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第13話 俺だけ農作業でまったりと


 結論から言えば転送石はうまく機能した。

 カスミに先に使わせて、後から俺が転送石を使ったら、二人とも同じ場所に出たのだ。

 もし、カスミがどっか違う場所にワープしていたら、と思うとぞっとするが、ハズレ転送石の特性からして元の場所に出ることはあっても違う場所に出ることはないはずだと踏んでいた。

 ちょっとした賭けではあったが、賭けに勝ったのでよしとする。


 まあ、本音を言うと、本編のはずのダンジョン探索なんかよりよっぽど怖かったね。意味不明なアーティファクトに頼ることの恐ろしさだ。

 

 さて。


 そんなこんなで今日の俺は朝から農作業に勤しんでいる。正確に言えば、農作業の前段階の開墾だ。


 俺が住むことになった農場はもともとこの村のもので、所有者がいなくなって放置されていたスペースだ。

 なので、畑というか農場全体が荒れ放題だった。


 どうしてそうなったのか、正直自分にはよくわからないところもあるのだが。

 農場内の空きスペースにカエデやオーク、それにマツの木といった樹木が立ち並んでいたり、巨大な切り株があったり。

 岩や岩石の塊のような、とても農地にふさわしいとは言えないような障害物まである始末。


 俺は、それらの余計なものを少しずつ開墾していった。

 それで、このひと月の間に、まず小さな畑を作るだけのスペースを確保したわけだが、農場全体のスペースのうち、3分の2ほどはまだ荒地のままだった。


 いずれ手をつけようと思っていたが、なかなか手を回すことができていなかったわけだ。

 そして今日。

 ようやくひと段落ついたので、これまで手をつけていなかった農場の開墾作業を行うことにしたのだ。


 と言っても、開墾作業はとにかく地味である。

 大きな切り株の周りを一生懸命スコップで掘り起こし、深く張った木の根を露出させ、切り株の根元にロープをかけて引き抜く。


 体力勝負で地道な作業だ。

 たった一つの切り株の除去に二、三時間かかることも珍しくはない。


 朝から昼まで作業を続けて、いくつかの岩と一つの切り株の除去に成功しただけで、これからの全体の作業量を考えると気が遠くなる思いだった。


 このまま続けるより、重機の採用も検討した方がいいかもしれない。

 村の商店か、あるいは村長あたりに相談してみるべきか。


 俺は額の汗を拭いながら、そんなことを考えた。

 

 そろそろ昼時だ。

 昼の支度はしていないので、村に一軒だけある食堂に繰り出すことにする。


 ところで。

 俺はこの村のことをずっと村と呼んでいるが、商店や食堂、それにスーパーまであることを考えると、本当は町と呼ぶのが適切なのかもしれない。


 現代日本の都会人である俺からしたら、とても町という感じはしないので、村と呼んでいるし、今後も呼び方を改めるつもりはなかったが。


 食堂にはヒゲおやじの店主と、若い女のホールスタッフが一人ずついた。

 店内にはすでに数組の来客がいる。

 村に一軒しかない食堂だからか、住民にとっての外食といえばここになる。


 俺はカウンターに向かった。


「あら、珍しい」

「今日はちょっとね」


 スタッフにそんなふうに声をかけられて、俺は軽く答える。

 最近、俺がこの店を利用する場合は、夕方以降に酒を飲みに訪れることが多い。ランチタイムに訪れることはあまりないのだ。


「今日のランチは特製オムレツだ。それに、悪いが、白身魚のフライは今日は材料の入荷がなくてね、それ以外はあるよ」


 続いて、店主が渋いバリトンボイスで言う。


 日本とは文化が異なっているはずのダンジョンの村でも、料理店としての本質には大きな違いがない。


 異なっているのは、現代のファミレスのようにシステマチックになっていないことだ。


 店内のスタッフはPOS端末を持っていないし、座席番号を表示するモニターもない。なんなら座席番号という仕組み自体が存在しない。

 当然のように、店員を呼ぶチャイムも存在しない。アナログ式の押すタイプのベルですらないのだ。

 

 イメージ的に近いのは、少し古めの時代を扱った、アメリカのドラマ番組で見ることのできる道路脇のダイナーだろうか。


 スタッフや店主とのやりとりはアナログだ。


 俺は今日のランチを食べることに決め、スタッフの子を呼び留めて注文する。ちなみに清算は後払い。

 一緒に注文したコーヒーを、彼女がポットからカップに注いでくれた。


 カップを口に運んで息を吹きかけて冷ます。

 コーヒーは熱ければ熱いほどいいなどと言う声もあるようだが、俺はちょっと猫舌気味なところがあるので、よく冷まさないと飲めない。

 ほどよく冷めた頃を見計らって飲む。うん、うまい。


 コーヒーの味の違いはさほどよく分からないが、コンビニやファーストフード店のものと比較すると入れ方が違うのか、深い味わいがするような気がした。

 あくまでも気がした程度だけど。


 店内にはラジオの音が流れている。それに、村の住人たちの話し声。店主が調理に勤しんでいるので、フライパンで何かを焼いている音もする。

 空気そのものは日本のカフェに近いだろうか。


 朝からの労働でいい感じの疲労を覚えた体に、ゆったりとした時間の流れが染み込んでくるようだ。

 確かに生きているという実感。


 この時間は、コンビニで済ませる自宅の食事と比べれば遥かにいいものだった。


 しかし。

 それはそれとして、農場の開墾作業があまりにもチンタラして進む未来が見えないのが気になる。

 開墾の効率化について、何か策を考えた方がいいな……。


 

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