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第11話 俺だけ気合いの入った料理で


 今日の俺は村に来ていた。

 ダンジョン探索が早めに終わったおかげで余った時間があるので、料理をしようと思う。


 冷蔵庫から牛すじ肉のブロックを取り出す。近くの農場から分けてもらった質のいいものだ。もらってばかりでは悪いので、今度、うちの農場で採れた卵でも贈ろうかと思う。

 肉の下拵えとして、ボウルに牛すじを入れて、流水で血を丁寧に洗い流す。

 水道の蛇口から流れる流水が冷たくて心地よい。


 洗い終わった牛すじ肉を、水を張った寸胴鍋に移した。


 まずは、強火で加熱する。村の方の家にあるキッチンのガスコンロは、一人暮らしには十分すぎるサイズのもので、火力も強いので、大抵の料理を卒なくこなせる。初めてのマンションのコンロが電熱コンロだったことを思い出す。あれはダメだ。料理らしい料理ができない。


 三十分ほど時間をかけて加熱するとアクがぷくぷくと浮いてくるので、お玉を使って掬い取る。掬っても掬っても浮いてくるアクを取る。取り続ける。無心になって行っていると意外と短い時間で終わったような気がする。


 ここまで四十五分は経っているだろうか。


 アクが浮いてこなくなってきた頃になって、いったん水を捨てる。

 そして、火の通った牛すじ肉を再度洗う。臭みを落とすための重要な工程だ。肉のぷるぷるとしたゼラチン質が手に吸い付くようだ。これが完成した時にはあのプルプルの食感の元になるのだ。


 一度、肉を放置して、自分で育てた大根とにんじんを銀杏切りにする。

 同じく自家製の玉ねぎは、乱切りだ。

 作業の間、コンコンと包丁がまな板を叩く音だけがキッチンに響く。主夫になった気分がするが、たまの料理でそんなことを思うのも失礼かもしれない。

 臭い消し用の、薄切りにしたニンニクと生姜も忘れずに準備した。


 今度は、鍋に顆粒の出汁の汁と調味料を入れる。

 牛すじが崩れないようにゆっくりと沈めて、切った野菜類を続けて放り込み、コンロのつまみを強火になるまで回す。

 水分が沸騰するまで温める。そんなにはかからない。


 沸騰したのを確認して、すぐに弱火に切り替えた。次に必要なのは落とし蓋だ。どこにあるか思い出すのに少しかかったが、台所の棚から落とし蓋を取り出して、鍋に入れるというか被せるというか。ともかく、落とし蓋をする。

 プツプツと泡が立ち始めている。あとは根気よく待つだけだ。


 時間潰しに、ちょっとスマートフォンを弄ろうとして、村の中には電波が来ていないことを思い出してやめた。

 代わりにテレビをつける。


 村で見られる番組は、現代日本の番組と同じではない。知らない人物が出ているトーク番組だった。特に興味があるわけではないが、待ち時間を潰すためにそのよく知らない番組を眺める。

 時折、鍋が吹きこぼれていないかをチェックする。

 それを一時間半ほど経過するまで行うと、煮汁の色が濃くなってきているのがよく分かった。醤油と酒、みりんの甘くて香ばしい匂いが室内に広がっている。


 俺は竹串を出した。肉に刺す。すっと抵抗なく通っていく。

 よし。上出来だ。


 あとは仕上げで、落とし蓋を外し、煮汁を少しすくって、牛すじ肉にかける。これを何度も繰り返すと、肉にとろみがついてきた。てらてらとしたいい色だ。

 火を止めて作業完了。


 牛すじ肉を崩さないように注意深く取り出すのに気を遣う。

 包丁でうまいこと六つに等分して、ひとかけら分を皿に乗せる。残りの分は別の皿に。残りはまた後で食べるが、明日カスミにも食べさせてやろう。


 こうして、牛すじの角煮が完成した。

 冷蔵庫からキンキンに冷えたビールを取り出して。


 いただきます。


 じっくり煮込んだ角煮は柔らかい。熱々のかけらを箸で触れるだけで簡単に切ることができる。

 口に運ぶと、口の中でホロホロと崩れていく。

 甘味としょっぱさのある煮込みタレの味に、確かな牛のコク。我ながら完成度が高い。


 そこへ、おもむろにビールを流し込む。

 苦味と喉越しの爽快感がたまらない。


 今夜は一人っきりだ。

 たまに家に訪れるカスミも、今日は来る気配がない。彼女がいれば確実に室内は華やかになるのだが。


 寂しさを紛らわせるのは、テレビから聞こえるトーク番組の声と、家の外から聞こえてくる虫の音だけ。


 一人だけの寂しい食卓だ。

 だが、そんな日もたまには良いものだった。


 

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