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第16話 俺だけ全力探索する日もたまには必要で


 今日は、アオもカスミも連れていない、単独行ソロのダンジョン探索だ。


 近頃はどちらかを伴うことが増えていた。

 配信の指南を受けるためにアオと、ダンジョン探索の基本を教えるためにカスミと。まあ、アオとの探索の際は、その前にソロで軽く稼いでいる場合も多いのだが。


 問題は初心者のカスミとの探索で、村からダンジョンに移動してカスミを連れ帰るというルーチンになっている関係で、ソロを先にやってから、とか、後でソロをやって、という流れにはならない。


 ん?


 別に先にカスミを帰してからソロ探索すればいいのか。

 でもそれだと反省会ができないなあ。


 ともあれ、ソロでの探索が減っているので、俺の稼ぎに悪影響を及ぼしているわけだ。

 俺の収入源は、ダンジョン探索から得られるものが中心で、配信収益はみそっかす。村での農業活動が新しい収益源として発生しているのだが、こちらも農場を大きく広げられていないので、家庭菜園よりはマシといった程度だ。


 つまり、金が目減りしてしまう。


 というわけで、今日はソロで全力でダンジョンを回る予定だった。


 今日は配信もつけない。やはり、配信しながらだとどうしても気が紛れてしまうので、安全マージンが低くなる。ドローンの飛翔ですらノイズになる。

 本気のダンジョン探索の時は配信はしないほうがいい。


 そう思いながら、目的の5階に降りた。

 この階層ぐらいから、底冷えのようなものを感じるようになる。

 ダンジョンというものは本質的に人類を拒否しているんだと、そんな錯覚——いや、錯覚ではないのかもしれない——を覚える。


 呼気が白くなるほどの冷たい空気に対応するため、襟元を持ち上げて口にかぶせて歩き出す。


 敵感知スキルをいつもより念入りに回す。安定した稼ぎが行えるはずのこの階層ではあるが、急な接敵だけは避けたい。


 感あり。

 右手の角を曲がったところに、敵が1体いる。

 そのサイズ感と姿勢からして二足歩行の人型のモンスターだ。


 俺は歩みを止めずに、腰に差した二刀を抜く。

 この階層で効率よく稼ぐためには、斥候の真似事をしてショートソードで戦うのは効率が悪い。現在の一番の得手である小太刀の二刀流を使うと決めていた。


 はたして、通りの角の先には一体の上半身裸のモンスターがいた。肌が青色の修行僧のようにも見える佇まいの化け物は、ライフスティーラーと呼ばれている。


 こちらの生気を吸い取る攻撃をしてくるモンスターだ。

 角を曲がった時点で敵はこちらに気づいている。戦闘を回避することはできないし、するつもりもなかった。


 俺は小走りに駆ける。

 敵が身構え、こちらに向けて戦闘姿勢を取る。想定の範囲内の動きだ。

 そのままのペースで接触。


 相手の突き出した腕を左手の小太刀の峰で払いのけながら、隙のできた首元に右の小太刀を突き立てるように刺して、すぐさま薙ぐ。


 ただの生物の肉にしては硬い皮膚はしかし、俺の刀を食い止めるほどの強靭さはなく。一撃で首が飛んだ。


「一体目」


 俺は止まっていた呼吸を再開する。

 右手の小太刀を振り、ついた血潮を飛ばす。


 これで戦闘は終わり。

 面倒なのは後始末で、武器を収めて、作業用の短刀を取り出して魔石を剥ぎ取らなければならない。

 俺はため息をついた。


 ◇


 ところで、ここで一つ説明しておきたいことがある。

 ダンジョン内でのクラス——職種は曖昧なものなんだ。


 例えば、アオが魔術師と剣士の経験があるように、俺にも剣士と斥候の経験があるわけだが。

 これらは特に認定されているものではない。

 ダンジョンに入るための許可証に職種、剣士などと書かれているわけではないのである。


 まず、前にも言ったと思うが、現代日本でダンジョンに入るためには迷宮探索の許可証が必要である。これは国民の安全のために、という名目があって、義務として短期講習を受ける必要がある。

 ただ、ここで学べることはあくまでも基礎で、武器の扱い方と、ダンジョン内で行動するための基本的な知識程度。

 剣士としての剣術だとか、魔術師としての魔法の使い方とか、斥候としての探索・罠解除の技術を学べるわけではない。


 ではどうやって魔術師のような職になるかというと。


 いくつかのルートがあるのだが、もっとも一般的な方法というか、推奨されているやり方としては、迷宮管理局に所定のお金を払って、ダンジョン内で講師による訓練を受ける、というものだ。


 そうだな。自動車の路上教習のような感じといえばわかりやすいだろうか。


 結局のところスキルの多くはダンジョン内でしか使えないのだから、ダンジョン内での実施で学ぶことになる。


 ただ、これも訓練期間や仕上がりの状況は曖昧だ。

 ある程度スキルを覚えたら、それで終了してもいいし、もっと学んでもいい。受講する側の金と根気次第なところがある。


 最終的に、どうやって自分を魔術師と称するかといえば、これはもうただの自称にすぎない。つまり、探索者間で当たり前のように用語として使われている「クラス」という概念は、めちゃくちゃ曖昧なものなのである。


 そもそも現代に魔術師とかがあるわけがないし。


 だから、国の機関である迷宮管理局が、あなたは魔術師です、などと認定をしてくれるはずもない。

 なお、例で魔術師と言っているが、これは剣士でも斥候でも同じことなので注意。


 迷宮管理局の講師に教わる以外のルートとしては、先輩探索者から教わるとか、ぶっちゃけ自力でなんとかするとかもある。


 剣士なんかは講師なしの自己勝手流がわりと多い。一方で、魔術師は色んな人に教えを受けている場面を目にすることもあるな。


 なんでこの話をしたのかと言うと。


 正直に話そう。

 俺のクラスは斥候ではない。


 びっくりした? まあ今まで言ってなかったしな。


 なんだかよく分からないのだが、ダンジョン内で発見した蝶の形をしたナイフを触っていたら、新しい戦闘方法を覚えたのである。


 何を言っているかよく分からないと思うが、俺にもよくわからない。

 まれに新しい魔法を覚えるアーティファクトが存在しているというが、多分それよりもっとレアなやつだったと思う。

 ちなみに、ナイフは消滅した。俺がナイフに触れて、新しい戦闘方法に目覚めたのと同時にボロボロに崩れてしまったのだ。

 うーん、アーティファクトって不思議。


 ということで。

 今の俺のクラスが何かといえば——

 正直、よく分からん。


 クラス不明である。


 斥候としての探索スキルは保持したまま、剣士のように戦えるというか、もっと身軽な戦闘ができるようになった。投げナイフとかもそうだし。何気に敵の首を刎ねるのが上手くなったのもある。あと、敵の攻撃の回避が格段に上手くなった。

 新しい戦い方に慣れるまではそうでもなかったけどな。


 これについて、昔、とある先輩に相談したことがあるのだが、その人の答えはこうだった。


 ——細かいことにこだわっちゃあいけないよ。

 

 なんともいい加減なひどい話だが——まあ元々いい加減な人なんだが。 

 今では、俺もそう思っている。

 特に困らないし、別にいいか、と。


 さあ、今日の探索を頑張ろう。

  


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