第19話
任務は無事成功した。私達はグライカンにある教会まで戻るとハンナの奴が足元を見たように、今回の蘇生をいつもの金額の倍を要求してきた時は流石の私もイラッとした。
だが金は腐るほどあるからすぐに払ってやった。更に文句も言えないほどチップも上乗せしてな。
すると甘えた声で「毎度あり〜」と蘇生に向かうハンナのあの姿は今後一生忘れやしないだろう。
医務室で目覚めた【森の息吹】のリーダーの男はその場で警察からの聴取を受け……なんとか男のアリバイが立証されたようで、それを目の前で確認出来た時は流石の私も安堵の息を漏らした。
そして私はしっかりギルドから残りの報酬を受け取り、今は帰路に着いているという訳だが……。
「はぁ……」
「どうした? 流石に疲れたか?」
「まあな……」
夕暮れを過ぎたグライカンの街にポツポツと街灯が光り始めていた。そんな街を歩いていると、さっきからため息ばかり吐き続けるジーナ。
相当お疲れのようだ。
まあ今日1日ハードだったからな。疲労が蓄積していても仕方ないだろう。そんな彼女に私は貰った報酬の1割を彼女に差し出した。
「受け取れ」
「は? これは?」
「今回の仕事の報酬だ」
「いいのか!? 私は奴隷なんだぞ?」
つい昨日まで侯爵だ〜! とか抜かしてたのにもう奴隷の身分に落ち着いたのか……。随分と適応が早いな。
「いいんだ。だがこれは借金返済には当てられないからな。私からの小遣いだと思って受け取りなさい」
「こ、こんなに……。うっ」
「ど、どうした? なぜ泣いてる?」
お金を受け取るや泣き出してしまった。
私は何か悪いことでもしただろうか? いやまあジーナの家を潰したのは私なのだし悪いことしまくりなんだが……。
「いや。こんなにもお金が重たい物だったなんて……稼ぐという事がこんなにも難しいものなんて知らなかったから……」
ジーナは余程大切に育てられたらしいな。自分が働いて報酬を得る、この経験が初めてなんだろう。
しかもかなり精神的に辛い仕事だったはずだ。それを乗り越え認められた今、彼女の感情は昂ってしまったのだろう。そんなジーナの頭にポンと手を置いた。
「大変だったからな。お前には随分と辛い初仕事をさせてしまった」
「いいや。私は何にも役には立てていない。話で聞いたリオンみたいに気が利くわけでもないし力がある訳でもない。私は奴隷に堕ちて初めて己の無力さを知った……」
「そうだな。確かに今のお前は無力だ。だが今日、お前は自分の力で報酬を得た。これは何より大きな一歩じゃないか?」
「大きい……?」
「ああ。それに時間はある。これからゆっくり学んでいけば良いさ。さあ帰るぞ? リオンが腹を空かせて待ってるだろうからなきっとカンカンに怒ってるぞ。となると今夜は外食と行こう。そこでお前に命令だ」
命令。その言葉を聞いたジーナは涙を拭き取り真剣な顔で向けてきた。
「ジーナ。お前はリオンが喜ぶ晩御飯を考えなさい」
「晩御飯を? リオンの喜ぶ……」
「そうだ。機嫌を直してもらえる様な物がいいな。あっ! 金の心配はいらないぞ? 金なら腐るほどあるからな」
「ははは。それはご主人が巻き上げたからではないか」
「そうか? 確かにそうだな!」
ようやく年相応の少女らしく笑ってくれた。そんなジーナの姿に私はまた安堵して屋敷へと戻るのだった。
***
屋敷からそれほど離れていない夜道を私とジーナ、そしてリオンの3人で歩いていた。
リオンは膨れた腹を摩りつつ「ケプ……」とゲップを漏らしている。
「むふー。満腹満腹〜。それにしてもよかったの先生? 僕は今回留守番してただけなのにこんなご馳走食べさせてくれちゃってさ〜」
ジーナがリオンを喜ばせようと思考の末に出した答えは街の小さな食堂だった。
なんでもジーナ自身、以前から気になっていた店ということで、更にはリオンもこの食堂にあるお子様ランチが喜ぶんじゃないか? と言った理由で選んだらしい。
結果はご覧の通り大満足と言った様子だ。
リオンはお子様ランチ以外にもジャンボパフェやアイスクリーム2種類を食べ切っていて、それはもうお腹がパンパンのパンだ。
「いいさ。リオンにはいつも世話になっていることだしな」
「え〜。僕が〜? えへへ。そうかな〜」
「でも礼ならジーナに言ってくれ。今回あの店を選んだのはジーナでお前を喜ばせたいと考えてくれたんだからな」
「えっ! そうなの?」
リオンの羨望の眼差しを一身に受けたジーナは照れているのか顔を逸らしながら「う、うむ。まあな」とぎこちない返事を返していた。
まだ少しギクシャクしている様だが、この調子ならそう遠くない未来には仲が縮まっていることだろう。
「今回の任務で私はリオンの力が優れていることを痛感したよ」
「え? なんで? ジーナさんは僕が何をしてるか見たことないでしょ?」
2人が一緒に私の仕事について来たことはないからな。
知らなくて当然だ。
「見た事がなくても分かるさ。今朝お前は言ったろ? 先生とずっと一緒にダンジョンに潜るのは大変だーっと。私はたった1度の付き添いですらまともに動けなかったのだぞ?」
「え? 言ったっけ?」
惚けたリオンにジーナは肩を落とした。
「言ったさ。覚えてないのか?」
どうやら私の知らないところで話はしているらしい。
だがリオンは馬鹿の子なので、自分の言った言葉すら覚えていないようだ。
「一緒にダンジョンを潜る。それだけが私にはどうしても難しかった。それにご主人のサポートをしなければならないのに、逆にサポートされてしまった。だがリオンお前はそんなご主人をサポートしつつあの速さについていけているのだろう? すごいな」
えへへ。と照れるリオン。この子とは随分と長い間任務を共にしているからな。最初こそ酷い物だったが、今では私に問題なくついてこられる様になった。
「ジーナ。そう悲観するな。リオンはここに来てもう何年にもなる。だからついてこられるんだ。お前はまだここに来て1日で初仕事だったわけだ。これから知っていけばいいさ」
「そうだな……」
「まあ? その為にもこれからはじゃんじゃん私の仕事に駆り出すつもりだからな。その時はちゃんと報酬は支払うから安心しなさい」
「それはありがたい! ってなぜご主人は奴隷に金銭を支払うのだ! そこが気になっていたのに聞くのを忘れてしまっていたぞ」
おっと。そこを聞くか。まあ隠してるわけでもないし。別に答えてもいいんだが。
「お金を支払うのはお前が相応の働きをしたからだ」
「相応の働き?」
「ああ。金を払わず苦痛だけを強いる奴隷の主人はいずれ背中を刺されて死ぬ。私が奴隷の身分であればそうするからな」
「だからって私もそうするとは――」
「しなくても私がそう考えてしまう。だからそんな事も思わせないぐらいの報酬はきっちり払うと決めたんだ。それに私の仕事だぞ? たとえ1割だとしてもそこらの奴隷と比べたら破格の報酬額だとは思わないか?」
「た、確かに……」
働きには報酬を十分に与える。これが仲違いせずに行動を共にできる人類が長い歴史の中で身につけた魔術を介さない契約だ。
そんな話をしているとリオンが笑顔で振り返った。
「うんうん。僕なんてこの前の仕事で500億の1割だから……え〜っと?」
「50億……。とんでもない額だな。奴隷どころかそこらの貴族よりも資産があるぞ」
「でしょでしょ〜」
やめなさいリオン。そのお金はジーナの家から搾り取った金だぞ。胸が痛い……グサグサ刺さるからやめなさい。
「先生? どったの?」
「い、いや何も。あはは。何もないよ」
笑って誤魔化す他ない。どうかジーナに気づかれませんように……。
「変な先生」
誰のせいでこんなことを考えてると思っているんだ。まあジーナも気付いてないみたいだし、大丈夫か。
「取り敢えずはジーナ。今日はお疲れ。ゆっくり休んで、また明日から屋敷の掃除をよろしく頼むよ」
「ああ。任せてくれ。なんて言ったって私はご主人の奴隷メイドだからな!」
そんな頼もしい言葉を微笑ましく思いつつ、私たちは屋敷へと帰るのだった
第2章完結。ジーナの初仕事回でした。
次回3章から新たな仲間が登場?
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