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第17話 俺だけ企む魔法使いへの道


 肩身がせまい。


 今の俺は、周囲を原色のあふれる壁と、シックな木製の床に囲まれていた。


 あたりにはお洒落なテーブルや椅子が並べられていて、その間を可愛らしい制服を着た女性の店員が行き来している。

 店内には、多数の若い女性。少女と言っていい年代の子も多い。


 彼女たちは、鳥がさえずるように、楽しく、そして、多少けたたましい程度に、元気なおしゃべりをしている。


 男女比率のバランスがきわめて悪い。

 そんな、小洒落たスイーツショップに俺はいた。


「リトドラさんは何にします?」

「えっと……ここに書いてるパンケーキでいいよ」


 アオに促されて、メニューを指さしてそう言った。

 正直、何でも良かった。早くこの空間から抜け出したい。


 手にしたグラスから水を煽る。緊張で喉が渇いているせいか、もう飲み干してしまった。


「すみませーん!」


 アオが店員を呼び止める。

 俺はそっと目をそらす。


「ふわふわミックスフルーツパンケーキと、ふわふわパンケーキのプレーンを一つずつ」


 視線はテーブルの上に固定。

 何でこんな年齢の男がこの店にいるんだ? と思われないように気配を消す。隠密スキルが使えればいいのに。


「それに……アイスコーヒーでいいですか?」


 俺は頷く。もちろん何でも構わない。


「じゃあ、アイスコーヒーを二つで」

「承りました」


 店員が注文を復唱する声がどこか遠く聞こえる。


「リトドラさん、どうしたんですか?」

「いや、なんていうか……場違いだなって」


 そんなことないですよ、とアオは笑ったが、確実にそんなことはあると思う。


 こういうスイーツのお店は、女向けだと思う。

 少なくとも、三十前後の男にはなかなかハードルが高い場所だ。


 実際、男は店内に数えるほどしかいない。

 居心地が悪い。


 俺が縮こまっているのが面白いのか、アオはさっきからずっと笑顔だ。

 そんなアオがちょっと憎らしくもある。

 

「それで、相談の件なんですけど」

「ああ」


 ダンジョンの外では敬語に戻っているな、と今さら気づいた。

 アオにとっては俺と話すときはこの喋り方の方が自然なのかもしれない。


「魔法の先生をして欲しいって言ってましたよね? もう少し詳しく聞かせてください」 


 そう。俺がこうしてダンジョンの外でアオと会っているのにはわけがあった。


 事情は昨日ラインで前もって簡単な説明はしてあった。が、顔を合わせて話したいということで、予定していたコラボ配信の前に渋谷のスイーツショップで集まることになったわけだ。


「ああ、俺の……教え子みたいな子がいてな。その子に教えて欲しいんだ」


 教え子、というのはもちろんカスミのことだ。

 なんと言おうか一瞬迷ってしまった。先に考えておくべきだった。

 俺は唇を湿らせると言葉を継いだ。

 

「その子に、魔法の適性があるかどうかがまだ分かってないんだ。俺には魔法のセンスがないんでな。その辺の見極めをしてやることはできないし……」


 ふうん、という顔でアオがこちらをみている。

 こういう相談をされたことは今までにないのだろうか。


「センスがあるかどうかの判定で、迷宮管理局の講師を依頼するのもちょっと、懐の問題があって……」


 本当の問題は、カスミがダンジョンの村に住んでいて、日本の国籍がないことだ。国の機関である迷宮管理局に依頼するには、免許証とかマイナンバーカードなどの身分証が必要なのだが、提出は無理だった。

 だが、その辺の事情はアオにも言えないので、金の問題ということにした。


「あー、そういうことですか……なんていうか」


 アオが言葉を濁した。


「ケチですね」


 俺は項垂れた。何だか悲しい。

 しかし本当の事情を話すわけにもいかないのだ。


「いやまあ……そこを何とかならないか?」

「別に構いませんけど、私、魔法はそんなに上手くないですよ? 人に教えられるほどかどうかはわかりません」

「あー、いや、魔法のセンスがあるかどうかまず分かればそれでいいかな。本格的な教師は別に考えるよ。俺と同じでセンスなしかもしれないし」

「それだけならまぁ……ちなみに、どんな人ですか、その教え子さんって」


 俺はどう言おうか悩んだ。

 

「ええと、髪の色が銀色で。性別は女で、背丈は……アオちゃんよりはちょっと高いかな。あと、」


 胸も……などと言ったらセクハラになるので慌てて止めた。危ない。


「あと、目が茶色い」

「えっと、見た目だけ言われても……」


 見た目以外は説明が難しいんだ。ダンジョンと繋がっている村の住人だ、などとは言えないし。


「姉妹で二人暮らし、とかかなあ」

「ってか、リトドラさんとの関係を話してくださいよ」

「あー、なるほど。ええっと……そうだな、妹分ってところだ。血が繋がってるとかじゃなくて、あくまで妹っぽいって感じ」


 そう言うと、アオはにへらっとした笑みを浮かべた。


「彼女さんだったりします?」


 やれやれ。女子高校生らしいというか何というか。

 今のアオの年頃が、恋愛にもっとも興味がある頃だろうか。


「違うよ。そんなんじゃないって」


 俺は苦笑するしかない。


「えー違うんですか?」

「考えたこともなかったな。あいつは……」


 カスミの過去のセリフが思い浮かんだ。


 ——シリュウのね、力になりたいの。


 うん。まぁ……。


「妹みたいなもんだよ、多分」

 

 カスミ自身の気持ちはちょっとわからないな。

 まあそれはおいといて。


「それでどうなんだ? 教えてもらえるか」


 ずっ、とテーブルに半身を乗り出して聞く。


 それで、アオも表情を改めた。


「私でいいなら、別にいいですよ。ちゃんと教えられるかは正直自信があんまりないけれど……」

「それで構わない。じゃあ、また今度のときに、カスミを連れてくるからよろしくな」

「カスミさんって言うんですね」

「あれ? 言ってなかったか」

「初めて聞きましたよ」


 名前すら伝えてなかったとは思わなかった。

 くすくすと笑うアオの前で俺はバツの悪い表情を浮かべることになる。どうも会話の段取りが悪いのは、こういう頼みごとの経験が足りないせいか。 

 まあ、どうでもいいことか。


「そっか。まあ、今度紹介するから、詳しいことはそのときにな。で……今日は2階を回りたいんだっけか?」

「そうですね。配信の段取りとしては……」


 カスミの魔法修行の一件を片付けて、今日の探索の打ち合わせに入る。最近では、配信前の打ち合わせというものにも少し慣れてきた。


 俺の配信の数字も少しずつ成長している。


 配信そのものが上手くなったという実感はないが、アオとのコラボ効果が出ているのか、登録者は三千人を超えた。

 ただ、同接はコラボ時以外はあまり変わっていない。


 同接の伸び悩みの原因は、最近あまり個人の配信ができていないせいかもしれない。アオによれば、配信頻度は高いほどいいのだそうだ。


 配信も奥が深い。

 最近は何ともやることが多くて大変なのである。 


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