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第14話 俺だけ受ける配信指南と


 結局、俺は決断することにした。

 アオのプロデュースのことだ。


 先日のコラボ配信で、JKの人気配信者のアオは、俺の配信をプロデュースしてあげると言っていた。


 のるかそるか迷う提案だとあの時は思ったのだが。


 配信のコツを教えてもらって損することって特にないよな?

 と気づいたわけだ。


 それに、もう一つのメリットがある。

 アオのプロデュースで配信者として人気を出せるようになれば、それで得られた収益で現代文明の利器——つまり、農業用の機材や工具を買えるようになるわけだ。あれだけ苦戦した切り株掘りや岩の切り出しを簡単することができる可能性がある。

 まあ得られる金銭次第だけど。


 というような、実に生臭い理由によって俺はアオのプロデュースを受けることにしたのである。


「まずは、耐久配信から始めるといいと思う」

「耐久配信だって?」


 アオは、プロデューサーになって……といっても、自称プロデューサーにすぎないのだが、俺に対して敬語を使うのを止めだした。

 元々JKで気軽に話すのが自然だった彼女的には、敬語で話すのはしんどかったようで。俺自身、そこまで敬語だとか年齢の違いだとかは意識したくなかったので、これについては歓迎だった。


「ええと……あれか、スライムを百匹倒すまで帰れません! みたいな」

「そうそう。配信の企画としては定番の一つだからねー。安定して勝てる敵相手なら、あとは根気と体力の勝負だから、リトドラさんでもできそうかなって」

「ふーん」


 ちょっと考えてみたが、特に難しいことはなさそうだ。

 試してみてもいいかなあ。


:基本やね

:安定の企画ではある

:誰もが一度は通る道


 実は今日もコラボ配信だ。

 アオちゃんねる——これはアオの配信チャンネル名のこと——での配信のタイトルは「【コラボ企画】リトドラさんに配信のいろはを教えちゃう回!」となっている。


 完全に配信の素人扱いされているが、俺としては何も言えない。


 ちなみにだが、今日の配信は探索を目的としていないので、今はダンジョン内の小部屋で野営をしている。

 野営中と言っても特にテントを張ったりするわけではなく、たき火を燃やして、モンスター避けの香木を焚いている。

 香木はダンジョン産のアーティファクトで、これを燃やしている間は低階層のモンスターはまずやってこない。なので、スマートフォンを片手にコメント欄をずっと眺めていても敵に邪魔されることもない。


 なお自分も配信はつけているのだが、コラボ効果で視聴者数がすごい。出入りが激しくて数字が安定しないが、数百人はいる。


「でも、スライム百匹も倒してたら匂いが服についてすごいことになりそうだなあ……」


 スティンキースライムは文字通り、臭いスライムだ。ドブのような匂いというか、すえた腐敗臭というか、とにかくひどい匂いがする。

 一匹や二匹ならいいが、百匹倒し続けるまで戦闘すると鼻がおかしくなるかも……いや、きっとなるだろう。


「え、違うよ? リトドラさんの場合はスライムなんかじゃダメだよ」

「ん?」

「スライム百匹企画が面白いのは、初心者の配信者がひーひー言いながらやるからだよ? 倒してもただ臭かったな、匂いがしんどいな、じゃあネタにならないじゃん」

「それもそうか……いや、じゃあ俺はどうすればいいんだ?」


 ネタにならないという視点はなかったが、言わんとすることはわかった。確かに、今の俺がやってもただの作業ではある。

 

「いつも三階をメインに配信してるんでしょ? だったら三階の敵じゃないとね。キングコブラ100体倒すまでやめれまてん、はどう?」

「毒になるわ!」


 キングコブラの特殊攻撃は毒だ。百匹も相手をしているうちに一度も攻撃を喰らわないなら別だが、何発か喰らってるうちに毒状態を付与されるのは避けられないだろう。


:えぐい

:アオちゃん地味にぐう畜だよな

:三層の敵で100体チャレンジするやつ普通おらんだろ


 コメント欄だって否定的なのだが、アオとしてはそうじゃないらしく。


「だから面白いんじゃない。毒回復のポーション持ってればヘーキヘーキ」

「ええ……?」


 確かに毒状態はポーションで回復することができるのだが、自分から毒を喰らっていく想定でやりたくもない。


「それぐらいやらないと数字は取れないよ?」


:配信者魂やね

:数字のことに触れるアオちゃん珍しい

:そういう企画だから


「あのさ……アオちゃんはそういうの実際にやってるわけ?」


 思わず半眼になって俺は聞いてみた。すると。


「スライム100体倒さないと帰れませんは、まだ有名になる前の頃にやったよー。臭い液で全身ねちゃねちゃになって二日は匂い取れませんでした。当然学校はサボり。最悪だったー」

「あ、そう……」


:とても……ご褒美です

:リアタイしたかった

:変態がいるぞ

:ねちょねちょアオちゃんすこ

:ブロックされるぞやめとけ


 配信者って体張ってんなぁ!

 コメント欄は盛り上がっていたが、まだ高校すら出ていない女の子のすることじゃないと思う。いやマジで。

 

「配信者って大変だねぇ」

 

 俺の正直な感想がこれだった。

 配信者をちょっと舐めていたかもしれないと反省しつつ。


「ちなみに、企画ってどんなのがあるの?」

「企画は星の数ほどありますよ。リトドラさんが何かを思いつけば、それが企画になるんです。参考までに……私が最近やってみたのは『安価で指定された敵を倒します』と『ステゴロでダンジョン潜ってみました』と『1グループの敵を全員寝かしつけられるかチャレンジ』ですね」

「ほうほう……ん?」


:アオちゃんは企画の天才だからな

:どこかで見たようなことがある企画なのは言ってはいけない

:面白ければオッケーです

 

 俺は気になったことを聞いた。


「アオちゃんって……魔法も使えるんだ?」


 そう思ったのは、彼女の『1グループの敵を全員寝かしつけられるかチャレンジ』という発言がそれを指し示していたからである。

 敵を眠らせる魔法は、魔術師の持つ魔法スキルに存在しているものだ。

 同じ効果を持つアーティファクトの特殊能力もないわけではないが。


「あ、できますよ。私、今のクラスになる前は魔術師をやってたので」

「へえーすごいじゃん。俺は魔法の適性なかったんだよね。やってみたけど全然うんともすんとも言わなかった」


 俺が言うと、アオは照れたような表情になった。


「子供の頃は魔法少女に憧れてたんです……黒歴史ってやつで、へへ」


:魔法少女アオちゃん

:魔術師時代のアーカイブも残ってるよな

:初級魔術はコンプしたよね

:今の剣士アオちゃんもかわいいぞ


 俺の配信に来ているのはアオのリスナーが多いようで、アオの当時の話をコメントしてくれていた。


「なるほどなあ……それで魔術師から剣士になったんだ。きっかけは何で?」

「知ってるとは思いますけど。魔術師はやっぱり後衛職なので、前衛がいないと厳しくて。パーティーを組んだりもしてたんだけど、タイミングを合わせないと配信ができないので、その辺の自由度ですね」


 もっと配信がやりたくて。

 そういう彼女は確かに配信者だった。俺とは違って。


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