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第5話 俺だけ感じる村への疑問


 ここいらで、そろそろ村について少し語ろう。


 まず、俺は最初、ダンジョンの中に村があると言ったが、正確には違うと考えている。


 ——ダンジョンを中心に、現代日本と村がそれぞれ相互接続されている。


 こう考えたほうが適当だ。


 言うなれば、一つの駅のホームに、複数の路線が乗り入れているようなもの。


 渋谷ダンジョンという駅に対して、日本という路線と、村という路線が繋がっているのだ。


 なぜそう考えるかというと、理由はまあ単純で。


 村の住人の話を聞く限り、この村の外にはちゃんと国があるようなのだ。田舎の寂れた村であるため、村に訪れる来訪客は少ないが、こちらからバスに乗って他の街まで出かけることができる。


 つまり、この村の外にも広い世界があるのだ。


 これは現代日本側から見た場合のダンジョンと同じだ。

 ダンジョンを出て渋谷の街にでて、それから電車などを使って別の区や、別の県まで訪れることができる。


 それと同じことが村にも成立している。


 というわけで、この村はダンジョン内にあるというより、ダンジョンと繋がった別の世界なのだろう。

 ありきたりな表現で言えば、異世界、というやつだ。


 なので、俺から見た村の住人は、異世界の民ということになる。


 だが——正直、見分けがつかない。あからさまに人間だ。ただの人だ。

 確かに、髪の色や目の色、それに服装などには違いがあって、一般的な日本人としてはおかしい。しかし、地球人という観点でいえば、普通にいそうなのだ。


 異世界人というような特別な違和感はない。日本の人ではないけれど。

 つまりは外国人と変わらない、ということである。


 さっき会ったカスミは、最初のサンプルとしては最悪で、ゴスロリを好んで着ているため、村の住人の中では特徴的な格好だが。

 村の村長とか食堂でよく飲んだくれてるおじさんとかは、極めて普通だ。

 実際に日本にいてもただの外国人としか思われないだろう。


 異世界人も普通の人間だということを俺は知ったのである。


 それだけではない。さらに普通尽くしである。

 異世界では、普通に朝になると太陽がのぼり、夜になると沈む。

 俺たちと同じように食事をとり、俺たちと同じように眠る。


 仕事は都会から離れた村らしく、農業、漁業、林業などが多いが、中には村内に一軒だけあるスーパーの店員、という普通すぎる職業の人もいる。

 

 違うところはただ一つ。

 彼らが日本人どころか、地球人ではないというその一点だけだ。


 ひとまずはこんなところでいいだろうか?


 この村にしろ、ダンジョンにしろ、謎めいたところが多すぎる。説明をしようと思うとどれだけ時間があっても足りないので、少しずつ小出しにしたいと思う。


 さて。


 村で一夜を過ごした俺は、朝からカスミの剣術の稽古に付き合っていた。

 農場の方は作物の植え付けは終わっているので、今日は水やりだけでいい状態で時間が余っていたのだ。


 だから、初日でやる気に満ちあふれたカスミに付き合うのも悪くない。


「剣の握り方はもっと柔らかく。力任せに握ると体の動きまで固くなるぞ」

「こんな感じでいい?」

「どれどれ」


 俺は剣を握りしめたカスミの手に触れる。

 

「ひゃっ」

「もう少し。気持ち程度、軽めにだな。指で握り込むというより挟むイメージの方がいいだろう」


 急な接触に驚いているカスミの反応を無視して、アドバイスを続ける。


「こう?」

「いい感じだな。じゃあ、それで素振りをしてみよう。まずは切りおろしから」


 振りかぶる位置、振り下ろして止める位置などを詳しく教えていく。

 基本は大事だ。


「振り下ろした後は、剣を静止させること。勢いがつきすぎて、体が流れてはダメだ」


 ちゅんちゅんと雀の鳴く声がする。

 案山子を設置するのを忘れて、畑に植えた種が掘り返されてしまったことを思い出したりなんかする。


「うん、その調子で、あと二十回振ってみな」


 カスミの運動神経は存外悪くない。

 鍛錬をさせすぎると翌日は筋肉痛でえらいことになるだろうが、多少は疲れが残る程度までやらないと練習にはならない。


 カスミの練習を見ながら、俺も自分用の木剣を振ってみる。

 体幹のブレが起きないように意識しながら、何度か剣を振り下ろす。

 次第にスピードを上げて、カスミより早く二十回の素振りを終えた。 


 まあ……悪くないか。


 この手の長剣を使用した剣術は専門ではないのだが、初心者の講師になるには十分なぐらいの出来だろう。


「よし、休憩だ」


 俺は家のほうに戻り、やかんで作った麦茶を持ってきた。

 戻ってきた時には、カスミは近くにあった切り株に座り込んでいた。短い練習でも疲れたのだろう。


「ほら」

「あ、ありがとう……」


 ブリキのカップを片方手渡し、麦茶を注いでやる。

 体が冷えすぎないように、麦茶は常温だ。


「んっ」


 カスミは麦茶を小さく喉を鳴らして飲み下していく。

 俺も自分の分を飲んだ。


「一週間だな」

「……?」


 そう告げる。

 何を言われたのか分からなかったのだろう、カスミは動きを止めてこちらを見た。

 

「体の動かし方を覚えたら、七日後にダンジョンに行ってみよう」

「……いいの?」


 そんなに早く? という感じの瞳でカスミが聞き返してきた。

 俺は首肯した。


 現代日本のダンジョン探索者を基準に考えると、一週間という期間は別に短くはない。許可証ライセンス取得のための短期講習が、まさに一週間だからだ。

 ただし、一週間のカリキュラムで、実技と座学の合計で毎日八時間はある。


 俺はカスミにそこまでの長時間講習をするつもりはなかった。

 自分がつきっきりになるのもある。何かあっても俺がなんとかすればいい、という前提でなら、50時間以上もの講習は不要だ。


 それでも、体の動かし方だけ覚えてもらうのは絶対条件だったが。


「俺と一緒にダンジョンに行くんなら大丈夫だろ」

「もちろん一緒だよ」


 カスミの表情が輝いている。

 

「ただ、毎日は教えられないと思うから……七日じゃなくて十日後ぐらいになるかもしれんが、それでいいか?」

「うん、いいよ」


 こくこくと頷く。


「よし、ならもう一度素振りだ。今度は横振りで二十回やるぞ」

「うぇ……」


 カスミの口から悲鳴が漏れる。

 まぁ、あんまりポジティブになられすぎるのもね? 鍛錬は大事だよ。


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