第7話 俺だけ考える今後の生活プラン
今の俺の命題は二つある。
一つ目は、村の秘密を守ること。
村の存在を公表すれば、ダンジョンの新発見の主として有名になることができるかもしれないが、そのためには自宅のクローゼットに開いたダンジョンゲートを開放しなければならないし。
そうなったら、もはやこの部屋には住めないだろう。
そもそも、有名になったところでどれだけのメリットがあるのか、という話もある。今のところは秘密にして、俺だけが村を避難所として使用できる利益を独占したい。
少なくとも、村についてもっと理解してメリットやデメリットを把握するまでは。
村へのダンジョンゲートが開いて、すでに一月が経っているが、まだわからないことの方が多いのだ。
二つ目は、今後の配信活動を伸ばすこと。
俺はこれまで、あまり積極的に配信をしている方ではなかった。村の秘密を守るためにも、配信はもっと控えてもいいと思っていた。
しかし。
アオちゃんという有名配信者と知り合った。出会いは偶然だが、コラボに誘ってくれるぐらいには好意的だ。
一時的に増えた同接を、今後、俺の通常配信だけで維持するのは難しいだろうが、うまくコラボをすることで数字を伸ばしていけるかもしれない。
配信収益が高まれば、暮らし向きが安定するだけでなく、今まで手に入れられなかったものも入手できる。
一介のダンジョン探索者では買いたくても買えない、そんな高級装備もあるのだ。
「よし」
俺はPCに向かって、作文を始める。
アオのDMにメッセージを送って、コラボの打診をするのだ。
大人の自分が、女子高校生の少女と絡もうとするのは正直ちょっとキビシイものがあるが、降ってわいたチャンスを逃すのも馬鹿げている。
……そういや、文字通りに降ってきたんだったっけ。
「コラボについて……もしよければよろしくお願いします、っと」
これでレスが返ってこなかったらクソダサいなと思いつつ、俺はメッセージの送信ボタンを押した。
あとは待つのみ。
「いや……ただ待つだけじゃダメか」
俺はPCを操った。
情報収集するのは、アオの配信だ。彼女がいつもどんなふうに配信をしているのかをコラボ前に理解しておきたい。
いや断られるかもしれないけど。あの口ぶりで断られたらショックだな。大丈夫だよな?
俺はしばらくアオの配信のアーカイブを眺めた。
探索者としての動き、技術などはつたないものだったが、そこで売ってないこともすぐに理解できた。
探索中はよく喋るし、ダンジョン内で起きることに対する反応がちょっと大袈裟で、見ていて臨場感のようなものがあった。
俺のいつもの配信とはだいぶ違うこともよく理解できた。
見ながら、途中でビールを飲むことにした。
そして気づけば、画面を見ながら笑っていた。
なるほど、こういうのがいいダンジョン配信ってやつなんだな。
いくつかのアーカイブを見終わったとき、俺はダンジョン配信者というものを少しは理解できた気がした。
そして、ビールの影響が残った状態で眠りについた。
◇
翌日になった。
一晩自宅のベッドで寝て、身体の疲れは完全に取れている。
窓を開けて空気の入れ替えをする。季節は春だが、もう少々暑い。ダンジョンが出来てから年々日本の気候がおかしくなっているという話があれば、ダンジョンは関係ないという話もある。どちらが正しいのかは俺にはわからない。
村に向かう前に、PCの確認をする。DMの返信が届いていた。
返事は——了承だった。
一安心する。
断られるわけはないと思っていても、三十路付近の男との年齢差を考えるとどう反応されるかは分かったものではなかった。配信のコラボだからまだいいものの、他の用事だったらパパ活か何かと間違われても仕方ないわけで。
こういう場合、年嵩の男が不利なのだ。
不審でないはずなのに不審と思われてしまう。
さて。コラボの日付は数日後だった。渋谷ダンジョンで落ち合うことになる。
ダンジョンに向かうときはいつも配信機材を持っていっているのだから、特別な準備は必要ない。
なので、今日は今日のことに集中しよう。
俺は着替えを開始した。
ダンジョンの村に向かうときは探索用の装束に身を包む。
自宅、村、ダンジョン、そして、自宅。
そういう流れで日々を送るようになっているからだ。探索用の服と言っても、俺の場合は特段のものではない。鎧とかそういうものは身につけない。というか、鎧を着ている探索者など見たことがないが。金属鎧にせよ革鎧にせよ、夏は暑かろう。
現代の探索者は、アラミド繊維や超高分子ポリエチレンで作られた服を着る。
その上に、FRPとかのプロテクターをどの部位に重ねるかは人次第だが、重要な臓器の多い胴部分だけでも守るために装備している人は多いのではないか。
ちなみに村には部屋着を置いているので、村で宿泊する際も、これらの装備は脱いで寝る。当然だが。
服の準備ができると、俺は冷蔵庫を開けに行った。
村と自宅の二重生活で面倒なところは食材の賞味期限だ。うっかり、食べずに残して期限を切らせてしまうことがある。それもこの一月の間で徐々になれたが。
買い置きのハムと卵を手に取り、コンビニ袋に詰め込む。装備の他にはこれだけで十分だった。
クローゼットの扉を開く。
そこでは、うねうねと渦を描いている黒い霧が、物理法則を無視して浮かんでいた。これがダンジョンゲートだ。
これをくぐれば、村にある家の裏手にでる。
俺は迷わず頭から突っ込んだ。




