光魔術】を唱えた。
この魔術は生ける生物には効果がない光だが、既に死んでいる生物にのみ対して有効な魔術だ。
暗い空間に眩い光が差した。
だが――
『ちっぽけな光ねぇ。そんなマッチの火ほどの灯りじゃ、私の闇は払えないわよ。あははは』
「くそ!」
言葉を話す時点で察してはいたが、かなり高位のアンデッドだな。厄介だ。
私は剣を引き抜き【聖光魔術】の魔力を刀身に宿した。
エンチャント――基本的に物理無効の敵に対しては魔法のみが有効だが、こうして付与さえしてしまえば、物理攻撃であっても魔法攻撃に変換されるというわけだ。
私は剣を全力で振るった。この闇の空間を切り裂くように。
それが奴からしても予想外の一撃だったんだろう。空間が裂かれ、元の断崖地帯の光景が辺りに見えた。
同時――私に声を掛けていた魔物の正体も見えたのだ。
『もの凄い魔力。それにあなた、これまでどれほどの命を奪ったのかしら。死の香りが凄いわよ?』
現れたのは黒のドレスにウェーブがかった青い髪、そして過労で死んだのかと言うほどに目の下に酷いクマがある女性型アンデッドがそこに居た。
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