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第12話 俺だけ連れられるお供とダンジョンへ


 カスミをダンジョンに連れていくことにした。

 剣術の訓練が始まってからまだあまり経っていない。実際、五日ぐらいしか教えていないので、約束していた七日の訓練期間になるのはまだ先のことだった。


 しかし、十分だと判断した。

 カスミは物覚えは悪くないし、何より、ダンジョンの一階ぐらいならさほどの危険はないのだ。先日のアオと一緒に行ったコラボ配信が影響しているとも言える。

 一階なんて雑魚しかいないのだ。敵が多くても俺が一掃すればいいだけの話だった。


 鍛錬のネタが尽きたとか、飽きたわけではないのだ。

 いやほんとだよ。


 でもまあ結局のところ、ダンジョンなんて場数慣れが一番重要だし、カスミにやる気があるのはちゃんと確認している。

 ちょっと練習して萎えるようならやめておいたさ。


「よし。準備はいいな?」

「は、はい」


 俺がそんなふうに考えていることはカスミには話していなかった。

 だからか、声だけで緊張しているのが分かる。


「緊張してると力が出せないぞ」

「ぁう」


 肩の力が抜けていないのはまずいので、俺はカスミの肩をぽんぽんと軽く叩いた。

 だが、それが変な緊張を呼び起こしたようで、カスミはより一層身体を固くしている。仕方ないので、強張っている肩を揉む。


「ひゃう」


 力が抜けた。いい感じだ。


「いいか、これから俺たちはまず一階に向かう。そこには色んな探索者が訪れているはずだから、驚かないようにな。人が多いから、通路にモンスターはほとんどいないのも覚えておくといい。実際の戦闘は小部屋に入ってからになると思う。……まあ直前にまた声をかけるよ」


 アオを見習って、今日の探索の予定を伝えておく。

 初めてのダンジョン探索だから、予定がある方がわかりやすいだろう。


「じゃあ行くぞ」


 俺はカスミを先導して昇降機に乗った。

 微振動しながら降りていく昇降機の中で、カスミと目が合う。不安そうにしている。


「大丈夫だ。俺がいる」

「う、うん……何かあっても守ってね」


 俺は口の端を笑いの形に釣り上げて、頷いた。

 昇降機が止まり、階下に降りる。

 と。


 俺たちの後ろで、いつものように昇降機へ続く扉が消えた。


「……あ」

「な、何?」


 やべえ、忘れてた。

 扉のあった場所を触れるが、そこにはもう何もない。岩の壁だ。


「これって……元に戻れないの?」

「ま、まあなんとかなるだろう。ははは」


 俺は、村からダンジョンに出ると、壁が消えることを完全に忘れていたのだ。ちょっと探索して、一回二回ほど戦闘したらカスミを連れ帰るつもりでいたのに。

 どうすればいいのか。

 転送石を使う手段があるわけだが、カスミがそれで村に戻れるのかどうかなんとも言えない。多分大丈夫なはずだが。


 ……まあ、最悪は、家まで戻ればいいのか。

 自室に戻れば村に続いているダンジョンゲートがある。最悪の場合でも、それを使ってカスミを村に連れ帰ることはできる。ならば問題はない。


「大丈夫だ。村に帰る手段はあるから」

「本当に?」


 ちょっとカスミの視線が痛かったが。


 気分を切り替えて、俺はカスミを連れてダンジョンを歩いた。銀髪の女の存在は、多少人目を引くようだった。

 時々視線を感じる。

 とはいえ、日本人でも髪を染めてる人なんて珍しくもないわけで、過剰に意識をする必要はなかった。


「よし、部屋に入るぞ。部屋の中にはモンスターがいる確率が高いから、敵が来たら戦闘になる」

「う、うん」

「心配するな。基本はもう教えたし、この階層には強い敵はいないからな……入るぞ」


 俺が先導して、カスミをダンジョン内の小部屋に連れていく。

 洞窟の通路の先を進むと、半球状にくり抜かれたちょっとしたホールのような場所に出る。ここが通称「小部屋」だ。ダンジョンにはこのようなちょっと広い部屋がたくさんあるんだ。


 そして、想定通り、そこにはモンスターがいた。

 ゾンビが2体。

 数はちょうど良かったが、初心者向けの敵としてはいまいちだった。麻痺攻撃を持っているので、回避しそこねて引っ掻かれると危険だ。

 だが、万が一の場合も俺がカバーできるので問題はない。


「ゾンビだな。俺は右のを片付けるから、左のを任せた」

「あれがゾンビ……」


 時間をかけたくなかったので、俺が先行して突っ込んだ。

 ゾンビ相手に手間取るような俺ではない。

 対面して真っ向から切り伏せると、後ろのカスミを振り向いた。


「や、やあー!」

 

 腰が引けている。

 初の実戦だからしょうがないことだが、自分を守ろうという意識が強すぎて、教えたはずの剣の使い方ができていない。


「あっ」


 手打ちで切り掛かった代償に、カスミの剣がゾンビの肩口で止まった。体重を乗せてない一撃なので切り伏せるには至らなかったのだ。

 だが、次の判断は良かった。

 カスミはゾンビに刺さったままの剣を放棄して、後ろに下がった。

 そのため、素手で攻撃してきたゾンビの大ぶりの掴み掛かり攻撃を回避できてはいる。


「ど、どうすれば」


 武器のなくなったカスミが狼狽えてこっちを見る。

 敵と戦っている最中に、十分な間合いを取らずに他の場所を見るのは危険な行いだった。これは減点だ。


「ダガーを使え!」


 俺はカスミにアドバイスする。

 ダンジョンの探索中は、複数の武器を身につけるのが基本だ。武器は消耗品なので、いざというときに使えなくなっていることがあるからだ。

 今回もその例に漏れない。

 まあ、代わりに倒してやってもいいのだが、まだ早いと踏んだ。


 まごつきながらもカスミは肩に付けたベルトの鞘から短剣を抜き放った。腰だめに構える。

 女がナイフを腰だめで握っている図は修羅場のシーンを想起させて、少々おっかない。


 さて。

 俺はカスミの動きをよく見ることにした。

 当然だが、短剣のリーチは短い。つまり、攻撃の際、相手の懐に入らなくてはならない、ということだ。反撃を喰らう可能性も上がる。

 本当に危なそうなら割って入らなければならないが。


 と。

 俺が見守る中、カスミは正面から突っ込むのではなく、ゾンビの右手に回った。いいぞ。

 次の瞬間、カスミが斬りかかる。

 狙いは一撃目を当て、未だ剣が食い込んだままの肩口のようだ。ゾンビからすると食い込んだ剣が邪魔になり、カスミを捉えられない。悪くはない判断だった。


「やあっ」


 二撃目がゾンビに当たる。

 今度は短剣をしっかり握っていたようで、引き抜く動作まで一連で行っていた。うん。学びがある。

 だが、ゾンビに新たな傷を負わせたものの決定打にはならなかった。

 短剣で負わせられる傷は大きなものにはならない。今のカスミの技術では仕方のないところだった。


「下がって離れろっ」


 俺のコールにカスミが従う。

 即座とはいかなかったが、十分な判断だ。


 今回はまあこんなもんでよしとするか。次はもっと上手くやれるだろう。

 

 そうして、俺が投げたナイフがゾンビの額を貫いた。


 ◇


 戦闘が終わり、死体からの魔石の剥ぎ取り方法を教えることにした。


「うえっ」


 敵がゾンビなこともあって、周囲には腐臭が漂っている。それに閉口しながら、カスミは短剣でゾンビの胸に埋まった魔石をくり抜いていった。


「まあこれも慣れだな……。さっきも言ったけど、初めての戦闘にしては上出来だったよ」


 カスミはどうも落ち込んでるらしい。

 俺は慰めの声をかけてやった。


「でも……手助けしてもらったし」

「そうだなあ。最初の剣の手打ちが不味かったな、体重の乗った一撃ならあれで終わってたよ。まぁ、次はうまくやればいいさ」


 カスミが取り外した魔石を手渡してきたので、それを受け取りつつ俺はそう言った。


「うん、次は、うまくやる」

「その意気だ」


 魔石をポーチに収める。

 得られた収入は後でカスミと折半しよう。俺がそう考えていると。

 カスミはため息をついた。


「私、シリュウの相棒になりたいよ」

「いつかなれるさ」

「それじゃ駄目。今……は無理でも、なるべく早くなりたい」


 床に落ちた剣を拾いながら、カスミは俺を銀髪の下から見た。

 唇がとんがっている。


「そんなに焦ることはない、まだ初心者なんだから」

「私がのんびりしてたら、シリュウはアオちゃんって人と一緒に冒険するよね?」

「まあ……」


 アオからは配信について学ぶべきことがある。

 だから確かに、アオと探索する未来はあるだろう。だが、別にアオを相棒にするわけではない。それについてはカスミも同じだったが。

 結局、俺はソロ探索者なのだ。相棒は必要としていない。


「それじゃ駄目なの」


 カスミがつぶやく声は、俺の耳には入らなかった。


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