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第6話 俺だけ偶然の出会いが多い件について


 カスミの剣の練習につきあった日のこと。

 その日の昼間は村で釣りを楽しんで、午後遅くなってから俺はダンジョンにやってきていた。


 ダンジョン内に、村という俺専用のもう一つの拠点ができた今でも、自宅でしかできないことは多数ある。

 例えば、PCを使ってのネットサーフィン……もはや死語か? を楽しむとか。

 そういうことのために、二日に一度程度は自宅に帰ることにしていた。


 なので今日は、三階で降りてモブ狩りをしながらダンジョンの入り口に向かう予定だった。


 そうだ。

 ダンジョンの報酬についての話をしていなかった。

 

 ダンジョン探索者がなぜダンジョンで探索しているか。というか、ダンジョン探索の何で生計を立てているかについてだ。


 もちろん、生計を立てることができていない探索者も結構いる。エンジョイ勢とでも言うような探索者の収入は少なく、本業が別にあったりする。


 だが、一部の探索者は、ダンジョン探索だけで生活をすることができている。


 主な収入源の柱は二つ。


 一つは配信。近年、ダンジョン配信者が増えていることからもこれは明らかだろう。

 配信で儲けるためには、ダンジョン内での探索、冒険を配信することによって、視聴者を集めるのがまず第一歩。


 そうすることによって、配信を見る際に表示される動画広告、視聴者からのおひねり……いわゆる投げ銭による報酬、それに、企業の商品などを宣伝する案件配信という形で収益を得ることが可能になってくるのだ。


 簡単に言えば、人気をお金に変える人たちである。


 俺ぐらいの視聴者数だと配信収入は少ないが、昨日会ったアオのように登録者20万人もいれば、それだけで飯が食えていくのは間違いない。

 そんな、夢のある世界だ。


 で。

 もう一つは、討伐報酬である。


 ダンジョン内に出現するモンスターは、例外なく、魔石というものを持っている。これは、体の表面のどこかに埋め込まれている石のような何かで、討伐したモンスターからナイフなどを使って引き剥がすことで探索者のものにすることができる。


 これが売れる。


 ダンジョンの入り口にある迷宮管理局の買取窓口に持って行くと、一週間と少しの査定の上で現金化してくれる。振込は銀行振込が一般的。


 なぜ魔石が売れるかというと、魔石は、宝石の原石・貴金属・希少金属・希土類の塊だからだ。

 単純に物質的に価値があるのである。

 

 魔石集めは、言うなれば、モンスターという鉱脈を採掘しているようなものである。掘れば掘るほど儲かるのだ。ちなみに、階層の深いモンスターが持つ魔石の方が単価が高くなりがちであるが、運もかなり影響する。

 

 なお、第一次ダンジョンブームの頃は、まだ配信という概念がなかったので、ダンジョン探索者の収益源はこの魔石だけだった。


 だが、魔石だけだとリスクとリターンがあまり一致しないというか、きつい・汚い・危険の3K労働の極みのようなところがある。


 買取価格の変動の影響もあり、第一次ダンジョンブームは早々に下火になってしまったのだ。


 その後、ダンジョン探索を動画にしてバズったものが出て、魔石集め以外でも収入が得られることが明らかになった。そして、映像化の中心が、動画から配信に変わった今が第二次ダンジョンブームと言われているのだ。


 そんな中で、俺は、長らく第二次ダンジョンブームに乗り切れていない探索者だった。配信の人気は下の方で、主な稼ぎは魔石集め。


 こないだアオを助けたときも、助けたお礼として倒したモンスターの魔石は全部もらったぐらいである。


 ダンジョン探索者として生計が立つ程度にはコツコツと稼いでいるといえば聞こえはいいが、リッチな探索者とはとても言えない。


 なお、この問題。


 ダンジョンの村のおかげで一部改善しつつあるのだが、その辺はまた別の話だ。


 ともあれ。

 そういった事情で、俺はモブのモンスターを狩り続けているのだが。

 配信をつけた状態で、三層・二層と出会ったモンスターを片っ端から鏖殺して一層に達した時のことだった。


「あっ、リトドラさん!」


:この声は?

:もしやして

:アオちゃんでは?


 俺以上に早くコメント欄が反応していた通り、なんと偶然、配信者のアオと出会ったのである。

 もう二度と会うことがなくてもおかしくないとか思っていたのだが、なんと二日連続だ。


 こちらに駆け寄ってきた彼女の長い髪が後ろにたなびく。それを追いかけるように白いドローンもやってきた。

 今日も配信中らしい。


「あー……どうだい、足の方は。もう支障なし?」

「ええ、昨日の水ばんそうこうで完全に治りましたよ」


 俺は、挨拶がわりにそんな会話を交わした。


 アオは昨日と同じ、学生服をアレンジしたような服装に身を包んでいた。だが、昨日の転落時の汚れの跡が全く残っていない。ということは、同じ形の服だけど新品の別の服なのだろう。

 この格好が配信者としての彼女のトレードマークってことだ。


「今日も探索かい?」

「はい。毎日配信は配信者の基本なので!」


 元気な笑顔。

 昨日、命を落としかけた娘のものとは思えない。


「そうか」

「リトドラさんも探索ですか?」

「ああ、うん。ちょっと下の方で稼ぎをね……今帰るとこなんだ」


 登録者20万人超えで、めちゃくちゃ稼いでいるであろうアオの前で口にするにはなんとも気恥ずかしい科白だった。


「そうなんですかー」


 しかし、アオはなんとも思わなかったようだ。


「……でも、帰るところですか。残念ですね、今度会った時はコラボしたかったんですが」

「はは」


 社交辞令だと思っていたけど、意外にもそうではなかったのだろうか。

 俺は、軽く頭を掻いた。


「アオちゃんはこれから?」


 これから探索するのか、という問いかけに、彼女はそうです。と頷いた。


「そっか。じゃあ、頑張ってね」

「はい、頑張ります!」


 俺はそんな応援の言葉を残して立ち去ろうとした。

 が、ふと思い出す。 


「……あ、そうだ」


 俺は振り向いて、アオに頭を下げた。


「ありがとう。君のおかげで、だいぶ視聴者が増えたよ」


 今アオと絡んでいるので、また同接が伸びているが、今日はその前から配信の視聴者が増えていた。


 平均でおよそ100人ぐらいは来るようになっていた。

 いつも20人ぐらいだった俺からすると、5倍の伸びだ。新規で来るようになったリスナーは、アオのチャンネルからやってきたのだろう。


「そんなことないですよ、きっとリトドラさんの魅力が見つかったんです!」

「いや、それも全部アオちゃんのおかげだからさ」

「でも、リトドラさんの探索者としての技は本物です! もっと人気が出ますよ、これから」

「そうかな……えっと、それじゃあ俺はもう行くよ」


 無邪気な賞賛の言葉に、恥ずかしくなった俺は今度こそ立ち去ろうとする。

 その俺の背中に。


「次は絶対コラボしましょうねー!」


 明るい少女の声が届いたのだった。

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